恋に落ちてしまえ

伊藤クロエ

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夜会にて(3)★

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「もっと、もっとほしい」

 その目が、一層剣呑な光を増す。それを見て、キーガンは覚悟した。
 ジェイデンが身を屈め、力なく投げ出されたままのキーガンの両足を抱え上げる。そして股間に深く顔を埋め、やがてその舌が後ろにまで伸びてくる。

 学院を卒業して騎士となり、それから二十代半ばで史上最年少のロンダーリン騎士団の長となってひたすら自らの務めに打ち込んできたジェイデンは、長じてさらに多くの精気を必要とするようになった。彼の飢えは年とともにますます深く、強くなっていく。
 ジェイデンの大きな手がキーガンの尻を割り開き、そこに触れる。ああ、まただ。とキーガンは思った。
 長じるにつれ呪いは深まり、ただ精液を飲むだけでは飢えを満たすことができなくなってしまったジェイデンに幾度となく暴かれ、慣らされ、貪られてきたその場所。
 窓の外から華やかに笑いさざめく声と優雅な音楽が遠く聞こえてくる部屋で、ジェイデンのなすがまま、キーガンはただ天井を見上げ続ける。

――――おれが、初めて口にした人の精気は、父の血だったんだ。

 かつて学院寮の裏手に蹲り、肩を震わせてジェイデンは言った。

――――泣けて、泣けて、吐き出したいのに、できなかった。

 初めてジェイデンの秘密を知ったあの日、ジェイデンは爪がくいこむほど強く拳を握りしめていた。

――――父の血が、あたたかくて、あまくて、ぜんぶ飲み込んでようやく、焼け付くような腹の渇きがなくなった。
――――それでおれはようやくわかったんだ。自分が、バケモノなんだということが。

 ジェイデンは幼い頃から立派な騎士になることを夢見てずっと努力してきた。十やそこらの子どもが夢のためにちょっとしたなまけ心や遊びたい気持ち、楽をしたい気持ちを飲み込んで自分を律し、鍛えていくことがどれほど難しいことか、キーガンはつくづく思う。

 思春期を迎え、ついに呪いが彼に牙を剥いた時、すぐに恋人でもなんでも作ってその女性から体液をもらい、愛を交わすことと命を繋ぐことを一緒にしてしまえば、ジェイデンだって随分と楽だったはずだ。
 なのに彼は秘密が漏れて自分が騎士でいられなくなることを、そしてブラックウェル家の名を汚してしまうことを恐れ、一人で必死に飢えや乾きに耐えながら務めを果たそうとした。

――――ありがたいことに俺だけなんだ。今代でこの呪いが表に出てるのは。父も兄もごく普通に生きていけている。

 だから良かった。そう言って微笑んだジェイデンを見た時、キーガンはひどく胸が苦しくなった。
 今までに彼は「なぜ自分ばかりがこんな目に」と思ったことはないのだろうか。おのれの不運を、すべての元凶である祖先の騎士や古の王を恨んだことはないのだろうか。
 ジェイデンは秘密を知っているキーガンにさえ、一度だって愚痴や弱音を吐いたことがない。だからキーガンは余計にジェイデンの心中を想像して、気にしてしまう。

 はじめて彼の呪いを知った時、自分の目の前で震えながら拳を握りしめていたジェイデンの姿は、キーガンの脳裏に深く刻み込まれている。
 ジェイデンの呪われた血ゆえの苦悶と懊悩とを、キーガンは気づかないふりなどできはしなかった。

――――おれがなんとかしてやる。

 あの時、キーガンは思わずそう言った。

――――だから、絶対に諦めるんじゃねぇぞ。

 立派な騎士になりたいという目標を。夢を。人生を。絶対に諦めるな。
 それは、今まで特に強い信念や夢もなくただ呑気に生きて来たキーガンだからこそ思ったことなのかもしれない。

