64 / 113
彼女の片想い*****
ヤダ、絶対。4
しおりを挟む
それからは、しばらくゆっくり目に登校した。
『たくまくん』を見ることができたのは、帰りだけだった。それだって、こっそり後ろ姿を眺めるだけ。
笑った顔が見たい。
声を聞きたい。
でも、恥ずかしくて。
だって、朝一番からボサボサに乱れた髪をして、だらしがない子だって思われたかもしれない。人が聞いたら、それくらいっていうかもしれない。
しかも『たくまくん』が、ちょっと落とし物を拾ってくれた子を気にかけてるわけなんかないし。
でも、自意識過剰だとわかっているけど、そんな小さなことが私の調子を狂わせた。
恋って、だいぶ厄介らしい。
「っあの……っ」
男性の声に、振り返る。『たくまくん』の学校の制服で、胸のあたりがきゅっと縮んだ。でも、知らない人。
顔を赤くして、手に何かを握りしめて、緊張で声を震わせて。
すぐに、その手のお話かなって思った。つまり『お付き合いしてください』とか『連絡先を知りたい』とか。
手に握ってるのは連絡先を書いた紙かな、なんて冷静に思う。
構えたり、つられて緊張したりせずに眺めてられるのは、慣れたから。
それでも、今日はいつもよりドキドキしてしまった。
ただ、制服が『たくまくん』を思い出させたってだけで。
時間をずらしての登校は、数ヶ月続いていた。
「……あっ?……すみませんっ!間違えました!」
ほら、ね。私と後ろ姿が似ている同じ学校の女の子。
彼女と間違えて、こんな風に声をかけてくる人は少なくなかった。なにせ、彼女はとっても可愛いのだ。
あまりに間違える人が多いので、慣れてしまった。男性だけじゃなく、友人らしき女の子すらよく後ろから声をかけてくる。
何度か彼女に声をかけようかと思ったけど、彼女は私を知らないと思うし、やめておいた。
間違われないようにと、一度髪を切ったけど……なんの因果か、数週間後に彼女も偶然カットしてきた。
諦めて、 今は好きなようにしている。
自然と似通った髪型のままなので、どちらかが気まぐれに髪を切るまでこの状態は続きそうだなって、去って行く男子高校生の背中を見ながら思った。
人間違いの高校生をなんとなく見送っていると、その人が同じ制服の男の子を追い越した。
視界に入ったので、意識せずに眺めて……心臓が音を立てて冷えた。
追い越されたのは『たくまくん』で、自販機に立ち止まっている。
ドリンクを購入するようで、軽く迷った後にコインを入れてボタンを押した。ガコンッと鈍い音を追いかけるように軽くかがみ込んでいる。
会いたくなかった。
でも……とっても会いたかった。
出会いをやり直したくて、思わず近くに歩み寄る。声なんて、かけられるわけないのに。
視線は外せないままバッグから財布だけなんとか取り出して、次に購入するふりをして近づく。
心臓がこんなに早く強く脈打つなんて知らなかったけど、そんな中で打算的に行動できた自分を後で密かに自賛した。
かがんでるから『たくまくん』の後頭部が見える。髪は柔らかそうで、触ってみたくなる。……叶わない夢だけど。
ちょっと時間がかかりながら、彼が自販機からドリンクを引っ張り出した。
びくりと華奢な体が震えて、小さな声が漏れ聞こえる。
「……っ、熱っ!?……あー、間違えた……」
自分が選んだディスプレイをもう一度確認しているようだ。冷たい飲み物を購入したかったのに、間違えてしまったらしい。
相当熱いらしく、両手で代わる代わる持ち直している。
考えるより先に、声をかけようと口を開いたけど……なんて言えばいい?急に話しかけて、変に思われない?迷惑にならない?気持ち悪がられない?
