美食耽溺人生快楽

如月緋衣名

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隔世之感

隔世之感 第一話

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 自分がケーキだと知ったのは、それはそれは昔の話。今からもう九年も前の中学時代まで遡る。確かあの頃俺は14歳だった。
 
 
 確かに昔から少しだけ、人より危ない目には遭う方だった自覚はあるし、それなりに怖い思いもしてきていた。
 でも俺には強い味方が居たから、正直何にも怖くなかったのだ。
 
 
 瀬戸奏太。俺の幼馴染。ちいちゃい頃からずっと一緒で、危険な事があっても奏太のお陰でやってこれた。
 奏太は俺よりほんの僅かだけ背が高くて、ほんの少しだけ色素が薄い。俺とは違うくっきりとした二重瞼に優しい目元。長い睫毛。
 ふわふわの亜麻色の髪は柔らかくて、ほんの少しだけ顔に似合わず悪ガキだった。
 
 
 奏太も俺も同じくらいの体格だが、奏太の方がしっかりした体つきで、幼心に奏太に憧れていたのを今でも覚えている。
 
 
「涼は良いな、髪真っ直ぐで。広がらなさそうだ」
 
 
 俺の髪を奏太が触る時、ほんの少しだけドキリとする。今思えばあの時から俺は、奏太にちゃんと本能で惹かれていたと思う。
 
 
「………俺は奏太の顔が羨ましい。イケメンじゃん」
 
 
 そう言って笑うと奏太が照れ臭そうに顔をそむける。そして小さな声でこう言った。
 
 
「やめろよそういうの…………恥ずかしいから………。でも、涼は時々へんな奴に付き纏われるし、俺より全然モテてると思うな」
 
 
 この頃から俺には、俺に付き纏うおかしな大人というのが確かにいた。その時の俺はそれが何を目的としていて、何故俺に付き纏っているのかなんて少しもわからなかった。
 
 
「俺のはモテとかじゃねぇよ。なんか違う………」
 
 
 車で連れ去ろうとした奴もいれば、ただ付いてきただけの奴もいる。公園のトイレに入れば、変な人が一緒に押し入ろうとしてきた事さえある。
 けれどそのたびに奏太が俺の近くにいて、うまい事蹴散らしていてくれたのだ。
 助けを呼んだり、落ちていた棒を持って戦いを挑みにいったり。奏太は何時も俺を支えていてくれた。
 
 
「そうか?俺はお前の顔立ちは綺麗だと思う。涼の目は切れ長でカッコいい」
 
 
 奏太の言葉に思わず顔が熱くなり、俯く。
 
 
「ばっ、ばか!!!そういうのは俺みたいなのに言うなよ!!!」
 
 
 そう言って怒鳴れば、奏太はケラケラと笑った。
 俺と奏太は何時も大体一緒にいたし、喧嘩することも殆どなかった。まるでありのままお互いが其処に存在しているかのような、そんな感じ。
 ニコイチだとか相棒だとか親友だとか色んな言葉がいっぱいあるけれど、でもそれとは少しだけ違う。
 俺だけは多分あの頃から、奏太への恋を自覚していた。それがただ、何なのかを説明出来ないだけで。
 けれどそんな幸せな日々も、ある日突如として終わりを迎えたのだ。
 
 
***
 
 
 それは夏休みも近くなったある夏の日のことで、窓の外では蝉が鳴いていた。
 奏太は悪ガキではあるが、絶対に学校は遅刻しない。それにさぼるような真似も絶対にすることが無いのだ。
 そんな奏太の席は今日は空席で、なんだか不思議な気持ちになった。
 
 
『どうしたの?今日休みとか珍しいね』
 
 
 奏太が学校に来ないだけで正直俺は退屈で、正直暇で仕方がない。授業中にこっそり携帯を取り出し、奏太にメールを打つ。
 すると奏太からは直ぐに返事が帰ってきた。
 
 
『涼ごめん、俺今日具合悪いから休む。今日でたプリントとかそういうの涼持ってきてくれるか?』
 
 
 奏太から来たメールを見て、正直ほんの少しだけ心配な気持ちになり、慌てて返事を返す。
 
 
『え、何?風邪かなんか?わかったよ。後で行く』
 
 
 其処から奏太からのメールは途絶えてしまったままだった。
 学校が終わりじりじりと太陽に照り付けられながら、奏太の家まで歩いてゆく。アスファルトが熱を持っているのが、地面からの熱気で伝わるのだ。
 この時の俺はこの後に起きる事なんて全く想像もしておらず、ただ悠長に夏休みにどう過ごせばいいかしか考えていなかった。
 奏太の家に向かう途中でコンビニエンスストアでプリンを二つ買う。
 そして俺は、奏太の家へと急いだ。
 
