死に戻りの王子妃は今度こそ溺愛を逃さない

海辺ユジン

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 リーン、リーン、と軽やかな鐘の音が鳴り響く。その美しい響きにリュカは目を覚ました。瞼を持ち上げると、目を突き刺すような光。俯いていたのか、足元に散らばった色とりどりの花びらが視界に入る。ぱちり、と瞬きをして、そっと顔を上げた。眩く、大きな太陽をバックに、愛する夫、ベルナルドの姿がそこにはあった。


「……っ! ベルナルド!」

 勢いのままに足を踏み出して彼に抱きついた。鼻先が大きな胸元にぶつかる。金属製のボタンにちょうど当たったようで、それなりに痛かったがそんなことはどうだっていい。

(ベルナルドが、ベルナルドが生きてる……)

 背中に回した腕にどれだけ力を込めても足りない。頬を擦り付け、痛む鼻先で存分に匂いを嗅ぐ。ああ、そうか、我が夫はこんな香りを身に纏っていたのか。生前は顔を合わせることすら、ほとんどなかったから知らなかった。死
んでからは五感はないものとされていたし、触れることも叶わなかったから……。

(……あれ、匂い、なんで、あれ? 触れられる……?)

 ごほん、と大きな咳払いが横から飛んできた。

「……リュカ・ガステア妃殿下」
「……ん?」

 ベルナルドに抱きついたまま、視線だけを声の主に向けた。丸い顔にくりくりとした大きな目。顔の中心に向けて広がる大きな皺。見覚えがありすぎる。レイスーン王国の大臣の一人だ。

「え、俺が見えてる……?」

 男の眉間に刻まれた皺が深くなった。

「何を仰っておられるのですか……早く、ベルナルド殿下からお離れなさい。今は婚礼の儀の真っ最中ですよ」
「……はっ?」

 素っ頓狂な声を上げて、きょろときょろと辺りを見渡した。晴れ渡る空、燦々と輝く太陽。その下にいるのは自分と愛するベルナルド――だけではなかったらしい。修道士に複数人の大臣、たくさんの兵士、ベルナルドの従者であるマークル。城で働く侍従たちの顔も見えた。いや、それだけじゃない。王に王妃に第一王子に第二王子までいる。

 そして、呆けた顔で自分を見つめる大量の国民たち――。

(うそ、え? なに? なんで、婚礼の儀ってなんで……)

 ご、ごほん、と先ほどよりずっとわざとらしい咳払いが、今度は正面から聞こえた。

「……いい加減離れてくれるか。我が……妃となる人」

 視線を戻せば、頬を赤らめ、下唇を噛み締めるベルナルドの姿があった。呆れ三割……いや二割、照れ八割といった様子の夫に、再び感情が高まる。

「なんで、ベルナルド……なんで俺、ここにいるの?」
「え? なんでって……君と僕は婚姻関係を……」

 ベルナルドもひどく困惑しているようだけれど、こちらの驚きはそんなものではすまなかった。

 彼の言う"君"はリュカのことで、"僕"が指すのはとうぜんベルナルドのことで、つまるところ自分たちは結婚するわけで……。

 信じられなくて、衝撃と喜びてどうにかなりそうで、リュカは目に涙をいっぱい浮かべて、ベルナルドの身体を今一度強く抱き締めた。ウッ……という小さな呻きが彼の口から漏れる。

「やった……やった、またベルナルドと一緒に過ごせるっ……」
「お、おい……離れ、離れるんだ、君、ちょっと……だから今は婚礼の儀の最中だと……」

 ちっとも話を聞かないリュカに、ベルナルドは大きくため息をついて、というより深呼吸をして、それはまるで照れをどうにか押し込む作業のようで。

(好きだ、好きだ、ベルナルド)

 自分が今、とんでもないやらかしをしていることはちゃんと分かっている。だけど、互いに死んだはずの相手とこうして再会できたというのに、浮かれるなという方が鬼畜すぎる。しかも相手は愛し合った人なのだ。少しくらい許してくれたっていいはずだろう。

 すう、はあ、という大きな呼吸の音がした後、ベルナルドの力強い腕によって、リュカの身体はとうとう彼から離されてしまった。

「……いい加減にしろ。王家に嫁ぐということがどういうことか、君は全く理解できていないようだな」

 鋭い声と眼差しにリュカは震えた。

 ああ、懐かしい。生前、自分にちっとも優しくなかった頃のベルナルドだ。顔を合わせる時はいつもこんなふうに深呼吸をして自分を抑えていたのだろうか。あの頃はこれがこの男の素だと思っていたけれど、今は違う。

(……どうしよう。全部の語尾にハートマークが付いてるように聞こえるんだけど)

 半年間、こっそりと愛を注がれ続けたリュカの心は、いつの間にかとんでもなく強くなったようだった。
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