絶対、イヤ。絶対、ダメ。

高宮碧稀

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彼女の片想い*

絶対、ダメ。2

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「ねぇねぇ美夜ちゃん」
この無駄にかわいい上目遣いは……イヤな予感しかしない。なので、返事をせずに素知らぬ顔を貫いた。

「美夜ちゃんの部屋にいってみたいな」
やっぱり。思った通りの言葉が、坂本くんの薄めの唇から紡がれた。
たまに繰り出されるそのおねだりに、ふいっと顔をそむけると、いつも以上にはっきりと告げる。

「絶対、ダメ」

キッパリと断るための勇気がしぼむので、坂本くんの方を見ることができない。でも、予想はしていたので、思ったよりも上手く冷たさを演出できた。
「いっつも、そればっかり」
見なくったって、頬を膨らませてるのがわかる。この人、本当に大学生?
「そっか。そんなに部屋汚いんだ?」
聞き捨てならないその失礼な発言に、思わずばっと顔を上げる。
失礼なっ!!
「ちがっ……」
『う』まで言い掛けて、口をつぐんだ。坂本くんが『おっ?』って感じでこちらを見ている。
「…………っそうよ!」
不本意だけど、仕方ない。坂本くんを部屋に入れることはできないから。
「今、ちがうって言い掛けたじゃん!!」
かわいいかわいい坂本くん。でも、相手にしていられない。

「……じゃ、私帰るから」
話は終わりとばかりに、素早く立ち上がる。
「へぇー、きったない部屋に?」
坂本くんは、童顔で、仕草もかわいいくせに、時々すごくいじわるだ。
「……そうよ!汚い方が落ち着くの」
そう言って、バッグを手にし、まっすぐ玄関に向かう。
後ろからついてくる気配がする。靴をはこうとかがんだとき、後ろから抱きすくめられた。

……私の後ろ姿は。りこちゃんに似ている。

坂本くんが好きなりこちゃんと私は、背も同じくらい。髪型も似ている。髪型は、真似ているわけではないのだけど、かといって切る勇気はない。
それが、坂本くんの好みかもしれないと思うと、バカな私はいつも変化をためらってしまうのだ。
かわいい印象のりこちゃんと、きつい印象の私。顔を見たらすぐわかるんだけど、後ろ姿はよく間違われる。

あとは……そう。
すごく、すごく酔ってるときとか、ね。

「次はいつくる?」
顔は見えないけど、きっと淋しそうな顔をしてるはず。
坂本くんはずるい。私を抱きしめて、りこちゃんを想う。
そのくせに、こうやって、次の約束をねだるんだ。
でも、それを知ってて……
「来週の金曜日。サークルの飲み会だよ」
約束をとりつける私は、きっと、もっとずるい。
「そっか。じゃあ、待ってるね」
ようやく放してくれたので、そのまま靴をはいて振り返らずにドアに手をかけた。

「ねぇ、美夜ちゃん」
呼びかけられたけど、黙ってた。
「…………」
互いに黙ったままで、沈黙が狭い玄関に居座った。振り返るまで、続きを口にする気はないらしい。
ふぅっと、短く息を吐いて、意を決して振り向く。
「……なに?」
なるべく、無愛想に答える。視線を上げると、予想通りの表情だった。よく言う「捨てられた子犬みたい」な?そう、チープな表現だけど、まさにそんな顔。
「来週まで、会えないの?」
そういう顔で、そういうことを言わないで欲しい。
「会えるじゃない。サークルで」
わかってて、そう答えた。
「ちがうよ。そういうことじゃなくて」
そう、夜の相手が出来ないかってこと。 
体だけってわかってるけど、それでも嬉しかった。

でも……うん。そう。
「……ダメ」
だって、どんどん欲深くなってしまうから。
私は、坂本くんのことに関しては堪え性がない。理性も働かず、いつもより我慢がきかず、すぐに夢をみようとする。
そう、坂本くんといると、私は世界一愚かな女の子に成り下がる。
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