そう怖気付いた時、前に立つ『たくまくん』のバッグに、赤いお守りが付いているのが目に入った。
つけ直してる。紐をわざわざ変えて、しっかりと取れないように。
やっぱり大事な物だったんだ。よかった。無駄じゃなかった。
そう思うと、見られたボサボサの髪だってどうでもよくなった。それでも届けられたことが誇らしかった。
「……っあのっ!」
やだー!声が裏返っちゃった!そう思ったけど、勇気がしぼむ前に次を口にする。
「……私、ちょうど、それを買おうと思ってて……!」
嘘だけど。何の飲み物かすらイマイチ見えてないけど。ホットの何かとしかわかってないけど。
『たくまくん』が振り返る前に言い切った。彼の目を見て話す自信なんてなかったから。
何とか言いたいことは伝わったと思うから、固まって不審に思われることだけは避けられそうだ。顔を上げることはできなかったけど。
『たくまくん』を見ることができたのは、帰りだけだった。それだって、こっそり後ろ姿を眺めるだけ。
笑った顔が見たい。
声を聞きたい。
でも、恥ずかしくて。
だって、朝一番からボサボサに乱れた髪をして、だらしがない子だって思われたかもしれない。人が聞いたら、それくらいっていうかもしれない。
しかも『たくまくん』が、ちょっと落とし物を拾ってくれた子を気にかけてるわけなんかないし。
でも、自意識過剰だとわかっているけど、そんな小さなことが私の調子を狂わせた。
恋って、だいぶ厄介らしい。
「っあの……っ」
男性の声に、振り返る。『たくまくん』の学校の制服で、胸のあたりがきゅっと縮んだ。でも、知らない人。
顔を赤くして、手に何かを握りしめて、緊張で声を震わせて。
すぐに、その手のお話かなって思った。つまり『お付き合いしてください』とか『連絡先を知りたい』とか。
手に握ってるのは連絡先を書いた紙かな、なんて冷静に思う。
構えたり、つられて緊張したりせずに眺めてられるのは、慣れたから。
それでも、今日はいつもよりドキドキしてしまった。
ただ、制服が『たくまくん』を思い出させたってだけで。
時間をずらしての登校は、数ヶ月続いていた。
「……あっ?……すみませんっ!間違えました!」
ほら、ね。私と後ろ姿が似ている同じ学校の女の子。
彼女と間違えて、こんな風に声をかけてくる人は少なくなかった。なにせ、彼女はとっても可愛いのだ。
あまりに間違える人が多いので、慣れてしまった。男性だけじゃなく、友人らしき女の子すらよく後ろから声をかけてくる。
何度か彼女に声をかけようかと思ったけど、彼女は私を知らないと思うし、やめておいた。
間違われないようにと、一度髪を切ったけど……なんの因果か、数週間後に彼女も偶然カットしてきた。
諦めて、 今は好きなようにしている。
自然と似通った髪型のままなので、どちらかが気まぐれに髪を切るまでこの状態は続きそうだなって、去って行く男子高校生の背中を見ながら思った。
人間違いの高校生をなんとなく見送っていると、その人が同じ制服の男の子を追い越した。
視界に入ったので、意識せずに眺めて……心臓が音を立てて冷えた。
追い越されたのは『たくまくん』で、自販機に立ち止まっている。
ドリンクを購入するようで、軽く迷った後にコインを入れてボタンを押した。ガコンッと鈍い音を追いかけるように軽くかがみ込んでいる。
会いたくなかった。
でも……とっても会いたかった。
出会いをやり直したくて、思わず近くに歩み寄る。声なんて、かけられるわけないのに。
視線は外せないままバッグから財布だけなんとか取り出して、次に購入するふりをして近づく。
心臓がこんなに早く強く脈打つなんて知らなかったけど、そんな中で打算的に行動できた自分を後で密かに自賛した。
かがんでるから『たくまくん』の後頭部が見える。髪は柔らかそうで、触ってみたくなる。……叶わない夢だけど。
ちょっと時間がかかりながら、彼が自販機からドリンクを引っ張り出した。
びくりと華奢な体が震えて、小さな声が漏れ聞こえる。
「……っ、熱っ!?……あー、間違えた……」
自分が選んだディスプレイをもう一度確認しているようだ。冷たい飲み物を購入したかったのに、間違えてしまったらしい。
相当熱いらしく、両手で代わる代わる持ち直している。
考えるより先に、声をかけようと口を開いたけど……なんて言えばいい?急に話しかけて、変に思われない?迷惑にならない?気持ち悪がられない?
そう怖気付いた時、前に立つ『たくまくん』のバッグに、赤いお守りが付いているのが目に入った。
つけ直してる。紐をわざわざ変えて、しっかりと取れないように。
やっぱり大事な物だったんだ。よかった。無駄じゃなかった。
そう思うと、見られたボサボサの髪だってどうでもよくなった。それでも届けられたことが誇らしかった。
「……っあのっ!」
やだー!声が裏返っちゃった!そう思ったけど、勇気がしぼむ前に次を口にする。
「……私、ちょうど、それを買おうと思ってて……!」
嘘だけど。何の飲み物かすらイマイチ見えてないけど。ホットの何かとしかわかってないけど。
『たくまくん』が振り返る前に言い切った。彼の目を見て話す自信なんてなかったから。
何とか言いたいことは伝わったと思うから、固まって不審に思われることだけは避けられそうだ。顔を上げることはできなかったけど。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる