感情ミュート

東 里胡

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秋色は一瞬で余韻もなく白に変わる

交錯する③

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 まだ始業時間までは余裕があるしと、自転車を押しながら奏太くんの話を聞いた。

「夕べ寝る間際になってから、いきなりサッカー部辞めるとか言うからさ! 朝陽」
「昨日の赤塚先輩のことで?」

 私が食い気味に尋ねた瞬間に、奏太くんは驚いた顔で私を見た。

「リツが」
「ん?」
「普通に話してる」

 奏太くんの指摘で初めて気づく。
 どうして朝陽のこととなると頭と口が直結しちゃうんだろう。
 ちゃんと聞いて考えて、それから話さないと。もし自分の言ったことで誰かが傷ついてしまったら……、母さんみたいに。

「リツから見て朝陽ってサッカー嫌いなように見える?」

 見えない、としっかり頭を振った。
 
「でしょ、俺もそう思う。あんなに上手いし元々嫌いで辞めたわけじゃないし」

 ……ん? 奏太くんの言葉に引っかかる部分があって、それをどう聞いたらいいのか迷っている内に。

「なのに、嫌いだから辞めたいって笑ったからさ、朝陽。嘘つくな、って! んでケンカになったのよ」

 それから腹立って口きいてない、と奏太くんは頬をふくらませた。

「……朝陽くん、そう言って辞めれば、皆怒って引き留めなくなるって思ってるんだべさ」
「リツ?」
「嫌いなわけないっしょね、楽しそうだったもの。赤塚先輩が戻りやすいように、嫌いだって言ってるだけでしょや」

 嫌いなわけがない、朝陽は絶対にサッカーが大好きだ。

「……俺もそう思う。したから俺にくらいはちゃんと話せばいいと思わね?」

 奏太くんの寂しそうな顔を見れば気持ちはわかる。
 だけど朝陽は、奏太くんがイトコで自分をチームに入れた人だからこそ。赤塚先輩や三年生に奏太くんまで悪く思われないように遠ざけようとしたんじゃないかな?

「後で皆で話そう、奏太くん」
「帰り?」
「うん、私が朝陽くんとあーちゃん誘うから。仲直りしよう?」

 奏太くんが寂しそうなのと同じように、朝陽もきっと落ち込んでいる。

「何か、今日のリツ頼もしいね」
「あ、……ごめんなさい」
「いや、そうでなくてさ。リツってあんま喋らないし、俺と一緒にいてもつまんないのかもって思ってたから、いっぱい話せて嬉しいわ」

 奏太くんの笑顔に申し訳なく思うのは。
 私がこんなにいっぱい話せたのは朝陽のことだったからだ……。
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