19 / 20
19
しおりを挟む
頬が熱くなるのを自覚しながら尋ねる。
「あ、いや、違う! けっして、変な意味ではなく……」
リュカ以上に赤くなった顔で大慌てで否定された。全力で撤回されると多少なりと腹が立つ。
「ただ……あたたかい場所でなら、少し楽になれると、さっき君が教えてくれたから」
リュカが切なくなっていたことに、彼は気が付いていたようだった。ほんの一瞬の翳りを、この男はどうして見逃してくれないのだろう。優しさが胸に痛い。だけど、その気遣いは、夫婦としての義務的な夜の営みよりよほど愛に溢れていて、断る言葉が一つも浮かばなかった。
「……リールと一緒に寝てくれるならいい」
「リール?」
「この子の名前」
「ははっ。君が決めてしまったのか?」
「当たり前だ」
言い切るとベルナルドは楽しそうに笑う。
「もう顔をうずめた仲だからな。この子とも眠れると思う」
言葉通り、彼はリールが隣に寝転がっていても平気そうだった。間に愛犬を挟んで、ベッドに横たわる。リールを撫でる手はいまだ不器用で、そんなことが愛おしい。温かい場所に共にいると、ふいに心の奥深くまで明け渡したくなってしまった。
「なあ、ベルナルド」
無意識に甘えるような声が出た。彼の相槌も同じく甘い。
「変なことを訊いてもいいか」
「変なこと? もちろん、いいけれど」
やっぱりなんでもない、と言おうか悩んで、結局引き返せなかった。胸のうちにあるわだかまりを、苦しみを、彼にほんの少しでもいいから知ってほしかった。
「もし……大切な人に嫌われる必要があったら、お前はどんなふうに振る舞う?」
「大切な人に嫌われる必要? いったいどういうシチュエーションなんだ?」
「いいから、とりあえず考えてみろよ」
リールを撫でる手が半端なところで止まっている。腑に落ちないながらも真剣に考えてくれているらしい。
「……僕はひどく不器用で、大切な人に本音を話すことすらろくにできない。嫌われようとしなくとも、簡単に嫌われてしまう」
一度目の人生の時を思い出す。彼は確かに不器用で、ちっとも愛想がなくて、初夜を失敗して以降、修復できないまま二人の夫婦生活は突然終わってしまった。
「……だけど、そうだな。いざ本当に嫌われたら、そうなって初めて本音でぶつかれるんだと思う。嫌われたくないと泣いて縋って、でも結局うまく伝わらなくて……」
伝わってた、とリュカは思う。
(ちゃんとお前の愛は俺に届いてたよ。お前が俺を想って泣く姿を、ずっとそばで見てたんだ)
彼はそのことを知らないけれど、自分だけは一生忘れない。彼の愛を抱きしめ続ける。
「離れていく人の背中を、僕はずっと忘れられないでいるんだと思う」
まるでそんな経験があるみたいに、力の籠った声でベルナルドは話した。
「……すまない、質問の答えになってないな。大切な人に嫌われる必要があるんだとしたら、僕はきっとその状況に耐えられずに相手から距離を置いてしまうと思う。そうやって、じわじわ嫌われるのを遠くで待つよ」
「……ベルナルドらしいな」
「ああ、僕もそう思う」
リュカもそうできたら良かった。だけど、彼は引きこもりの妃だったリュカを、あんなにも愛してくれたのだ。距離を置いてもじわじわ嫌ってはくれないだろう。
今も彼はあの時と同じくらいリュカを愛してくれているのだろうか。少しも嫌ってはいないだろうか。嫌っていてくれないとまずい。嫌っていてほしくない。愛していてほしい。
「……ベルナルドには、そういう大切な人がいるのか?」
「あ、いや、違う! けっして、変な意味ではなく……」
リュカ以上に赤くなった顔で大慌てで否定された。全力で撤回されると多少なりと腹が立つ。
「ただ……あたたかい場所でなら、少し楽になれると、さっき君が教えてくれたから」
リュカが切なくなっていたことに、彼は気が付いていたようだった。ほんの一瞬の翳りを、この男はどうして見逃してくれないのだろう。優しさが胸に痛い。だけど、その気遣いは、夫婦としての義務的な夜の営みよりよほど愛に溢れていて、断る言葉が一つも浮かばなかった。
「……リールと一緒に寝てくれるならいい」
「リール?」
「この子の名前」
「ははっ。君が決めてしまったのか?」
「当たり前だ」
言い切るとベルナルドは楽しそうに笑う。
「もう顔をうずめた仲だからな。この子とも眠れると思う」
言葉通り、彼はリールが隣に寝転がっていても平気そうだった。間に愛犬を挟んで、ベッドに横たわる。リールを撫でる手はいまだ不器用で、そんなことが愛おしい。温かい場所に共にいると、ふいに心の奥深くまで明け渡したくなってしまった。
「なあ、ベルナルド」
無意識に甘えるような声が出た。彼の相槌も同じく甘い。
「変なことを訊いてもいいか」
「変なこと? もちろん、いいけれど」
やっぱりなんでもない、と言おうか悩んで、結局引き返せなかった。胸のうちにあるわだかまりを、苦しみを、彼にほんの少しでもいいから知ってほしかった。
