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閑話**
五十嵐くんは空回る。 1
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その時……『見つかってしまった』と、そう思った。
「今の子、誰か………知ってる?」
拓眞がそう言って、他のヤツが答えた。
「俺わかる!『りこちゃん』だよ!『りこちゃん』って子!」
胸が、嫌な音を立てた気がした。見つかってしまった。拓眞にだけは知られたくなかった。
拓眞がじっとみている方を振り返ると、りこちゃんらしい後ろ姿が階段に吸い込まれていくところだった。
『だれ?なに?』
『りこちゃん!この駅近くの女子高の』
数人がそう話していても、彼女が消えた方向をじっと見つめる親友に、嫌な予感は確信へと姿を変える。
きっと、拓眞はりこちゃんを好きになると思った。
りこちゃんは、俺たちが乗り換えるこの駅最寄りの高校に通っている。
一言では語りつくせない。無理やりまとめると……すっごく可愛い。
笑顔が可愛い、困った顔が可愛い、膨れた顔も可愛い。
話したことなんてなくて、いつも遠目にながめているだけだけど、たまたますれ違いざまに聞いた声まで可愛かった。
いつも乗り換えの間に、ソワソワと見渡してしまうのは、俺の落ち着きがないとかじゃなくて、りこちゃんの姿を一目見たいからだ。
りこちゃんは、ごくたまに早い時間に登校している。
運良く彼女を見ることができた日は、朝から奇跡が起きた気がして無敵な気分になるのだ。
その日も、俺は先頭でキョロキョロして改札に向かう群れを見ていた。まさかりこちゃんが後ろに現れたなんて思わなかった。
数人のグループの1番後ろを歩く、拓眞の落し物を届けてくれたらしい。
後ろからなんて、失敗した。せっかくのチャンスだったのに。
りこちゃんを見たかった。話したかった。名乗って名前を覚えてもらいたかった。
その願望全部を合わせたものと同じくらい……拓眞にだけは隠しておきたかった。
拓眞とは中学の時からの付き合いだ。歳よりちょっと幼い拓眞を、俺はずっと、ちょっとだけ侮って接してた。
見下すってほどじゃなくて、なんていうか、弟みたいな感じだ。
中学3年生まで自分のことを『俺』と言っていたのに、急に『僕』なんて言い出した時にはしばらく『ボクちゃん』と呼んでいた。だって『え?逆じゃなくて?』と。
恥ずかしくなって『俺』とか『アニキ』とか『オフクロ』って呼び出したならともかく。
だけど拓眞は『ボクちゃん』と呼ばれても気にする様子はなかった。
いつだったか、2人きりになったタイミングで尋ねたことがある。
「なんで急に『俺』から『僕』になったんだよ?」
事もなげに返ってきたのは、祖母の相手をしてるという話。
「僕のことを、じいちゃんだと思ってるんだよ。じいちゃんが、自分のことを『僕』って言ってたからね」
日々、現実と過去と夢を行ったり来たりする祖母が、少女のように亡き祖父の名を呼ぶ様子。
それを見て、わざわざ目を覚まさせる必要はないと思っているらしい。
うっかり間違ってしまわないように、普段から『僕』と口にするようにしたとのことだった。
「歳を重ねてさ、もういないじいちゃんに、また恋してるんだよ。それってなんかいいよね」
自分の身内のことだからか、少し気恥ずかしそうにそう言った。
「それに付き合ってたらさ、なんとなく、僕もいい恋愛が巡ってきそうじゃない?」
そう続けた拓眞を『夢見がち』と軽くいじったけど、本当は祖母や未だ祖母に想いを寄せられる祖父への敬愛が伺えて、ちょっと負けた気になった。
要所要所で、拓眞は俺の築き上げた自尊心を揺るがす。
その度に拓眞と比べて自分と向き合って、自分を見つめ直して前に進む。
親友だって思ってるけど、その実、拓眞をちょっと尊敬して一目置いてたりするのだ。
だから、拓眞がりこちゃんを好きになったなら仕方がないって思った。
応援するしかないし、りこちゃんもきっと拓眞を好きになる。
だって、俺がちょっと尊敬する男と、すっごく好きになった女の子なんだから。
高園には悪いけど、仕方ない。
彼女はきっと拓眞が好きなんだと思う。
たまに、拓眞とりこちゃんを、泣きそうな雰囲気で見てるから。顔にはあんまり出てないけど、なんとなくそう思った。
