絶対、イヤ。絶対、ダメ。

高宮碧稀

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彼女の片想い**

イヤ、絶対。5

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「坂本くんなんて……」

『だいっきらい』

ウソでも言えない。
そんな自分がイヤになる。
瞬きしたら涙が落ちてしまいそうで、じっとこらえた。
「…………バカ」
精一杯の、悪態。なのに、坂本くんはなぜかホッとした顔をした。
「それって、少しは…僕のこと考えてるってこと?」
『僕』に言い直してる。耳をかじってやったから、ちょっと冷静になったのかもしれない。
「……他に……何も、考えられないくらい激しくスルくせに」
だからいつも、勘違いしないように自分を諌めてこの部屋を訪れるのが大変なのに。
なのに自分は、他の女の子を好きなくせに。
坂本くんに私を責める権利なんてない。
本当は、望んでこの関係を続けてる私にも……ないけど。

坂本くんが、目を見張った。
耳に歯型がついているのがみえて溜飲がほんの少し下がった。
そこまで髪が短いわけじゃないから、多分ごまかせると思う。
「……美夜ちゃん、それって……煽ってる?」
煽ってる?
バカ。非難してるの。
「ベッド行こう。僕のことしか考えられないくらいに、えっちなこといっぱいしよう」

坂本くんは、ずるくて、残酷で、欲張り。
他の人を想っていても、私を支配したがるらしい。

急に元気になって、坂本くんが生き生きと動き出した。
足を不意に戻すから、支えを失って坂本くんの胸に抱きとめられた。
そのまま、ほぼ抱え込むようにされて部屋の中に招き入れられる。
『全部後回し』と言わんばかりにベッドに連れ込まれた。
『え、シャワーは?』と思ううちには押し倒されて、すぐに上から押さえ込まれて……
「キス、したい」
いつもみたいに疑問系じゃなくて、頬やまぶたに口づけながら髪を梳き、ハッキリと要求される。
実は、お伺いを立てられるより、こういう言い方に弱い。
知られたらまずい情報だ。
だって、本当は私も坂本くんと唇を重ねたいから。
頷いてしまいそうになるのを、自制するのは至難の技なのだ。

顔を背けて答えをかろうじて示す。
そうすることで、差し出すことになった首筋。
そこにあるキスマークに、また坂本くんが唇を乗せたのがわかった。
髪を下ろしておくだけじゃ、きっと見えてしまう。
あからさまな絆創膏なんて、実物を見せるよりも何があるかを如実に語るのだろう。
実に楽しそうに印の上書きを繰り返している。
その間にも、私の服の構造を私より知ってるんじゃないかと思うくらいの手早さで私を暴いていく。

坂本くんは順調に私の体を翻弄する。
鎖骨を唇でくすぐって、手で胸のふくらみをすくい上げ、頂を口に含んで、いつもここで優しい支配者の顔つきをして私を見上げる。
乾ききっていなかった涙が、目尻からこめかみを伝って耳に流れた。
「……イヤ?」
坂本くんが別れ際のような淋しいって表情を作るから、うんって言えたら楽なのに、欲望に忠実な私は首を振ってしまう。
ただ、耳に忍び込んだ涙の雫が不快だった。
坂本くんの唾液より、自分が分泌した涙の方が異物感があって不快だなんて……
どこまでも滑稽な自分に軽く幻滅しながらも、想い人の手や唇や、湿った生き物みたいに動く舌に溺れた。

甘い責め苦が、今日も始まった。
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