 ぴちゅ、くちゅ、ぬちゅ。
 耳を塞ぎたくなるような、淫らな水音。膝が顔に付くほど身体を折り曲げられ、キーガンは目を閉じ、ひたすら唇を噛みしめ声を押し殺そうとする。
 ジェイデンはキーガンの尻肉を掴んで開いて、キーガンの後腔をひたすら舌でいじり回している。濡れて、ざらついた力強い舌と、そして指。彼の舌と指とがもう気が遠くなるくらいずっとキーガンの後腔を出たり入ったり、中をぐり、とえぐったり、じゅううっと吸ったりしている。

「……っ、は…………ぁ……っ、ん……っ、あ、ひ……っ」

 腹の奥底がきゅうぅうっ、と引き絞られる。
 中から何かとてつもない熱が溢れ出てくる。それをジェイデンが吸って、飲み下す。

「…………っ、ふ、ん……っ」

 濡れそぼった粘膜が蠕動する。もっと奥へ、奥へとその指と舌を引き込もうとするかのように。
 女じゃあるまいし、そんなことあるはずがないのに。まるで身体の中身が全て造り替えられてしまったかのようだ。

「キーガン、ここ、まだ辛いか?」

 ぬちゅ、と聞くに堪えない音を立ててジェイデンが指を潜り込ませ、あの場所を探る。
 どろどろに溶けて靄のかかった頭に、ジェイデンの声がじんわりと甘い毒のように忍び込んでくる。

「もっと奥か? ぐずぐずするところ、もっと強く掻いて欲しいか? それとも指では足りないか?」

 ぐぷぐぷと出入りしていた太くて節立った指がずるり、と抜き出された。

「指よりもっと、太くて硬いものがいいか?」

 やがて熱くて丸みのあるものが押し当てられる。

「…………っは…………ぁ…………ッツ!!」

 押しつぶされるかと思うほど重たい身体が上から圧し掛かり、狭い入り口を押し開いていく。そして恐ろしく熱くて太いモノがぬぷ、と入り込んできた。キーガンは目を見開き、頭の上でシーツをきつく握りしめる。
 ぬるぬると、狭い隘路をこじ開けて入ってくる、熱くて、硬くて、太くて大きな肉の楔。

「あ、あ、あ」
「ああ、ここか?」

 ごり、としこりを抉られて、キーガンの息が止まる。

「ほら、キーガン、気持ちがいいだろう?」

 ジェイデンがゆっくりと腰を打ち付け、ひくつく粘膜を引きずり、引いてはまた深々と潜り込むたびに、臍の下、ペニスのすぐ上のあの場所が火傷したように熱くなる。

(きもちいいなんてもんじゃ、ねぇよ)

 理性も自制も頭も身体も何もかも溶かされる。

「ここ、突いて掻き回せば楽になるか? つらくなくなる?」

 ジェイデンがキーガンの濡れそぼった陰毛を掻き分け、熱くてたまらないそこを撫でながら言った。

「キーガンはずっと俺を助けてくれた。だから俺も、キーガンが望むことはなんでもしてやりたいんだ」

 ジェイデンがキーガンの両足を肩で担ぐ。そして両手をキーガンの顔の横についてまさに男が女を抱くように正常位でキーガンを犯し始めた。

「ハッ、ハッ、あ、あ、う、んぐ………………っ!!」

 どろどろと熱い溶岩が腹の奥めがけて注ぎ込まれる。するとたまらなく疼くあの場所がさらに熱く煮えたぎる。

「……っひ……っ!あっ!う、ぐ、ん゛ん゛…………っ!」
「もっとか? なあ、もっとおれのものでここ、突いてほしいか……? キーガン」
「ひっ! は、あう、んぐ、あ、あ、あ」

 ジェイデンがいまだ萎えない剛直でゆるゆると奥を突きながらまた口づけてくる。キーガンとは真逆の、肉厚で大振りな口。まさに獲物を食らう捕食者の、それ。

(はらが、あつい)
(あたまが、とける)
(ふとくて、おおきくて、くるしい)
(もうなにも、かんがえられない)

「ひうんっ! あ、ジェイ、ジェイデン、ジェイデ、……っ」
「キーガン、もっと、もっとくれないか……? なあ、もっと……っ」

 何もかも根こそぎ奪われて、そして嵐のように叩きつけられる。
 その夜、キーガンは夜通し貪られ、食い尽くされた。
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