小鬼は優しいママが欲しい

二年目の春

　暗かった部屋が少しずつ明るくなる気配を感じとる。北向の寝室で朝日が直接入らずとも、外が照らされれば部屋は自然と明るくなった。
　もう少し横になっていたかったなという気持ちは封印して、布団から這うように出て、閉めきっていたカーテンを開く。
　今日も今日とて、よく晴れた朝である。
　日付は四月五日。今日は、子どもが通う高校の始業式だ。その子どもはまだ掛け布団にくるまっていて、夢にしがみついている。
「アラームが鳴ったら起きろよ」と声をかけて、ひとまず顔を洗いに行った。その後で、仕事に行く支度を進めつつ、自分の分と子どもの分の朝食を作る。
　メニューは、俺が普通の白飯で、子どもはお茶漬け。おかずは昨日作った肉じゃがの残りと、豚汁。今から作る目玉焼きと焼いたベーコンだ。忙しい朝は、これだけ作れば十分だ。
　テレビをつければ、見知った顔のアナウンサーたちが今朝までに入っているニュースを読み上げている。この後は芸能情報だ。
　三月に行われた事務所主催のイベントで、まだ現役芸能人をしている友人がインタビューを受けたのだが、インタビューをしてきたのはこの番組の取材班だ。あのインタビューいつ放送されるんだっけなと思い至ったところで、小鬼がよぼよぼとリビングに姿を現した。

「おはーー……」

「おう」

　食事の準備が進められているダイニングではなく、いつもの定位置に向かっている。

「こら、春休みもう終わったぞ」

「こっちで食べるー」

　朝から始まった子どもの我が儘に、自然と深い場所から息が出る。
　が、我が儘が嫌なわけではない。この子どもの我が儘は、元気な証拠だ。
　裁判所で、親とも調査員ともたっぷり話したのか、子どもはすっきりとした表情（かお）をして戻ってきた。崩していた体調も快復傾向で、食事の量も戻っている。
　芸能情報をだらだらと見ている子どもを急かしつつ、俺も食事を進めて、食器を片付けたり着替えたりと、ばたばたと慌ただしく朝は過ぎていく。そして、二人一緒に家を出た。
　俺と小鬼の慌ただしい二年目の幕開けだった。