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「消えれば」


背後から良く聞き覚えのある声が、聴こえてきた。


「大分店も落ち着いたから、託也帰って良いわよ」

「そりゃ帰りたいが、大丈夫なのか?」


さっきまではバックレようと思ってはいたが、流石に清美の店だし俺で手伝えるなら…


「もう新規も来ないでしょうし、酔っ払ってる奴ばかりだから平気、平気!で、託也は帰れるの…立ってみなさいよ」


何言ってんだよ清美の奴!少々飲んだぐらいで立てないなんて事は、今迄一度も無いんだよ!あれ?あれ?気持ちは立ちたいんだ!嫌!立ってる。なのに足が動かないぞ!


「託也……いつもは安い酒ばかり飲んでるでしょう。今日はあんた、高い酒ばかり飲み散らかすから…変に回ってんのよ。少しは高い酒も飲みなさいよ」

「俺みたいな会社員に高い酒なんて、飲めるかよ~それよりよ……俺…横になってたら……眠くて……眠くて…」


「あ~あ~眠っちゃたわよ~王子様…では無いわね。皇帝様って感じの貴方知り合いみたいだし、お姫様をお持ち帰り致しますか?」

「俺がこのまま連れて帰ろう。水木の荷物はあるのか?」

「この袋に入れてあるから、本人と一緒にどーぞ。私が今迄大事に大事に護ってきた、愛しの幼馴染みなのよ。幸せにしないと恨んじゃうからね」

「怖いな……頑張って水木に逃げられないようにするよ。ありがとう」


「何よ!大事そうに抱き抱えて、帰るなんて……本当は変な女に捕まる前に私が捕まえる筈だったのよ。

   まあ良いわ…あの男、店に入った瞬間に託也に視線を向けて驚いていたわ……私の化粧でわからないようにしてた筈なのに。あの時点で私は負けてのかしらね。

    それに、私が託也って呼び捨てるたびに、殺してやるぞって感じで睨んでたのに、最後に見せたあの笑顔……本当負けたわ。

    託也にとって一番の女は私って事で、チェックメイトね。

    あの極上の男なら、託也を悲しませるような事は無いだろうし、下手して逃す事も無いでしょうね。
 
    せいぜいからかって遊びましょう……楽しくなるわね。うふふふふ」
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