「もし……大切な人に嫌われる必要があったら、お前はどんなふうに振る舞う?」
「大切な人に嫌われる必要? いったいどういうシチュエーションなんだ?」
「いいから、とりあえず考えてみろよ」
リールを撫でる手が半端なところで止まっている。腑に落ちないながらも真剣に考えてくれているらしい。
「……僕はひどく不器用で、大切な人に本音を話すことすらろくにできない。嫌われようとしなくとも、簡単に嫌われてしまう」
一度目の人生の時を思い出す。彼は確かに不器用で、ちっとも愛想がなくて、初夜を失敗して以降、修復できないまま二人の夫婦生活は突然終わってしまった。
「……だけど、そうだな。いざ本当に嫌われたら、そうなって初めて本音でぶつかれるんだと思う。嫌われたくないと泣いて縋って、でも結局うまく伝わらなくて……」
伝わってた、とリュカは思う。
(ちゃんとお前の愛は俺に届いてたよ。お前が俺を想って泣く姿を、ずっとそばで見てたんだ)
彼はそのことを知らないけれど、自分だけは一生忘れない。彼の愛を抱きしめ続ける。
「離れていく人の背中を、僕はずっと忘れられないでいるんだと思う」
まるでそんな経験があるみたいに、力の籠った声でベルナルドは話した。
「……すまない、質問の答えになってないな。大切な人に嫌われる必要があるんだとしたら、僕はきっとその状況に耐えられずに相手から距離を置いてしまうと思う。そうやって、じわじわ嫌われるのを遠くで待つよ」
「……ベルナルドらしいな」
「ああ、僕もそう思う」
リュカもそうできたら良かった。だけど、彼は引きこもりの妃だったリュカを、あんなにも愛してくれたのだ。距離を置いてもじわじわ嫌ってはくれないだろう。
今も彼はあの時と同じくらいリュカを愛してくれているのだろうか。少しも嫌ってはいないだろうか。嫌っていてくれないとまずい。嫌っていてほしくない。愛していてほしい。
「……ベルナルドには、そういう大切な人がいるのか?」
13
あなたにおすすめの小説
自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話
あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」
トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。
お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。
攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。
兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。
攻め:水瀬真広
受け:神崎彼方
⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。
途中でモブおじが出てきます。
義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。
初投稿です。
初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
国民的アイドルの元ライバルが、俺の底辺配信をなぜか認知している
逢 舞夏
BL
「高校に行っても、お前には負けないからな!」
「……もう、俺を追いかけるな」
中三の卒業式。幼馴染であり、唯一無二のライバルだった蓮田深月(はすだ みつき)にそう突き放されたあの日から、俺の時間は止まったままだ。
あれから15年。深月は国民的アイドルグループのセンターとして芸能界の頂点に立ち、俺、梅本陸(うめもと りく)は、アパートでコンビニのサラミを齧る、しがない30歳の社畜になった。
誰にも祝われない30歳の誕生日。孤独と酒に酔った勢いで、俺は『おでん』という名の猫耳アバターを被り、VTuberとして配信を始めた。
どうせ誰も来ない。チラ裏の愚痴配信だ。
そう思っていた俺の画面を、見たことのない金額の赤スパ(投げ銭)が埋め尽くした。
『K:¥50,000 誕生日おめでとう。いい声だ、もっと話して』
『K』と名乗る謎の太客。
【執着強めの国民的アイドル】×【酒飲みツンデレおじさんV】
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
-----------------------------------------
0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新
婚活アプリのテスト版に登録させられたら何故か自社の社長としかマッチング出来ないのですが?
