死に戻りの王子妃は今度こそ溺愛を逃さない

海辺ユジン

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 頬を撫でてくれる手に自分のそれを重ねようとして、やっぱりできなかった。口を開かないリュカに何を思ったのか、そっと離れていく手のひらに切なさが込み上げる。温かな手はもう一度リールの頭を撫で、ゆっくりとベルナルドの方へと引き戻された後、どうしてか自身の腹部をさすり始めた。

「腹が……」
「え?」
「痛すぎる……」
「えっ?」

 これまでの流れをぶった斬る発言に、目を瞬かせた。腹が、痛い。痛すぎる。なんだその間抜けな言葉は……。

 額に脂汗を滲ませながら、ベルナルドは下手くそな笑みを見せた。

「君の手料理はあまりに辛かったから……慣れないものを食べて、胃が驚いているらしい」

 しばし静止してから、一気に脱力した。切なさで満たされていた自分がなんだか馬鹿馬鹿しくなる。

「なんだよ、ずっと我慢してたのか?」
「君と犬の邂逅を邪魔するわけにはいかないと思って……」
「大袈裟だな、まったく。マークル、医者を呼んでくれ」
「……いい、呼ばなくて」
「え? でも……」
「君は……こういう時、どうしているんだ」
「こういう時?」
「辛いものを食べて腹を壊した時、どうやって対処しているんだ」

 リュカも辛いものを避けてきたのでそんな経験はほとんどなかったが、幼い頃に屋台で食べた料理で腹を壊したことはあった。

「ベッドの上で小さくまるまって痛みに耐える、とか……あったかくしてるとさ、不思議と少し楽になるんだ」
「そうか……」

 そう言ったきり黙り込んだベルナルドに、ひょっとして甘えたいのだろうかと思い至った。ちらりとマークルの方を見てもあまり心配している様子はない。主人思いの彼があれだけ飄々としているのだから、とっくに医者には診せたのかもしれない。薬も飲んだ上でリュカの部屋にやって来たのだとしたら、彼がほしいのは妻からの優しさなのだろう。

 具合が悪い夫を相手にさすがに意地悪をするわけにはいかない。そう自分に言い訳をした。

「ちょうど、そこにあったかいベッドがあるけど」

 ぶっきらぼうに言うと、ベルナルドは分かりやすく目を輝かせた。可愛さに胸がぐっと苦しくなる。

「……あったまっていくか?」
「君がいいのなら」

 食い気味に返されて、本当に腹が痛いのか怪しくなった。空気を読んだマークルが部屋を出ていく。

 ベッドに近付くと、リールをそこに下ろした。シーツの上をぴょんぴょんと跳ねている。

「犬は体温が高いから、何よりあったまると思うけど」

 ベッドに入ることを躊躇うベルナルドにそう言うと、再び不安そうな顔をされた。

「毛布に包まれた犬は特に良い。毛がふわふわで、香ばしいポップコーンみたいな香りがする」
「ポップコーン……」

 多少なりと心惹かれるものがあったらしい。

「顔をうずめてごらん」
「か、顔を……!?」
「ああ、それが一番キマる」

 つい先程、ようやく頭を撫でることができたのだ。さすがにまだ厳しいかと思ったのに、彼はぎゅっと目を瞑って、えいっとリールの身体に顔をうずめた。ふわ……と彼が纏う空気が柔らかくなる。

 五秒、十秒と経っても顔を上げてこないので、恐怖心で気絶したのではないかと不安が芽生えた。

「おい、大丈夫か……?」

 さすがに声をかけると、ようやく起き上がってきた。

「劇薬だ……腹の痛みが、嘘かと思うほどに引いた」

 真剣な表情でそう話す彼に声を上げて笑う。

「そりゃあ良かった」
「犬好きはこんな代物を隠していたのか?」
「隠してたなんて人聞きが悪いな。俺はいつだってお前にも教えてやる気でいたさ」

 そうだ、一度目の人生の時だって、こんなふうに過ごせたらと思っていたのだ。二人と一匹で共に生きていくことを望みながら、リュカは死んでいった。

 妙に切なくなっていると、ベルナルドが「一緒にベッドに入らないか」と、突然誘ってきた。

「えっと……それは、お誘い?」
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