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彼の目は、確かにリュカを捉えていた。驚いて、すぐには返事ができない。
「そこにいるのか、リュカ……」
唇が小刻みに震え、喉の奥がきゅうと締まった。
「ああ、いる。ずっと、ずっとそばにいた……」
「ずっと? それは少し照れくさいな……」
制御する間もないまま、再び涙が溢れ出していた。泣きじゃくるリュカの姿に、ベルナルドは驚いた顔をする。
「君もそんなふうに泣いたりするのだな」
「お前が死にかけてるからだろうがっ……」
必死に抗議しているのに彼は驚きつつも嬉しそうな表情をしていて、腹立たしいのに愛おしい。
「君が僕のために泣いてくれるとは思わなかった。……もっと早く、言葉を交わすべきだった」
「……っ、こっちのセリフだ、馬鹿!」
ベルナルドの骨ばった手がリュカの頬へと伸ばされる。かさついた指先が繰り返し撫でてくれた。
(こんなに優しく触れられるのは……生まれて初めてだ)
彼の手に自分のそれを重ねると、これが二人の正しい在り方だと確信を持てた。
ワン、と弱々しい鳴き声がした。ベルナルドと二人でそちらに視線を向けると、潤んだ目が縋るようにこちらを見ていた。リールにも見えているのだ。やっと、本当に再会できたのだ。
「おいで、リール」
抱きかかえていたベルナルドの上体を膝の上に乗せると、愛犬に向けて両手を広げた。愛おしさの塊が一目散に駆け寄ってくる。胸の中に飛び込んできたそれをベルナルドと共にたくさん撫で回した。こんなにも幸福な時間は、今までなかった。きっとこれが最後になるであろうことは、リールにすら伝わっているようだった。
「……リュカ」
二人と一匹で抱き合いながら、囁くように言葉を交わす。
「僕もそろそろ、だめみたいだ」
ベルナルドの身体はもうほとんど体温を持たなかった。死んでしまうのだ、彼もここで。リュカのために無理をしたせいで。自分はそんなこと、ちっとも望んでいなかったのに。
「……許さない。お前が死んだら、誰がリールの面倒を見るんだ」
「あの侍女がきっと大事にしてくれる。リールはあの子にとっても懐いているんだ」
「……ダメだ。俺とお前の家族を他の誰かが愛すなんて、俺は認めない」
ははっ、とベルナルドが笑い声を上げる。
「死んだら、また共に過ごせるだろうか」
「……さあな。死後の世界なんて誰も知らない。俺がこうしてここにいるのも……全く意味が分からない」
「……それもそうだ。あの世で一緒に暮らせたらいいが……もしも叶うのなら、この世界で、もう一度君と出会いたい。今度こそ君と、きちんと愛し合いたいんだ」
ずっと聞きたかったセリフだった。ずっと望んでいた言葉だった。だけど今は、喜びよりも痛みの方がずっと大きい。
ベルナルドが自嘲気味に笑みをこぼす。
「今際の際にしか素直になれないのだから、自分で呆れる……」
「本当だよ、お前はとんだ天邪鬼だ。こんなお前を愛せるのは俺くらいのもんだよ……」
「ああそうかもしれない。君から愛してもらえれば、僕はそれだけで良かった」
生きているあいだは、けっして見られなかった微笑みが自分に向けられている。自分にだけ見せてくれる特別な表情。愛おしくて、哀しくて、綯い交ぜになった感情のままに彼に口付けた。接吻ですら、これが初めてだ。柔らかな唇の感触が、リュカの全てを満たしてくれる。
「愛している、ベルナルド。死してもなお、お前だけを愛し続ける……」
ゆっくりと離れた唇からこぼれたのは、リュカの気持ち全てだった。
「ああ、僕も愛している。僕のリュカ……僕のオメガ」
誰よりも大切な人が同じだけの気持ちを返してくれる。これ以上ない幸福の中で目を閉じた。再び目を開けた時、愛する人は事切れていて、リュカと同じようにその魂だけが現れることはなかった。
細い一筋の涙が頬を伝っていく。
できることなら、君と――もう一度人生をやり直したい。
