死に戻りの王子妃は今度こそ溺愛を逃さない

海辺ユジン

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 頬が熱くなるのを自覚しながら尋ねる。

「あ、いや、違う! けっして、変な意味ではなく……」

 リュカ以上に赤くなった顔で大慌てで否定された。全力で撤回されると多少なりと腹が立つ。

「ただ……あたたかい場所でなら、少し楽になれると、さっき君が教えてくれたから」

 リュカが切なくなっていたことに、彼は気が付いていたようだった。ほんの一瞬の翳りを、この男はどうして見逃してくれないのだろう。優しさが胸に痛い。だけど、その気遣いは、夫婦としての義務的な夜の営みよりよほど愛に溢れていて、断る言葉が一つも浮かばなかった。

「……リールと一緒に寝てくれるならいい」
「リール?」
「この子の名前」
「ははっ。君が決めてしまったのか?」
「当たり前だ」

 言い切るとベルナルドは楽しそうに笑う。

「もう顔をうずめた仲だからな。この子とも眠れると思う」

 言葉通り、彼はリールが隣に寝転がっていても平気そうだった。間に愛犬を挟んで、ベッドに横たわる。リールを撫でる手はいまだ不器用で、そんなことが愛おしい。温かい場所に共にいると、ふいに心の奥深くまで明け渡したくなってしまった。

「なあ、ベルナルド」

 無意識に甘えるような声が出た。彼の相槌も同じく甘い。

「変なことを訊いてもいいか」
「変なこと? もちろん、いいけれど」

 やっぱりなんでもない、と言おうか悩んで、結局引き返せなかった。胸のうちにあるわだかまりを、苦しみを、彼にほんの少しでもいいから知ってほしかった。

「もし……大切な人に嫌われる必要があったら、お前はどんなふうに振る舞う?」
「大切な人に嫌われる必要? いったいどういうシチュエーションなんだ?」
「いいから、とりあえず考えてみろよ」

 リールを撫でる手が半端なところで止まっている。腑に落ちないながらも真剣に考えてくれているらしい。

「……僕はひどく不器用で、大切な人に本音を話すことすらろくにできない。嫌われようとしなくとも、簡単に嫌われてしまう」

 一度目の人生の時を思い出す。彼は確かに不器用で、ちっとも愛想がなくて、初夜を失敗して以降、修復できないまま二人の夫婦生活は突然終わってしまった。

「……だけど、そうだな。いざ本当に嫌われたら、そうなって初めて本音でぶつかれるんだと思う。嫌われたくないと泣いて縋って、でも結局うまく伝わらなくて……」

 伝わってた、とリュカは思う。

(ちゃんとお前の愛は俺に届いてたよ。お前が俺を想って泣く姿を、ずっとそばで見てたんだ)

 彼はそのことを知らないけれど、自分だけは一生忘れない。彼の愛を抱きしめ続ける。

「離れていく人の背中を、僕はずっと忘れられないでいるんだと思う」

 まるでそんな経験があるみたいに、力の籠った声でベルナルドは話した。

「……すまない、質問の答えになってないな。大切な人に嫌われる必要があるんだとしたら、僕はきっとその状況に耐えられずに相手から距離を置いてしまうと思う。そうやって、じわじわ嫌われるのを遠くで待つよ」
「……ベルナルドらしいな」
「ああ、僕もそう思う」

 リュカもそうできたら良かった。だけど、彼は引きこもりの妃だったリュカを、あんなにも愛してくれたのだ。距離を置いてもじわじわ嫌ってはくれないだろう。

 今も彼はあの時と同じくらいリュカを愛してくれているのだろうか。少しも嫌ってはいないだろうか。嫌っていてくれないとまずい。嫌っていてほしくない。愛していてほしい。

「……ベルナルドには、そういう大切な人がいるのか?」
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