死に戻りの王子妃は今度こそ溺愛を逃さない

海辺ユジン

文字の大きさ
7 / 20

7

しおりを挟む
 リーン、リーン、と軽やかな鐘の音が鳴り響く。その美しい響きにリュカは目を覚ました。瞼を持ち上げると、目を突き刺すような光。俯いていたのか、足元に散らばった色とりどりの花びらが視界に入る。ぱちり、と瞬きをして、そっと顔を上げた。眩く、大きな太陽をバックに、愛する夫、ベルナルドの姿がそこにはあった。


「……っ! ベルナルド!」

 勢いのままに足を踏み出して彼に抱きついた。鼻先が大きな胸元にぶつかる。金属製のボタンにちょうど当たったようで、それなりに痛かったがそんなことはどうだっていい。

(ベルナルドが、ベルナルドが生きてる……)

 背中に回した腕にどれだけ力を込めても足りない。頬を擦り付け、痛む鼻先で存分に匂いを嗅ぐ。ああ、そうか、我が夫はこんな香りを身に纏っていたのか。生前は顔を合わせることすら、ほとんどなかったから知らなかった。死
んでからは五感はないものとされていたし、触れることも叶わなかったから……。

(……あれ、匂い、なんで、あれ? 触れられる……?)

 ごほん、と大きな咳払いが横から飛んできた。

「……リュカ・ガステア妃殿下」
「……ん?」

 ベルナルドに抱きついたまま、視線だけを声の主に向けた。丸い顔にくりくりとした大きな目。顔の中心に向けて広がる大きな皺。見覚えがありすぎる。レイスーン王国の大臣の一人だ。

「え、俺が見えてる……?」

 男の眉間に刻まれた皺が深くなった。

「何を仰っておられるのですか……早く、ベルナルド殿下からお離れなさい。今は婚礼の儀の真っ最中ですよ」
「……はっ?」

 素っ頓狂な声を上げて、きょろときょろと辺りを見渡した。晴れ渡る空、燦々と輝く太陽。その下にいるのは自分と愛するベルナルド――だけではなかったらしい。修道士に複数人の大臣、たくさんの兵士、ベルナルドの従者であるマークル。城で働く侍従たちの顔も見えた。いや、それだけじゃない。王に王妃に第一王子に第二王子までいる。

 そして、呆けた顔で自分を見つめる大量の国民たち――。

(うそ、え? なに? なんで、婚礼の儀ってなんで……)

 ご、ごほん、と先ほどよりずっとわざとらしい咳払いが、今度は正面から聞こえた。

「……いい加減離れてくれるか。我が……妃となる人」

 視線を戻せば、頬を赤らめ、下唇を噛み締めるベルナルドの姿があった。呆れ三割……いや二割、照れ八割といった様子の夫に、再び感情が高まる。

「なんで、ベルナルド……なんで俺、ここにいるの?」
「え? なんでって……君と僕は婚姻関係を……」

 ベルナルドもひどく困惑しているようだけれど、こちらの驚きはそんなものではすまなかった。

 彼の言う"君"はリュカのことで、"僕"が指すのはとうぜんベルナルドのことで、つまるところ自分たちは結婚するわけで……。

 信じられなくて、衝撃と喜びてどうにかなりそうで、リュカは目に涙をいっぱい浮かべて、ベルナルドの身体を今一度強く抱き締めた。ウッ……という小さな呻きが彼の口から漏れる。

「やった……やった、またベルナルドと一緒に過ごせるっ……」
「お、おい……離れ、離れるんだ、君、ちょっと……だから今は婚礼の儀の最中だと……」

 ちっとも話を聞かないリュカに、ベルナルドは大きくため息をついて、というより深呼吸をして、それはまるで照れをどうにか押し込む作業のようで。

(好きだ、好きだ、ベルナルド)

 自分が今、とんでもないやらかしをしていることはちゃんと分かっている。だけど、互いに死んだはずの相手とこうして再会できたというのに、浮かれるなという方が鬼畜すぎる。しかも相手は愛し合った人なのだ。少しくらい許してくれたっていいはずだろう。

 すう、はあ、という大きな呼吸の音がした後、ベルナルドの力強い腕によって、リュカの身体はとうとう彼から離されてしまった。

「……いい加減にしろ。王家に嫁ぐということがどういうことか、君は全く理解できていないようだな」

 鋭い声と眼差しにリュカは震えた。

 ああ、懐かしい。生前、自分にちっとも優しくなかった頃のベルナルドだ。顔を合わせる時はいつもこんなふうに深呼吸をして自分を抑えていたのだろうか。あの頃はこれがこの男の素だと思っていたけれど、今は違う。

(……どうしよう。全部の語尾にハートマークが付いてるように聞こえるんだけど)

 半年間、こっそりと愛を注がれ続けたリュカの心は、いつの間にかとんでもなく強くなったようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