  
 奏太の家に着いてインターフォンを押す。すると二階の窓から奏太がひょっこり顔を出した。
 
 
「………今行く!!」
 
 
 正直奏太の声色は何時もと余り変わりはない。正直体調不良の理由がよくわからない。
 玄関のドアが開いて奏太がひょっこり顔を出す。そして俺に向かい手招きを始める。
 俺は奏太に導かれるがままに、奏太の家に上がり込んだ。
 
 
***
 
 
 学校指定のローファーを脱いで玄関に並べ、奏太の後を追いかけ二階に上がる。
 奏太の親は丁度仕事で出かけていて、奏太の家には俺と奏太の二人きりだ。
 奏太の部屋に入ると、奏太はベッドの上に飛び込んでいた。
 
 
「あっれ………?奏太病気なんじゃないの?」
 
 
 思っていたより元気そうな奏太に尋ねると、奏太が面倒くさそうな表情を浮かべる。そして頭を掻きながらこう言った。
 
 
「いや、なんかさ、食べ物の味しなくなったんだよね」
「え?」
 
 
 思ったより深刻そうな症状に固まれば、奏太は深くため息を吐く。
 
 
「じきに治ると思うんだけどさ。まぁちょっと涼来たくらいからなんか変な感じするから熱でも上がるのかな?」
 
 
 そう言って笑う奏太に、わざと嫌そうな表情を浮かべる。そして俺は冗談っぽくこういった。
 
 
「俺に遷すのはやめろよー?ところでさっきおやつ買ってきたから後で食べてよ味わかんないかもしれないけど」
 
 
 奏太にプリントとさっき買ってきたプリンの入った袋を手渡す。それを受け取った時、奏太は不思議な事を言い出した。
 
 
「何?さっきから匂いするけどショートケーキ?」
 
 
 ショートケーキ?俺が買ってきたものはプリンだ。ショートケーキだなんてどうして思ったのだろう。
  
 
「え?プリンだよそれ」
 
 
 そう返した瞬間に、奏太が俺に近付いてきた。さっきよりほんの少しだけ具合が悪そうな雰囲気に、気持ちが焦ってゆく。
 
 
「奏太……!!ベッドに寝よう……!?」
 
 
 そう言って叫んだら、奏太が俺ごとベッドに倒れてきたのだ。
 奏太とベッドの上で身体が重なり、何だかとても変な気分になる。
 すると奏太が俺の上に乗り上げて、小さく囁いた。
 
 
「涼から……ショートケーキの匂いがする………あれ……なにこれ……」
 
 
 奏太が俺に顔を近付けて、俺の顔を撫でる。こんなに近い距離になったのは、正直初めてだ。
 奏太が執拗なまでに俺の顔を撫でまわし、正直ドキドキが止まらない。
 すると奏太がいきなり俺の唇に唇を重ね合わせた。
 
 
「んっ…………!!!」
 
 
 あまりの驚きに目をぎゅっと閉じると、奏太は無理矢理俺の口の中をこじ開けて舌を絡ませる。
 眩暈がした。憧れだった。そして恋だった事を理解した。
 奏太に触れられて感じる自分に、俺は正直全ての合点がいった。
 でも口内を犯されているかのような感覚に身体を震わせるけれど、状況の異質さは手に取るようにわかる。
 
 
「甘い……なにこれ……涼が甘い……甘い……」
 
 
 奏太がそう囁きながら俺の首筋に舌を這わせる。俺は正直、俺自身が甘い理由さえわからずに奏太に身体を貪られていた。
 
 
「まって………奏太どうしたんだ……?」
 
 
 奏太の頭を掴んで顔をこっちに向かせた瞬間、奏太の目の瞳孔が開ききってる事に気が付く。
 俺はその時に、本能的な恐怖を感じた。
 奏太から逃れようと奏太を振り払い、奏太に向かい背を向ける。ベッドのマットレスを這いながら逃れようとした瞬間、俺の背中の左側に強くて鋭い痛みが走った。
 
 
「あぐっ…………!!!!」
 
 
 奏太が俺の事を噛んでいる。俺の背中にものすごい力で噛み付いている。まるで俺を食べようとしているみたいだ。
 あまりの痛みに生理的な涙が溢れ、ガチガチと歯がなるのが解る。
 
 
 怖い。とても怖い。怖くて怖くて仕方ない。
 
 
 奏太は我を失ったかの様に俺の制服のワイシャツを引きちぎり、俺の身体を倒す。
 そして奏太は俺の身体を激しく貪り始めた。
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