66 / 73
【VerΑ編第3章〜大竜星祭】
66話「暴虐の女王Ⅰ」
しおりを挟む偽アキコが目の前へと迫る。
その舐めるような目線に、ぞくりと悪寒が背中を流れていく。
え、何あの人……。
偽アキコは美人と表現してもいい。他の暴王のメンバーと同じように赤のワンポイントを髪に入れて、真っ赤なアイラインが妙に似合っている。
なのに、その目は妙に無機質で、温かさを感じない。
「でも、殴れば倒せる!」
斧槍の間合いに入った偽アキコへと大振りの薙ぎ払いを放つ。
向こうは曲刀で、リーチはさほどない。リーチ外から攻撃を繰り返せば——
私の薙ぎ払いへと無造作に踏み込んだ偽アキコはまるでハエを払うかのように軽く曲刀を振る。
その動作と不釣り合いなほどの金属音が大音量で鳴り、私の斧槍はいとも簡単に弾かれた。
「嘘!?」
私は力にはかなりステータスを振っているし、この斧槍だってかなり重い。
並のプレイヤーでは受けきるのが精一杯で、むしろ下手に防御すると逆に弾かれてしまうほど重い一撃のはず。
なのに、それをいとも簡単に弾いた偽アキコが更に踏み込んでくる。
「少し、天狗になってない?」
偽アキコがそう言いながら、先ほどとは比べものにならないほどの速さで曲刀を振る。
反応しきれず、ガードが間に合わない。私は咄嗟にバックステップするも、首を狙ったその一撃は軌道を変え、鎧の表面部分を削れて私のHPが少しだけ減る。
しかしそこで攻撃は終わらなかった。偽アキコは流れるように動き、演舞のように回転しながら曲刀を叩き込んでくる。
何発かはガードをするが、それでもHPが削れられていく。
ガードが効いてない?
「考えてる時間はないよ」
偽アキコが嬉しそうにそう言いながら更に攻撃をたたみかけてくる。
持久力どんだけあるんだこの人!
ダメだ、防戦一方はまずい。
「【突撃】!」
一旦強制ノックバックで間合いを取って……。
「考えが浅い……浅すぎる」
しかしそれを予見していたのか偽アキコがあっさりとそれを避けた。なんで!?
明らかに今挙動おかしかった!
「とろい、軽い、幼稚。ねえいつになったら攻撃してくるの?」
見下したような目で見つめてくる偽アキコ。
受けるダメージ自体は少ないものの、確実にHPが削られるのはしんどい。その上、こちらの攻撃はまるで予見したかのように全て回避するか弾かれている。パリィは運良くされてはいないけど……。
……そういえばなんでパリィはしてこないのだろう。
私は偽アキコの攻撃を受けながらも冷静に彼女の挙動を観察する。
私の攻撃はまるで事前に見えているかのように躱す。
避けられない攻撃は弾く。
そしてこちらに隙が出来たら連撃を叩き込む。
それの繰り返しだ。
特に彼女の連撃は、まるで短い動画を何度も何度も繰り返し再生するかのように、全く同じ攻撃とモーションだ。
スキルも一切使ってこない。スキル……? そうか。それか。妙な違和感の正体はそれだ。
私も含め、他のプレイヤーの動きにはそれぞれ癖があるし、全く同じ攻撃をしているつもりでも、角度が変わったり、少し高さが違ったりと、微妙に変化する。
これはまあ当たり前の話で、現実と同じなのだから、人はそんな機械的に同じ行動を繰り返す事は中々出来ない。もちろん、蔵人さんみたいな達人クラスになると別だろうけど……それでも難しいと思う。
少なくとも、この偽アキコが行っているように、始まりから終わりまでを全く同じ動きでしかも何度もやるのは不可能だ。一回は仮に出来てもめまぐるしく変わる戦闘中にそれを繰り返す事は無理だ。
このゲームでそれが可能であるとすれば——それはスキルだけだ。
スキルは発動すると、必ず同じモーションになる。
さっき倒したペン王ちゃんの連撃スキルも、動きは全く同じだった。
なぜそうなるかというと、スキル発動中はAIアシストが身体を自動的に動かしているからだ。
だけど、偽アキコにスキルを発動させている様子はない。パッシブスキルならともかく、攻撃スキルは使用時に必ず赤く発光するはずなのだ。なのに、それが見えなかった。
もしかして……。
私は偽アキコのその異様な強さの秘密を掴みかけている気がした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
外れスキル【畑耕し】で辺境追放された俺、チート能力だったと判明し、スローライフを送っていたら、いつの間にか最強国家の食糧事情を掌握していた件
☆ほしい
ファンタジー
勇者パーティーで「役立たず」と蔑まれ、役立たずスキル【畑耕し】と共に辺境の地へ追放された農夫のアルス。
しかし、そのスキルは一度種をまけば無限に作物が収穫でき、しかも極上の品質になるという規格外のチート能力だった!
辺境でひっそりと自給自足のスローライフを始めたアルスだったが、彼の作る作物はあまりにも美味しく、栄養価も高いため、あっという間に噂が広まってしまう。
飢饉に苦しむ隣国、貴重な薬草を求める冒険者、そしてアルスを追放した勇者パーティーまでもが、彼の元を訪れるように。
「もう誰にも迷惑はかけない」と静かに暮らしたいアルスだったが、彼の作る作物は国家間のバランスをも揺るがし始め、いつしか世界情勢の中心に…!?
元・役立たず農夫の、無自覚な成り上がり譚、開幕!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
無能認定され王宮から追放された俺、実は竜の言葉が話せたのでSSS級最凶竜種に懐かれ、気がついたら【竜人王】になってました。
霞杏檎
ファンタジー
田舎の村から上京して王宮兵士となって1年半……
まだまだ新人だったレイクは自身がスキルもろくに発動できない『無能力者』だと周りから虐げられる日々を送っていた。
そんなある日、『スキルが発動しない無能はこの王宮から出て行け』と自身が働いていたイブニクル王国の王宮から解雇・追放されてしまった。
そして挙げ句の果てには、道中の森でゴブリンに襲われる程の不遇様。
だが、レイクの不運はまだ続く……なんと世界を破壊する力を持つ最強の竜種"破滅古竜"と出会ってしまったのである!!
しかし、絶体絶命の状況下で不意に出た言葉がレイクの運命を大きく変えた。
ーーそれは《竜族語》
レイクが竜族語を話せると知った破滅古竜はレイクと友達になりたいと諭され、友達の印としてレイクに自身の持つ魔力とスキルを与える代わりにレイクの心臓を奪ってしまう。
こうしてレイクは"ヴィルヘリア"と名乗り美少女の姿へと変えた破滅古竜の眷属となったが、与えられた膨大なスキルの量に力を使いこなせずにいた。
それを見たヴィルヘリアは格好がつかないと自身が師匠代わりとなり、旅をしながらレイクを鍛え上げること決める。
一方で、破滅古竜の悪知恵に引っかかったイブニクル王国では国存続の危機が迫り始めていた……
これは"無能"と虐げられた主人公レイクと最強竜種ヴィルヘリアの師弟コンビによる竜種を統べ、レイクが『竜人王』になるまでを描いた物語である。
※30話程で完結します。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる