絶対、イヤ。絶対、ダメ。

高宮碧稀

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彼女の片想い****

絶対、ヤダ。2

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「本当に、ほんっとーに、帰るの?」
坂本くんが、すっごく不満そうにこちらを見ている。
深夜という時間すら過ぎた今の時間、空が白み始めるのも時間の問題だ。
「……帰る」
決意が揺らいでしまいそうで、坂本くんの目が見れなかったから、視線は下げたまま。
「もういっそ、朝までいればいいのに!危ないし!」
部屋で繰り返した会話がまた始まる。
「そう思うなら、今度からもっと手加減して……」
語尾が勢いを失って、玄関の重い空気に溶けた。

「ごめんね。手加減は、今度からやめるつもり」
キッパリと言われてしまった。
部屋と変わらないその主張に、体力づくりにウォーキングくらいしなきゃかな、なんて思った。
「本当に、途中までも付いてったらダメ?」
そんなしゅんとした声を出さないでほしい。こちらが悪いことをしている気になってしまう。
「ダメ……」
「……『絶対』?」
先に言葉を取られてしまう。わかってるなら言わないでほしい。
「もうこの時間なら、誰にも見られないと思うけど」
心なしか声のトーンが下がった気がして、つい視線を上げてしまったけど、今度は坂本くんが視線を外したのでそれが絡むことはなかった。

「……じゃあさ。もう今日は引きとめないから、お願い1つ聞いてよ。美夜ちゃん」
『美夜ちゃん』に、戻ってるし。……別に呼び捨てにしてほしいわけじゃないけど。
「お願い?なに?」
聞いてから思った。『キスはしない』と『部屋には招かない』って先に言えばよかった。
「映画観に行かない?」
「………………ヤダ」
意外なお願いだったから、反応が遅れてしまった。
映画は好きだから、どうしても観たいものは1人ででも足を運ぶ。
ちょっと思い浮かべて、あんな恋人同士だらけのところに坂本くんとはいけないって思った。
「やっぱり?そう言われると思った」
じゃあ、なんで聞いたの?そんな表情が隠せなかったんだと思う。

「じゃあさ、美夜ちゃんが好きな監督の映画が公開されるよね?あれ、僕と観よう?映画館じゃなくて部屋でいいから。それまで待つから」
映画が嫌なのは、サークルの誰かに見られたくないから。
それから、恋人っぽいところに行って、恋人っぽいことをして、特別な女の子だなんて期待したくないから。
それでいうと、お部屋デートだって十分恋人っぽいのだけど……映画がお部屋で観られるようになる、そんな先の約束。その魅力には勝てそうにない。
「わかった。……いい、よ」
せめて、強がってまるで渋々了解したように振る舞う。

「本当?絶対だよ!約束したからね」
そうはしゃぐように話す、大好きな声は、くぐもったように耳に届いた。
いつの間にか、正面から抱きしめられてる。
坂本くんの香りが、脳を痺れさせるように支配して、抵抗なんてできずにされるがままだ。情けない。
「1人でか、女の子とは観ていいけど、男は全部断ってね?数人でも、男がいたらダメ!わかった?」
そんな、独占欲めいたことを言わないで。そんな軽い苛立ちも。
「僕と室内デートで観るんだから。ね?」
そんなに可愛く『ね?』なんて言われたら、霧散する。
それに、坂本くんが『室内デート』って言ったのにも心臓が跳ねて、治めるのに忙しい。
それが、オモチャへの独占欲だったとしても。私を独り占めしようとする想い人に、身体中が歓喜して、勘違いして、期待する。
今回は、落ち着くまでに、本当に時間がかかりそうだと覚悟した。

私がお願いを聞く義理なんて何にもなかったって気づいたのは、坂本くんを決して招きたくない、自分の砦に着いてから。
相当、冷静さを欠いていたらしい。
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