でも、仕方がないんだ。
だって、俺が好きになったりこちゃんの可愛さは尋常じゃないからな。
「今の子、誰か………知ってる?」
拓眞がそう言って、他のヤツが答えた。
「俺わかる!『りこちゃん』だよ!『りこちゃん』って子!」
胸が、嫌な音を立てた気がした。見つかってしまった。拓眞にだけは知られたくなかった。
拓眞がじっとみている方を振り返ると、りこちゃんらしい後ろ姿が階段に吸い込まれていくところだった。
『だれ?なに?』
『りこちゃん!この駅近くの女子高の』
数人がそう話していても、彼女が消えた方向をじっと見つめる親友に、嫌な予感は確信へと姿を変える。
きっと、拓眞はりこちゃんを好きになると思った。
りこちゃんは、俺たちが乗り換えるこの駅最寄りの高校に通っている。
一言では語りつくせない。無理やりまとめると……すっごく可愛い。
笑顔が可愛い、困った顔が可愛い、膨れた顔も可愛い。
話したことなんてなくて、いつも遠目にながめているだけだけど、たまたますれ違いざまに聞いた声まで可愛かった。
いつも乗り換えの間に、ソワソワと見渡してしまうのは、俺の落ち着きがないとかじゃなくて、りこちゃんの姿を一目見たいからだ。
りこちゃんは、ごくたまに早い時間に登校している。
運良く彼女を見ることができた日は、朝から奇跡が起きた気がして無敵な気分になるのだ。
その日も、俺は先頭でキョロキョロして改札に向かう群れを見ていた。まさかりこちゃんが後ろに現れたなんて思わなかった。
数人のグループの1番後ろを歩く、拓眞の落し物を届けてくれたらしい。
後ろからなんて、失敗した。せっかくのチャンスだったのに。
りこちゃんを見たかった。話したかった。名乗って名前を覚えてもらいたかった。
その願望全部を合わせたものと同じくらい……拓眞にだけは隠しておきたかった。
拓眞とは中学の時からの付き合いだ。歳よりちょっと幼い拓眞を、俺はずっと、ちょっとだけ侮って接してた。
見下すってほどじゃなくて、なんていうか、弟みたいな感じだ。
中学3年生まで自分のことを『俺』と言っていたのに、急に『僕』なんて言い出した時にはしばらく『ボクちゃん』と呼んでいた。だって『え?逆じゃなくて?』と。
恥ずかしくなって『俺』とか『アニキ』とか『オフクロ』って呼び出したならともかく。
だけど拓眞は『ボクちゃん』と呼ばれても気にする様子はなかった。
いつだったか、2人きりになったタイミングで尋ねたことがある。
「なんで急に『俺』から『僕』になったんだよ?」
事もなげに返ってきたのは、祖母の相手をしてるという話。
「僕のことを、じいちゃんだと思ってるんだよ。じいちゃんが、自分のことを『僕』って言ってたからね」
日々、現実と過去と夢を行ったり来たりする祖母が、少女のように亡き祖父の名を呼ぶ様子。
それを見て、わざわざ目を覚まさせる必要はないと思っているらしい。
うっかり間違ってしまわないように、普段から『僕』と口にするようにしたとのことだった。
「歳を重ねてさ、もういないじいちゃんに、また恋してるんだよ。それってなんかいいよね」
自分の身内のことだからか、少し気恥ずかしそうにそう言った。
「それに付き合ってたらさ、なんとなく、僕もいい恋愛が巡ってきそうじゃない?」
そう続けた拓眞を『夢見がち』と軽くいじったけど、本当は祖母や未だ祖母に想いを寄せられる祖父への敬愛が伺えて、ちょっと負けた気になった。
要所要所で、拓眞は俺の築き上げた自尊心を揺るがす。
その度に拓眞と比べて自分と向き合って、自分を見つめ直して前に進む。
親友だって思ってるけど、その実、拓眞をちょっと尊敬して一目置いてたりするのだ。
だから、拓眞がりこちゃんを好きになったなら仕方がないって思った。
応援するしかないし、りこちゃんもきっと拓眞を好きになる。
だって、俺がちょっと尊敬する男と、すっごく好きになった女の子なんだから。
高園には悪いけど、仕方ない。
彼女はきっと拓眞が好きなんだと思う。
たまに、拓眞とりこちゃんを、泣きそうな雰囲気で見てるから。顔にはあんまり出てないけど、なんとなくそう思った。
でも、仕方がないんだ。
だって、俺が好きになったりこちゃんの可愛さは尋常じゃないからな。
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