絶対、イヤ。絶対、ダメ。

高宮碧稀

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閑話**

五十嵐くんは空回る。2

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ああ、違う。そんな顔をさせたいんじゃない。
ただ、りこちゃんには幸せになって欲しくて。その幸せを自分が与えられる気はしなくて。
泣きそうな彼女を慰めたくて、でも決して手を伸ばせないジレンマにどうにかなりそうで……言葉にならない声を発しながら飛び起きた。
昨日のりこちゃんの言葉と表情が、俺をさいなんでいる。

『私、五十嵐くんのこと、好きです』

そう告げた彼女に、俺は応えられない。
迷うことなく俺を見据えて、ちょっと緊張してるのすら可愛さを損なわない。
外見だけじゃなくて、中身も俺を惹きつけて止まないってのには、言葉を交わして初めて気がついた。
そこからは、彼女を遠目に観てはしゃいでた気持ちに、苦しさや切なさも迫って来て。本当に恋ってやっかいだ。
こんなに好きなのに。いや、こんなに好きだから。
りこちゃんには拓眞をお勧めしたいんだ。薄っぺらな俺なんかじゃなくて。

『それ……拓眞に言ってやってよ……喜ぶから。拓眞は本当にいい奴で……』

言いかけた俺の唇が、ちっちゃいのに柔らかい、重ねた彼女の両手から強く押さえ込まれた。
こんな時なのに、りこちゃんの甘いフレグランスでめまいを起こしそうなほど身体中が囚われる。
強い視線で一番近くから俺を射抜いてるその瞳に、見る間に透明の膜が張っていく。

『五十嵐くんが、他の女の子を好きだっていうなら仕方ない。でも、ここで他の男の子を勧めるなんて……』

瞬きに耐えきれず、頬を伝うりこちゃんの涙を舐めとって、抱きしめたかった。
でも、どうしてもできなくて……

『私の想いを、これ以上バカにしないで』

それだけ言って踵を返して、でも、足取りはゆっくりと離れていくりこちゃんの小さな肩や背中。
追いかける資格もない俺は、拷問のように長いことそれを見ていた。
辛うじて喉元で押さえ込んだ『俺も好き』って言葉と、寸前で堪えためちゃくちゃに彼女を抱きしめそうになった両腕。
でも、りこちゃんが触れた唇が熱く熱を持つのは止められなかった。

それから、2日。本音を言えば、もう少し間を置いてから会いたかったけど、りこちゃんの姿を見たいって欲には負けて飲み会に参加した。
今日は珍しく2次会での雰囲気に酔い出したこの時間にも、拓眞がいる。
最近、もっと早い時間に帰ってしまうのだ。
バカな。ありえない。ほろ酔いのりこちゃんを見ずに家路を急ぐなんて!
でも今日は珍しくりこちゃんの近くに陣取って話してる。喜ばしいはずなのに、胸がチリチリする。
そっとして置いたほうが絶対にいいのに、酔ったせいにして、足は2人の方へ向かってしまった。

「拓眞、りこちゃんといい雰囲気醸し出しやがってー!やっと長年の思いが実るじゃん!」
そんな軽口で拓眞の隣に座った。りこちゃんの方は見れなかった。
「……未だに坂本くんが私を好きだなんて勘違いしてるの、五十嵐くんだけだよ」
りこちゃんの声が、苛立ちと怒りを含んで響く。その奥に、悲しみが滲んでいる。そうさせたのは自分だと思うと、内心焦って口が滑った。
「りこちゃーん!そんなつれないこと言わずに拓眞のこと考えてやってよ!長年の片思いなんだから」

自分でも、しまったと思った。『私の想いをバカにしないで』と言った彼女に、同じようなことをまた重ねてしまった。
「もしそうだったとしても、余計なお世話」
ああ。りこちゃんが悲鳴をあげている。俺の言葉に傷つけられて。
彼女が好きになってくれたのは、なんで俺なんだろう?好きな女の子を傷つけてばかりの、こんな情けない男は、改めてりこちゃんにふさわしくないと思う。
「トイレ行ってくる。坂本くん、五十嵐くんの誤解ちゃんと解かないと、後悔することになるからね」
そう言って席を立ったりこちゃんの声が震えてることに、気がつかない拓眞が不思議だ。
追いかけたら、りこちゃんも拓眞のよさにほだされるかもと思ったけど……どうしても勧められなかった。
自分のせいで涙をこらえてる女の子を、他の男に任せるのがたまらなく嫌だった。
本当はただ、りこちゃんの弱った姿を誰かに見せたくないって歪んだ独占欲だってのは、ちゃんと自覚してる。
なのに拓眞は、他の子が好きだと、りこちゃんじゃないんだとバカなことを言った挙句、またもや途中で消えてしまった。

そんなわけねーよ。だって、世界一可愛いりこちゃん以外の誰を好きになるってんだよ。
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