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うつくしい生き物
しおりを挟む「顔がにやけてる」
出社するなり、友人に指摘される。
俺は、にやけているという口許を反射的に隠した。
その反応が面白かったのか、友人がにやにやと顔の筋肉を緩める。
にやついてるのはお前の方ではないか。
「どうしたの? 何かいいことあった?」
「別に」と素っ気なく答えて自分の席に座る。
「わかった! 彼女とデートするんだな」
「違う」
いや、一緒に出掛ける予定は立ててあるから違わないけれど、違う。
息を一つ吐き出してから、口を開いた。
「子どもにな、角が生えたんだよ」
「角?」
「そう」
友人は一度首を傾げた後で、ようやく俺が何を伝えたのか理解したらしく、手を叩いて「おめでとう」と続けた。表情がとても華やか。自分の子どもがおめでたい日を迎えた時のような顔をしている。
「やっぱり、あの子ども鬼だったんだねえ。僕の目に狂いはなかったよ。お遊戯会で声かけて正解だったなあ」
子どもがこの事務所に来るきっかけが、この友人の目に留まったからである。子どもの幼い妹とこの友人の息子は、同じ幼稚園に通っていた同級生で、運動会やお遊戯会といった行事で何度か顔を合わせた後に、友人がスカウト感覚で声をかけたのだ。子どもは高校受験真っ只中だったが、高校に入学してからのバイト先も探している時だったらしく「手間が省けた」と言って、友人の話を呑んだ。
「お前、鬼だってよくわかったな」
「そりゃあわかるよ。鬼は【うつくしい】からね」
「うつくしい?」
「うつくしいよ。人間にはない儚さとか、魅力がある。それが立ってるだけでも伝わってくるのが凄い。目力が違うんだろうね。雑誌見てても、【この人、鬼だ】ってわかるもん」
「そういうものか?」
「俺にはわからん」と首を振ると、「君も鬼だからね」と笑われた。
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