死に戻りの王子妃は今度こそ溺愛を逃さない

海辺ユジン

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4 ※性描写あり

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 リュカが死んでから三ヶ月が経った頃、彼の従者であるマークルがいよいよ苛立ち始めた。

「殿下、いつまでそうしているおつもりですか。あなたがこうなってから、あまりに時が経ちすぎています」

 主人の部屋へと遠慮なく踏み込んだマークルが、後ろで一つに結んだ赤毛を大きく揺らす。彼の心が乱れた時に見られる癖だった。十年以上前からベルナルドに仕える身として、今の主の姿は見ていられないのだろう。自分の死がもたらす影響の大きさに、リュカはぎゅっと胸をおさえた。邪魔になんてなりようがないと分かりながら、二人をこれ以上隔てないようにと部屋の隅に移動する。

 ベッドのそばにしゃがみ込んで、リールをあやしていたベルナルドが緩慢な動きで男を見上げる。分かっているよ、と彼は言った。

「来週のどこかで、孤児院に慰問に行こうかと思っている」

 そう話すベルナルドの目元に深い隈が浮かび上がっていることに、マークルは気がついたようだった。殿下、と短く呼ぶ声をベルナルドが遮る。

「あまりに長い間、顔を見せていなかったからな。子どもたちが僕のことを忘れていないといいが」
「殿下、あまり眠れていないのですか」

 主人の話を遮るほどに、マークルは彼を心配しているようだった。

「すこし、調べ物をしていてな。つい眠るのを忘れてしまう」
「そんなに根を詰めてまで、いったい何を調べておられるのですか」

 ベルナルドは緩く微笑むだけで質問には答えなかった。マークルはぎゅっと下唇を噛み締めた後、目力を強めた。

「……リュカ妃殿下のことなら、国の呪詛師が調べ尽くし、既に答えを出したでしょう。現代の呪学では到底解読できない。未知の呪いだと」

 聡い従者は、主人が何を調べているのか、はなから分かっていたようだった。

 聞いていられなくて、リュカは思わず視線を逸らした。自身にかけられたのが未知の呪いであることは、リュカ自身が一番分かっていた。幼い頃から身体にあったオメガ印が、いつの間にか呪印へと変わっている。そんな呪いは聞いたことがない。きっと、オメガにしかかけられない特別な呪いなのだろう。自分はいったい誰から、死をも願うほどの恨みを買ったのだろう。

「マークル」

 ベルナルドが名を呼ぶ。幼なじみのような関係性の従者を呼ぶ声は平坦で、あくまで義務的だった。

「僕は平気だ。来週、顔を出すと孤児院に伝えてくれ」
「……承知いたしました」

 全く腑に落ちていない様子で、マークルが部屋を後にする。二人のやりとりを眺めていたリールが、心配するようにベルナルドの足元にすり寄った。彼はそれを慈しむような目で見つめる。犬嫌いだった男が、こんな顔をするようになるなんて。

 リュカの胸に、またひとつ、愛おしさが積み上がる。愛しいと思えば思うほどに、同じだけの悲しみが膨れ上がった。

 ベルナルドがリールを抱き上げ、窓辺に立った。見つめるのは、ぼんやりとした曇り空。

「……君が生きていれば、そろそろ発情期が来る頃か。……今度こそ、僕は君を抱けただろうか」

 憂いの滲む横顔に、抱けやしないさ、と笑いかけてやりたかった。これまでだって指先一つ触れてこなかったのだから、何度発情期が来たって同じだ。そうに決まっている。そうじゃないと、死んだことをあまりに悔やみすぎる。生きていれば、ベルナルドに抱いてもらえたのだとしたら、リュカは悔しさでもう一度息絶えてしまう。

「リュカ……」

 その場にしゃがみ込んだベルナルドの腕から、リールがするりと抜け出ていった。部屋の中を駆けて、ベッドへと飛び乗る。シーツをかき分けて眠る体勢に入ったようだった。

 ベルナルドの手が、突然に自身の下肢へと伸ばされた。リュカはぎょっとして、けれど、少しも目が離せなかった。

「……リュカ、リュカ」

 服の上から揉みしだかれていたものが、ぼろり、と露出した。そのあまりの大きさに再び目をひんむく。

 あちこちに跳ねる心臓を落ち着けたくて、

「バッカ……! 悲しむか盛るかどっちかにしろよ!」

 と、声に出してみたけれど、いつも通り誰にも届かないせいで、却って恥ずかしくなってしまった。頬がひどく熱い。自分の名を呼びながら自慰をされるなんて、こんな破廉恥な経験はしたことがない。初めてだからこそ、もっと見たい、触れたいと欲望が破裂しそうになる。

 先ほどまで切なさで溢れていた胸はいまや熱で溢れかえっていた。羞恥に勝る興奮がリュカをベルナルドへと近付けさせる。血管の浮び上がる竿を彼の手が扱くたびに、こぷこぷと先端から蜜が溢れ出した。

「リュカ……」

 突然に耳元で囁かれた声に、勢いよく飛び退いた。身体を近付けすぎていたせいで、至近距離で名前を呼ばれてしまった。たった三文字で、何もかもを絡め取られそうになる。血の通っていないはずのそこが大きく膨張し始めていた。死んでいるのに、こんなのはおかしい。わずかばかりの理性がすぐさま熱に塗り替えられて、ぺしゃんこに圧し潰されていく。

 気がつけば、ベルナルドを真似るように自身のそれに手を伸ばしていた。死んでいるリュカが唯一触れられるのが自分自身だった。

 彼の間近で、彼の全てを覗きながら、自身を慰めている。指先で作った輪っかが敏感な箇所をかすめていく。目の端がちかちかと光って、夫の姿をかすませた。いやだ、と思う。ベルナルドの全てを、この目に映したい。共に果てたい。触れたい。触れてほしい。

 果てる瞬間、彼に口付けた。半透明の唇が形だけ重なるばかりで、そこには温もりも感触も存在しなかった。

「ベルナルド、ベルナルド……」

 荒れた呼吸で名前を呼ぶ。愛しているよ、という言葉が喉元まで込み上げて、けれど、僅差で切なさが勝ってしまった。自分は彼の全てを覗いているけれど、彼は自分の全てを知らない。どれだけ愛を囁こうとも、けっして届きはしない。
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