絶対、イヤ。絶対、ダメ。

高宮碧稀

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彼の片想い***

名前呼んで。2

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美夜ちゃんを怯えさせたくないのに、怒気を抑えられないまま部屋に到着してしまった。
彼女が好きだというその相手を問い詰めてしまわないように、駅まで向かう途中に平静を取り戻したと言うのに。
デート気分を味わえるかもなんて淡い期待すらして、むしろ機嫌よく美夜ちゃんの向かいに座るはずだったのに。
気を遣わせて、美夜ちゃんにたくさんしゃべらせてしまった。
その内容すら邪推して、独占欲が後から湧き出る。
美夜ちゃんが嫌がってるのを知っていて、手まで繋いで離さないでいる。

部屋のカギを開ける時、ずっと前から用意していた合鍵の存在を思い出した。
2回目の夜を過ごした次の日、すぐに用意した合鍵。
あまりに急ぎすぎては逃してしまうと思って、5回目の逢瀬を数えて渡した。
もちろん受け取ってもらえなかった。その後も、数回。
そのことを思い出してるうちに、隙あらば逃げようとしていた美夜ちゃんの手が、そっと逃亡をはかる。
あわてて繋ぎとめた。

「……合い鍵渡すから、今度から部屋で待って」
美夜ちゃんの手に、強張ったような力がこもった。
「……イヤ。……絶対」
また、お得意の拒絶の言葉。
そしてまた、お決まりの『絶対』だ。
たまらなくなって、苛立ちと悲痛をぶつけるように玄関で彼女を強く抱きしめた。

片手ではかき抱きにくいけど、恋人のように絡めた指を解くのは惜しかった。
美夜ちゃんが、ドリンクのカップを気にしたのがわかったので、自分の背中にあるシューズボックスの上に邪魔者を片付ける。
吸い込んだ優しい香りは、クラクラとめまいを感じるくらいで、理性が欲望を抑えきれない。
美夜ちゃんが僕の胸を押し退けようと、弱々しい力で抵抗を試みている。
わがままなお姫様だ。
「……しばらくこのままがいい。手、後ろに回して」
絶句して動かない美夜ちゃんに構わず頬に口づけた。
いっそ唇を奪ってしまいたかったけど、なんとかこらえて耳を犯す。
「ふっ……ん、やぁ……」
好きな人のこんな声を聞いて、かわいい耳を口に咥えて、ついには背中に手を回させることに成功して。
美夜ちゃんを味わうにはふさわしくない場所だとしても、とてもやめる気にはならない。
「さか、も……くん……もぅ、やぁ……」
唇を噛んで、それでもがまんできずにいやらしい吐息の合間に非難めいた言葉を漏らす美夜ちゃんの理性も…ドロドロに溶けちゃえばいい。

耳に頬に首筋にと存分に味わって、誘惑に負けて見えるところに強く吸い付いて赤い花を散らした。
綺麗について満足して、笑みが漏れたのが自分でもわかる。
もちろん、美夜ちゃんが行為の跡をつけられるのを嫌ってるのは知ってるけど。

かまうものか。

美夜ちゃんには、こんなことをする相手がいるって。それが、僕だって。
本当はいつでも、すべての人にだって言ってやりたいくらいなのだ。
案の定、ちょっとご機嫌ナナメに、そしてだいぶ困ったように、僕の大事な人がそれをたしなめた。
美夜ちゃんはいつもキスマークを嫌がる。
考えたくないけれど、見られたくない人でもいるのだろうか?

「だれか、見られたくない人でもいるの?」
そう問えば、当たり前と言わんばかりの顔で、でも答えは口にしない。
「ねえ、だれに見られたくないの?」
手を繋いで、美夜ちゃんの体重を預かって、跡をつけて。
全部僕に与えられた特権だと思いたいのに、1番欲しい美夜ちゃんの心が手に入らない。
「さ、かもと……くん、もう少し、はなれ……」
互いの鼻をすり合わせて、唇も、触れてしまいそうな距離で、ただただ自分の願望を美夜ちゃんに告げる。

「キスしたい」

瞳を閉じて欲しい。
顔を傾けて、そっと唇を緩めて欲しい。
僕の指に、唇に、気持ち良さそうに答えるくせに。
好きな人としかしないというキスを、いつまでたっても許されない。
僕を、まだ好きじゃないの?
なぜ、君を好きな哀れな僕に、キス以外を許すの?
ねえ、美夜ちゃん。ねえ……

「……美夜ちゃん、好きな人がいるって本当?」
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