社内恋愛はじめました。

柊 いつき

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【spin-off】bittersweet first love

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「やっぱりいた。本当、飽きないねぇ」

「うるせえな。授業は一限だけで、バイトもないから来てんだよ」

海から上がったばかりの俺は、海水が纏わりついた髪が鬱陶しい。無造作に頭を降ると傍にいた田山は「冷たいからやめろ」と身震いした。

季節は巡り、今は秋。もうすぐ冬に差し掛かろうとしていた。

ウェットスーツを着込み、全身ずぶ濡れの俺に対し、冬の海の寒さ対策で厚地のパーカーを着込んでいる田山。通常の冬の海はその寒さから閑古鳥がなくくらいに人気がないようだが、ここ湘南の海は例外だった。気がつけば遊歩道は海風があるというのにペットの散歩コース。海に入ろうが入るまいが、人が全く居なくなるということは皆無に等しいこの場所は物好きの集まる場所だろう。かという俺もこの海に入り浸っていた。

夏の終わりに田山にお遊びサークルに誘われ、ハマったのがこのサーフィン。ここはサーフィンのメッカだった。

「で、なに?」

先程の波乗りで耳に違和感を感じた俺は、頭を傾けこめかみ辺りを手で叩きながらサーフボードを砂浜に立てかける。田山はポケットに手を突っ込みながら、不敵な笑みを浮かべた。

「...昨日の合コンでさぁ、したでしょ?ずっと端っこにいた女の子...美奈子ちゃんって言ったっけ?」

それを聞いた俺は、大いに心当たりがあり。心の中で舌打ちするとすらっとボケた。

「誰、それ?そんな名前の子、知らない。勘違いじゃないのか?」

「またまたぁ、2人で消えるとこ見たって聞いたんだからさぁー。で、どうなん?なんでお前ばっかり...」

ネタはあがってんだぁと、息巻く田山を相手にするのが馬鹿馬鹿しくなった俺は隙を見て、立てかけてあったサーフボードを再び抱え、海へと向かう。

「後で詳しい事教えろよなー」

好奇心剥き出しの田山の叫びは、聞かない、聞こえないと、海に入るなり、浅瀬の波にサーフボードを浮かべ、パドリング。だが、いい波が来そうになかったのでパドリングはやめ、そのままユラユラとうつ伏せのまま身を任せる。

...面倒くせーな。でも、なんでバレたんだろ?

確かに昨夜の合コンの後、近くにいた女子を持ち帰ったが、これは今に始まった事じゃない。

田山の所属しているサークルは俗にいう出会いサークル。お互いに出会い目的なのだから、男女の出会いに事欠かなかった。昔の俺だったら、こんなサークルは興味もないし、入る事もなかっただろう。今みたいに刹那的に女性と関係を持つなんてあり得なかった。

昨夜も刹那的に女性を誘った。後腐れない関係を望み、合意の上で深夜まで抱き合っていたから、サーフボードにべったりと身を委ねると眠くなりそうで、瞼が重い。

そして、つい、気が緩むとどうしても思い出してしまう事がある。

『藤澤の事がずっと前から好きだった』

今でも繰り返し、繰り返して、頭にこびりついているのは、あの日の高澤。


あの日から。

あの日からずっと見知らぬ誰かと身体を重ねていたのは、彼女の幻影を忘れる為。

初恋は『レモンの味』

甘酸っぱいものだと形容してのことだろうが、俺に訪れた初恋はなんとも毒々しく、苦しいものだったか。

例えるなら、白雪姫の毒林檎。
さしずめ、俺は王子様の目覚めのキスを待つ白雪姫か?

...馬鹿馬鹿しい。

と、思う現実主義リアリストの俺なのに、不毛な事をしている自覚はない。



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