そう願った刹那、強い光に包まれ、リュカは意識を手放した。
「そこにいるのか、リュカ……」
唇が小刻みに震え、喉の奥がきゅうと締まった。
「ああ、いる。ずっと、ずっとそばにいた……」
「ずっと? それは少し照れくさいな……」
制御する間もないまま、再び涙が溢れ出していた。泣きじゃくるリュカの姿に、ベルナルドは驚いた顔をする。
「君もそんなふうに泣いたりするのだな」
「お前が死にかけてるからだろうがっ……」
必死に抗議しているのに彼は驚きつつも嬉しそうな表情をしていて、腹立たしいのに愛おしい。
「君が僕のために泣いてくれるとは思わなかった。……もっと早く、言葉を交わすべきだった」
「……っ、こっちのセリフだ、馬鹿!」
ベルナルドの骨ばった手がリュカの頬へと伸ばされる。かさついた指先が繰り返し撫でてくれた。
(こんなに優しく触れられるのは……生まれて初めてだ)
彼の手に自分のそれを重ねると、これが二人の正しい在り方だと確信を持てた。
ワン、と弱々しい鳴き声がした。ベルナルドと二人でそちらに視線を向けると、潤んだ目が縋るようにこちらを見ていた。リールにも見えているのだ。やっと、本当に再会できたのだ。
「おいで、リール」
抱きかかえていたベルナルドの上体を膝の上に乗せると、愛犬に向けて両手を広げた。愛おしさの塊が一目散に駆け寄ってくる。胸の中に飛び込んできたそれをベルナルドと共にたくさん撫で回した。こんなにも幸福な時間は、今までなかった。きっとこれが最後になるであろうことは、リールにすら伝わっているようだった。
「……リュカ」
二人と一匹で抱き合いながら、囁くように言葉を交わす。
「僕もそろそろ、だめみたいだ」
ベルナルドの身体はもうほとんど体温を持たなかった。死んでしまうのだ、彼もここで。リュカのために無理をしたせいで。自分はそんなこと、ちっとも望んでいなかったのに。
「……許さない。お前が死んだら、誰がリールの面倒を見るんだ」
「あの侍女がきっと大事にしてくれる。リールはあの子にとっても懐いているんだ」
「……ダメだ。俺とお前の家族を他の誰かが愛すなんて、俺は認めない」
ははっ、とベルナルドが笑い声を上げる。
「死んだら、また共に過ごせるだろうか」
「……さあな。死後の世界なんて誰も知らない。俺がこうしてここにいるのも……全く意味が分からない」
「……それもそうだ。あの世で一緒に暮らせたらいいが……もしも叶うのなら、この世界で、もう一度君と出会いたい。今度こそ君と、きちんと愛し合いたいんだ」
ずっと聞きたかったセリフだった。ずっと望んでいた言葉だった。だけど今は、喜びよりも痛みの方がずっと大きい。
ベルナルドが自嘲気味に笑みをこぼす。
「今際の際にしか素直になれないのだから、自分で呆れる……」
「本当だよ、お前はとんだ天邪鬼だ。こんなお前を愛せるのは俺くらいのもんだよ……」
「ああそうかもしれない。君から愛してもらえれば、僕はそれだけで良かった」
生きているあいだは、けっして見られなかった微笑みが自分に向けられている。自分にだけ見せてくれる特別な表情。愛おしくて、哀しくて、綯い交ぜになった感情のままに彼に口付けた。接吻ですら、これが初めてだ。柔らかな唇の感触が、リュカの全てを満たしてくれる。
「愛している、ベルナルド。死してもなお、お前だけを愛し続ける……」
ゆっくりと離れた唇からこぼれたのは、リュカの気持ち全てだった。
「ああ、僕も愛している。僕のリュカ……僕のオメガ」
誰よりも大切な人が同じだけの気持ちを返してくれる。これ以上ない幸福の中で目を閉じた。再び目を開けた時、愛する人は事切れていて、リュカと同じようにその魂だけが現れることはなかった。
細い一筋の涙が頬を伝っていく。
できることなら、君と――もう一度人生をやり直したい。
そう願った刹那、強い光に包まれ、リュカは意識を手放した。
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