絶対、イヤ。絶対、ダメ。

高宮碧稀

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閑話***

青木くんは砕け散る。2

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中高はバスケ部で、一応レギュラーだった。
そこまで体格に恵まれてもいなかったから、レギュラー落ちの危惧はいつもついて回った。
試合の進捗が芳しくなければ誰よりも早く交代させられたし、次の試合に温存したい選手がいるような時には、最後までシューズを鳴らして走った。
ちょっと視野が広かったことが自分の地位を守っていただけだった。

そんな俺が、膝を壊してコートに立てなくなった時……きっとみんな辞めると思っただろう。
だけど、そうはしなかった。
バスケが好きだからとか、みんなのサポートがしたいとか、そんな偽善めいた理由なんかじゃなく、単に諦めが悪かっただけだ。
自分が自信を持っていた分野。俺を、器用に立ち回らせていた情報収集や観察力、分析力を伸ばして、披露して、評価されたかっただけだ。
その自己顕示欲は十分満たされ、区切りもついたからと、大学でまでバスケをやろうとは思わなかった。
膝を痛めてからは体力的に疲れることは減り、余裕もできた。
映画を家で観たり、話題の本を読んでみたりもしていたので、ゆるいインドアサークルは最適だった。

そして、惹かれたのは美夜先輩。
凛とした空気はなんていうか……清潔感があって、でも飲み会でたまにふにゃりと笑ったり、眠そうにしているのがたまらなかった。
知らないことには素直に感動し、いろんな人に気を使って、さり気なく寄り添っている。そしてそれを全然おごらない。
きちんとした家族に、きっと手をかけて育てられて、そしてそれを当たり前と思わずに感謝できる人なのだと思う。……想像だけど。
坂本先輩はいけ好かないけど、美夜先輩を本気で好きなところは趣味がいい。

「……高園先輩が好きだって言ってた監督の前売り券あるんです!一緒にどうですか?他の映画の話も聞きたいし……」
坂本先輩のいやらしい牽制は無視して、一人の美夜先輩を捕まえた。びっくりして振り返って『あ……サークルの……』なんて言う。
名前をきっと覚えられていない。
……軽くダメージ。
論外の空気を感じ取って、パニックになる。顔に熱が集まって、舌が上手く回らない。いやいや、わかっていたはずだ。
……頑張れ俺。

ちょっとの思案の後、否定の言葉を突きつけられた。
「ごめんね。一緒に観る人、もう決まってるの」
自分でも顔が取り繕えなかったのがわかる。断られた事じゃない。『一緒に観る人』と聞いて、坂本先輩しか浮かばなかった。
十分へこんでるってのに、美夜先輩はさらに追い討ちをかけてくる。俺の事をそんな風に考えられないって分からせにかかる。
冷たい優しさ。
美夜先輩らしいなんて、言ったら不快だろうか?

「……長く好きな人がいるって、本当ですか?」
そんな噂は耳に入ってた。坂本先輩も言っていた。
『絶対俺の事、敵じゃないとか思ってるくせに、釘刺しにくるなんてヒマですね』って嫌味に『美夜ちゃんが歳下好みじゃないとは言い切れないし……長く誰かを想ってるらしいから、そいつ以外はせめてきっちりと潰しておきたいんだよ』なんて返された。
……勘弁してよ。

「うん。たぶん、その人以外好きになれないから。チケットがあっても、気軽にでも、お試しでも、異性とはいかないかな。映画」
そう話す顔を見て、確信した。
美夜先輩が長く片想いしてるのは……間違いなく坂本先輩だ。
美夜先輩は、坂本先輩と慎重に距離をとる。
坂本先輩が発した声に、みんなが顔を上げても、振り返っても、美夜先輩はそうしない。
坂本先輩の声なら、どんなに小さくても、短くても、聞き分けられている証拠。
そして、坂本先輩の声を、気配を、感じ取った時は決まって今みたいな顔をするんだ。
ここに坂本先輩はいないのに、美夜先輩は坂本先輩を想ってる。培った洞察力に絶望する日が来るなんて思ってなかった。

「それって……坂本先輩ともですか?」
自分の中で確信したその問いを口にした。びくりと震えて、息を飲む先輩は小動物みたいだ。あわててしらばっくれて、五十嵐先輩の名前なんかだしてくる。全然上手くかわせていない。
……かわいー。
『映画館に2人で行く予定はないけど』なんて、映画館以外の予定はあるって事と同義だと思う。
あー、くそ。かわいい。せめてデートしてから玉砕したかったなんて、贅沢だろうか。せめて坂本先輩も振られろなんて、叶わない願いだろうか。
映画、誰と行こうか。あーくそ。
……坂本くたばれ。
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