絶対、イヤ。絶対、ダメ。

高宮碧稀

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彼女の片想い*

絶対、ダメ。3

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私が坂本くんの部屋を訪れるのは、決まってサークルの飲み会の後。だれも、私と坂本くんがこうして会ってることを知らない。
頻繁に会ったら、みんなにばれてしまうかもしれない。
気づかせたりなんか、しない。
そんなことには、絶対にさせない。
それは……終わりを意味しているから。

だって、私はりこちゃんのかわりだもの。坂本くんがりこちゃんのこと好きだって、みんな知っている。
顔はともかく、背格好がりこちゃんと似ている私。みんなに知られたら、思い知らされる。
それでも関係を続けるなんて、私にはきっとできない。可哀想にと、そんな風に思われながら坂本くんのそばにはいられない。
だって、一番わかっているから。
私が、一番知ってるから。
坂本くんが見てるのは、私じゃないってこと。

でも。頻繁に会えないのは、本当はそれだけじゃない。

時々、錯覚する時があって。いつもからむ指とか、そっとなでられる髪とか、覗き込むその瞳が、あまりにも優しくて。
もしかしてって心臓が騒ぐ。

ちがう。
私はりこちゃんのかわりだから。

そう言い聞かせても、熱を持った自分の指も、髪を梳かれてはねる自分の鼓動も、全然信じてくれない。勘違いしている体中を、唯一真実を知っている私の心が必死になって止める。
会えば会うだけ、都合のいい主張を続ける体中が、心を蝕もうとする。
浸食をくい止めるためには、自分自身を根気強く言い含めなければならない。そのためには、ある程度の時間が必要だった。

本当は、私のことを少しは好きかもなんて。そんな、都合のいい妄想を、必死に打ち消して。坂本くんがしかける、ちょっとくらい甘い誘惑を、勘違いしないように。
心を殺して、また私は訪れる。
次の飲み会まで、たっぷり時間をかけ、自分を戒めて訪れるのだ。
コーヒーの匂いとともに、私の心を切ない思いに満たす、この部屋へ。
苦い、苦いコーヒーが、私の心をいつも苛むの。

私は、コーヒーが飲めない。

「次の、飲み会の後に」
言い聞かせるようにつぶやいた。自分自身と坂本くん、両方に言い含めるように。
相変わらず淋しそうな顔をしていた坂本くんは、不意に右手を伸ばして私の頬をつつく。やめて欲しい。胸が、騒ぐから。
「わかった。待ってる」
つついた頬を、そのまま人差し指の背でなでる。今日は、なんだかスキンシップが多い。
いつもは、ベッド以外では髪を触るくらいなのに。だから、ますます髪を切れないのだけれど。

「明るい道を、通って帰って」
「うん」
頬から手を離して、やっといつも通りの言葉をかけてくれる。
「部屋に入ったら、連絡して」
「……うん」
これも、いつも通り。遅いから絶対に送るという申し出を、断固拒否して取り付けられた、坂本くんからの妥協策。
坂本くんは、時々意地悪なのに、今日も優しい。

いつか、この瞳にりこちゃんを映すかもしれない。
その時、きっと坂本くんの心の隅にだって、私は残りはしないと思う。
今だって、坂本くんはりこちゃんのことばかりを想ってる。
私は、その代わりでしかない。
後姿が似ているだけの、代わりでしかない。
趣向を凝らして出され続ける、苦い、苦い、コーヒー。
私は、いつも、一口分だけ喉を通すために唇をカップにつける。

私は、コーヒーが飲めない。
ねえ、坂本くん。
ブラックコーヒーを好むのは……りこちゃんなの。
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