小鬼は優しいママが欲しい

siyami kazuha

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小鬼が戦う日

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 景色が流れていく様を、車の窓から眺めていた。
 月は変わって、四月一日。空も真っ青で、新しい年度が始まるこのよき日だと言うのに、俺の心は曇ったままだ。
 急に体調を崩した日から。否。それよりももっと前から、心は曇り時々血飛沫である。そのせいで胃まで荒れに荒れて、パパの前で泣きながら吐くことになるとは思ってもいなかったけど。
 高校生のくせに、情けないところを見せてしまった。余計な心配をかけさせて、夜間救急に行く手間も取らせてしまった。何もなければ、ゆっくりとした休日を過ごせただろうに。
「お前のせいで、とんでもない目にあったよ」と、苦言の一つや二つぶつけてくれてもいいのに、パパはいつもと変わらず俺の世話をしてくれている。子どもが突然体調を崩したことには驚いてたけど、あとは至って普段通り。通常運転というやつだ。今日も、家裁まで送ってくれている。
 胃の方は、一番酷い時と比べたら多少はマシになった。まだ違和感はあるけれど、食べたものを戻すことはなくなっている。
 ぼんやりと外を眺めたままでいると、「着いたぞ」というパパの言葉が耳朶をついた。いつのまにか着いていたらしい。外を見ていたのにきづかなかった。それとも、気づかないうちに寝てしまっていたのか。
 まだ午前中の早い時間。駐車場にある車はまばらだけど、その中から母親の車(もの)を見つけてしまって、ひやりとしたものが胸に広がった。中に人が乗っている様子はない。きっと、もう建物の方に入っているのだろう。
 ちらりと、運転席に座ったままのパパを見る。パパは腕時計で時間を確認していた。

「もうすぐ、お前の父親が来る頃だな。……何かあったら、ちゃんと連絡するんだぞ。それと、終わってからもな。迎えに来るから」

 本当は送るだけのはずだったのに、パパは俺の体調を考慮してか、新年度初日を休みにした。入社式とかあったはずなのに、だ。
「わかった」と頷いてから、車を降りる。見送りのつもりか、パパも車を降りた。
 俺の父親が裁判所の敷地内に入ってくるのが見える。向こうも俺に気づいたらしく、足を止めて会釈した。会釈を返したのは、俺の隣にいるパパだ。
 どうしよう。今さらだけど、凄く緊張してきた。家庭の方とはいえ裁判所に来るの初めてだもの。
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