拝啓、親愛なる王子、魔族に求婚されて元従者は花嫁と相成りそうです

石月煤子
BL
「――迎えにきたぞ、ロザ――」 とある国の王子に仕える従者のロザ。 過保護な余り、単独必須の武者修行へ赴く王子をこっそり尾行し、魔獣が巣食う「暁の森」へとやってきた。 そこでロザは出会う。 ウルヴァスという名の不敵な魔族に。 「俺の花嫁に相応しい」 (は? 今、何て言った?) ■表紙イラスト(フリー素材)はお借りしています■

余命半年の俺を、手酷く振ったはずの元カレ二人が手を組んで逃がしてくれません

ユッキー
BL
半年以内に俺は一人寂しく死ぬ。そんな未来を視た。きっと誰も悲しむ人は居ないだろう。そう思っていたから何も怖くなかった。なのにそんな俺の元に過去手酷く振り、今では世界的スターとなった元カレ二人がやってきた。彼らは全てを知っていた。俺がどうして彼らを振ったのか、そして俺の余命も。 全てを諦めた主人公と、主人公を諦めきれないイケメンサッカー選手とシンガーソングライターの再会が導く未来は?

愛人少年は王に寵愛される

時枝蓮夜
BL
女性なら、三年夫婦の生活がなければ白い結婚として離縁ができる。 僕には三年待っても、白い結婚は訪れない。この国では、王の愛人は男と定められており、白い結婚であっても離婚は認められていないためだ。 初めから要らぬ子供を増やさないために、男を愛人にと定められているのだ。子ができなくて当然なのだから、離婚を論じるられる事もなかった。 そして若い間に抱き潰されたあと、修道院に幽閉されて一生を終える。 僕はもうすぐ王の愛人に召し出され、2年になる。夜のお召もあるが、ただ抱きしめられて眠るだけのお召だ。 そんな生活に変化があったのは、僕に遅い精通があってからだった。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

落としたのは化粧じゃなく、みんなの心でした

444
BL
『醜い顔…汚らしい』 幼い頃、実母が病気によって早くに亡くなった数年後に新しい義母からそう言われたシリルは、その言葉が耳に残って16歳となった今も引きずっていた。 だが、義母のその言葉は真っ赤な嘘でシリルはとても美しかった。ただ前妻の息子であるシリルに嫉妬した結果こぼした八つ当たりの言葉であったのをシリルは知らずに、義母のいう醜い顔を隠すために化粧をする。 その結果、彼は化粧によって本当に醜い顔になってしまった。そんな彼が虐げられながらも徐々に周囲を絆す話 暴力表現があるところには※をつけております

第2王子は断罪役を放棄します!

木月月
BL
ある日前世の記憶が蘇った主人公。 前世で読んだ、悪役令嬢が主人公の、冤罪断罪からの巻き返し痛快ライフ漫画(アニメ化もされた)。 それの冒頭で主人公の悪役令嬢を断罪する第2王子、それが俺。内容はよくある設定で貴族の子供が通う学園の卒業式後のパーティーにて悪役令嬢を断罪して追放した第2王子と男爵令嬢は身勝手な行いで身分剥奪ののち追放、そのあとは物語に一切現れない、と言うキャラ。 記憶が蘇った今は、物語の主人公の令嬢をはじめ、自分の臣下や婚約者を選定するためのお茶会が始まる前日!5歳児万歳!まだ何も起こらない!フラグはバキバキに折りまくって折りまくって!なんなら5つ上の兄王子の臣下とかも!面倒いから!王弟として大公になるのはいい!だがしかし自由になる! ここは剣と魔法となんならダンジョンもあって冒険者にもなれる! スローライフもいい!なんでも選べる!だから俺は!物語の第2王子の役割を放棄します! この話は小説家になろうにも投稿しています。

カワウソの僕、異世界を無双する

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
本編完結いたしました♡コツメたん!無双おめでとう㊗️引き続きの番外編も完結しました💕 いつも読んでいただきありがとうございます♡ ほのぼのとワクワク、そしてコツメたんの無双ぶりを楽しんで下さい! お気に入り1200越えました(new)❣️コツメたんの虜になった方がこんなにも!ʕ•ᴥ•ʔキュー♡ ★★★カワウソでもあり、人間でもある『僕』が飼い主を踏み台に、いえ、可愛がられながら、この異世界を無双していく物語。 カワウソは可愛いけどね、自分がそうなるとか思わないでしょ。気づいたらコツメカワウソとして水辺で生きていた僕が、ある日捕まってしまった。僕はチャームポイントの小さなお手てとぽっこりお腹を見せつけながら、この状況を乗り越える!僕は可愛い飼い主のお兄さん気分で、気ままな生活を満喫するつもりだよ?ドキドキワクワクの毎日の始まり! BLランキング最高位16位♡ なろうムーンで日間連載中BLランキング2位♡週間連載中BLランキング5位♡ イラスト*榮木キサ様

処理中です...