死に戻りの王子妃は今度こそ溺愛を逃さない

海辺ユジン

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 ウキウキの侍女が部屋を出ていくのを苦笑いで見届けると、リュカもまた外に出ることにした。自室に閉じこもっていると、どうしたって気分が重くなる。

 一度目の人生ではリールの散歩のためにしか部屋を出なかった。第三王子の形ばかりの妃が参加する公務などないに等しかったし、行きたいと思える場所も存在しなかった。

 リュカとベルナルドが暮らしているのは、王の公式拠点である宮殿から北東に位置する歴史ある城だ。これまでたくさんの王族が暮らしてきた場所なだけあって、その広大さは目を見張るほど。探索をしようにも無数に伸びる廊下はまるで迷路のようで、歩けば歩くほどに行き先を見失ってしまう。しばらくあちこちを練り歩いたのち、結局いつもリールと共に行っていた庭園を目指すことにした。

 大きな円柱が続く廊下を早々と通り過ぎて外へ出ると、晴れ渡る空から日光が容赦なく照りつける。肌をじりじりと焼かれる感覚に既に嫌気が差しつつあった。

(この時期はたしか、みんな避暑地に移ってるんだよな)

 王族が持つ屋敷は国内に八つある。夏の暑さが厳しいこの国の王族たちは暑い季節になると比較的涼しい地域にある城へと移り住むのだ。

 婚礼の儀のために王都へ戻ってきていた王たちも、今朝、馬車に乗り込んで避暑地へと戻って行ったという。

「……あいつはいつも俺に付き合って、ここに残ってたな」

 王や王妃たちと共に暮らすのはあまりに息苦しくて、リュカは避暑地に移ることを毎年拒んでいた。ベルナルドだけでも行けばいいのにとひっそり思っていたけれど、あれが彼なりの愛情だったことは今だから分かる。

「来年は、一人で行っちまうかもな」

 呟く声が少し不貞腐れたようになってしまった。だだっ広い庭には、あちこちに色とりどりの花が咲いていて、その美しさが今は目に痛い。大きな噴水が立てる水音がリュカの独り言をかき消してしまう。

「ベルナルドなんか、さっさとどっか行っちまえ」

 誰にも聞こえやしないと高を括って、憂さ晴らしに大きな声を出した。口に出すとなんだかおかしくなってくる。顔を俯け、口元を手で押さえながら、ふ、ふふ、と笑い声を漏らした。

 じゃり、という音が鳴ると同時にダークブラウンの革靴が視界に入った。

「……君は、そんなに僕が嫌いか」

 先ほどのリュカに負けない不貞腐れた声。革靴から真っ白なチュニック、真っ赤なタブレットへとゆっくり視線を上げて、そこからはさらに鈍い動きで見上げていく。目と目が合う位置までようやく顔を上げると、美しい顔面をした男が憎らしそうにこちらを見つめていた。銀色の髪が陽光を受けてキラキラと光っている。

「べ、ベルナルド……」

 思わず名を呼ぶと、彼はますます顔を険しくした。

「僕は君に……好き、だと、言われた覚えがあるのだが」
「え? あ、ああ……」

 初夜のことを言っているのだろう。抱き合った時のことを思い出しているのか、険しい表情ながらもその頬はわずかに上気していて、なんだかこちらまで照れくさくなってくる。

「……君は、手慣れているふうだった」

 若干脈略のないことを言われて、今度は戸惑う。彼が何を言いたいのか、ちっとも分からない。頬は赤いままで、けれど目の色をわずかばかり落として彼は続けた。

「あの夜の全てがリップサービスだったと言うなら……仕方がない。君にそんなことをさせて、すまなかった」
「え? あ、いや……」

 よく分からないうちに勝手に話が進んでしまっているようだった。

 あの日のリュカは心のままにベルナルドを求めていた。好きだと告げたのも身体を繋げたのも自分の意思であることは間違いない。ただ、その後に事情が変わってしまっただけで。

「……せっかく妃になってもらったのに、番になれなかったことも申し訳ないと思っている」

 その表情には本当に申し訳なさが滲み出ていて、思わずその身を抱きしめたくなった。伸ばしかけた手を、自分の使命が引き止める。

 ベルナルドが両手をぎゅっと握りしめた。大きな瞳をカッと見開く。

「けれども……どこかに行ってしまえばいいのに、という言葉は……!」

 あまりにまっすぐな目にリュカが慄いた時、彼を制止する声がかかった。

「ベルナルド殿下。リュカ妃殿下が怖がっておいでです」
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