こたま
BL
オメガ男子の小島史(ふみ)は、ネットを中心に展開している中小広告代理店の経理部に勤めている。会社が国の補助金が入る婚活アプリ開発に関わる事になった。テスト版には、自社の未婚で番のいないアルファとオメガはもちろん未婚のベータも必ず登録して動作確認をするようにと業務命令が下された。史が仕方なく登録すると社長の辰巳皇成(こうせい)からマッチング希望が…
竜神様の番
田舎
BL
いつかX内で呟いた、
『えーん、えーん…💦
竜人の攻めが長いこと探してた番の人間くんを探して(半強制的)に結婚したのに、ツンデレどころかクーデレが過ぎてたせいで、ある日人間くんが「離縁します」と置き手紙残して失踪…!
後悔とブチギレしてる話がなきゃ掃除と洗濯できない😭😭』
という自分の愚痴から始まったツイノベもどきを、再構成と校正しました。
「番」とは何かも知らされず、
選択肢すら与えられなかった人間リオと、
大切にしている“つもり”だった竜人のナガレ。
ちゃんとハッピーエンドです。
妹の代わりにシロクマ獣人と真っ白婚!?
虎ノ威きよひ
BL
結婚相手が想像以上にシロクマでした!!
小国の王子ルカは、妹の代わりに政略結婚することになってしまった。
結婚の相手は、軍事大国の皇子のクマ獣人!
どんな相手だろうと必ず良い関係を築き、諸外国に狙われやすい祖国を守ってもらう。
強い決意を胸に国を渡ったルカだったが、城の前にデンッと居たのは巨大なシロクマだった。
シロクマ獣人とは聞いていたが、初対面で獣化してるなんてことがあるのか!
さすがに怯んでしまったルカに対してシロクマは紳士的な態度で、
「結婚相手のグンナルだ」
と名乗る。
人の姿でいることが少ないグンナルに混乱するルカだったが、どうやらグンナルにも事情があるようで……。
諸事情で頻繁にシロクマになってしまう寡黙な美形攻め×天真爛漫でとにかく明るい受け
2人がドタバタしながら、白い結婚から抜け出す物語
※人の姿になったりシロクマ姿になったりする、変身タイプの獣人です。
※Rシーンの攻めは人間です。
※挿入無し→⭐︎ 挿入有り→★
※初日4話更新、以降は2話更新
偽りの聖者と泥の国
篠雨
BL
「感謝すら忘れた者たちに、明日を語る資格はない」
自らの都合で聖王セシルを追放し、異世界から新たな「勇者」を召喚したアドレアン聖王国。
しかし、その身勝手な選択が、国を、大地を、そして人々の心を根底から腐らせていく。
壊れゆく少年勇者と、彼を歪に愛した騎士。
二人の執着が交わったとき、聖王国は二度と再生不能な終焉へと突き進む。
裏切り者たちには、因果応報という名の、容赦なき報いが下る。
これは、傲慢な国が崩壊するまでの、無慈悲な記録。
-----------------------------------------
『嘘つき王と影の騎士』から引き続き読んでくださる皆様へ
この物語は、セシルを虐げた者たちが、ただただ因果応報の末路を辿るだけの物語です。
本編に救いはありません。
セシルたちのその後が気になるという方は、本編は飛ばして、最終話の後に掲載する「閑話」のみをお読みいただくことをお勧めいたします。
本作は『嘘つき王と影の騎士』の続編となりますが、前作をお読みでない方でも一つの物語としてお楽しみいただけます。
第八皇子は人質王子を幸福にしたい
アオウミガメ
BL
属国から皇国へ送られてきたのは、留学とは名目ばかりの人質王子。――祖国を離れ、いつ命を奪われても仕方のない国で、王子ははじめて安堵する。
不遇の人質王子が、愛され愛を知り、幸福な日々を送る物語。
注意:
・性表現のある場合は、※をつけます。苦手な方はご注意ください。
・基本※部分は読まなくても支障はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる