感情ミュート

東 里胡

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カラリとした夏の陽ざしは容赦なく肌を焦がす

気がついて⑤

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「取ろうか?」

 脚立を使わずに、ロッカーの上にある救急箱に背伸びをしていたら、後ろからそんな声がかかった。
 私の真後ろに立つその人は軽々と手を伸ばし取ってくれて。

「はい」

 と私に手渡してくれる。

「ありがとう、奏太くん」
「どういたしまして」

 いつかの似たようなやり取りは朝陽とだったな、なんて思いながら奏太くんの横をすり抜けようとしたら。

「リツ、花火の話聞いた? 星から」
「あ、うん」

 何となくその話を奏太くんとしているのが居心地が悪い。
 部室の中は窓も扉も開けっ放しとはいえ二人きりだし。
 今日は風がないせいか暑さも籠っているし。
 色んな理由があって、早くここから抜け出したくなってしまう。

「楽しみだね! 浴衣着る?」
「あ、浴衣……」
「ん?」
「実家に置いてきたまんまだから、着ない……」
「そっか、残念。リツの浴衣、見たかったな」

 奏太くんの言葉をイチイチ意識してしまいそうなのは、あーちゃんや朝陽の話のせい。
 何となく困っている。
 本人からは何も聞いていないのに周りからお膳立てされているみたいな状況。

 奏太くんは素敵だし、優しいし、いい人だ。
 でも、二人きりはやっぱり困る。
 誤魔化し笑いしかできずに沈黙が続くと。
 どこからかミーンミーンという大きな蝉の声だけが部室の中に響いてきて、それが止んだら一瞬の静寂が訪れた。

「ここ、暑いな。リツも早いとこ、外出なよ? 外の方がまだ涼しいから」

 静けさに先に耐え切れなくなった奏太くんが、じゃあと外に出ていく。
 一人になって少しホッとした私はベンチに救急箱の中身を並べる。その前にしゃがみ込み、あーちゃんから聞いたメモを元にチェックをしていく。
 足りないものはないか、予備はどれぐらいか。
 チェックを終えて箱の中に戻し、立ち上がろうとした瞬間、目の前が真っ暗になって耳の中でキーンと音がした。
 ヤバイ、なんかダメだ、これ。
 そのまましゃがみ込み、ベンチによりかかる。
 立ち眩みか貧血か? 熱中症かな? わかんないけれど。
 いずれにせよ、これはマズイ。
 気持ちが悪い、グルグルしてきて。
 そのまま意識が遠のいた。

 遠い場所で誰かが呼んでいる気がした。
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