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鬼の家に鯖
しおりを挟むピンポーンと、黒ネコで有名な宅急便のお兄さんが持ってきたのは、大きめの白い発砲スチールの箱だった。パパが洗濯物を干している間に、発砲スチールをキッチンへと運ぶ。なかなか重量のある荷物である。
届いたのは冷凍の品。送り主は、銚子に住んでいるパパのお母さん。品名には「鯖」と書かれている。俺の好きな魚、第一位だ。ちょうど鯖が食べたいなと思っていたところだったので、パパのお母さんナイスタイミングである。
俺がわくわくとした気持ちを抱えて発砲スチールを眺めていると、洗濯物が終わったパパが顔を覗かせた。
「母さんからだっただろう。なんだった?」
「鯖!」
いそいそと封を開けて、発砲スチールの箱を開ける。
中に入っていたのは、隙間無く埋められた鯖フィレの真空パック冷凍バージョン。銚子は漁師町だし、他の魚も入っているのではと期待して取り出してみたが、全部鯖だ。正確な数は数えていないけど、黙視だけでも二十はいる。予想を上回る量に、俺のわくわくとした心が急速に萎えていくのを感じた。え? なにこれ? 多くない?
「やりやがったな、あのババア」
覗いていたパパも頬をひきつらせていく。
「冷凍庫入りきるか?」と、パパがぼやきながら冷蔵庫に向かうけど、そうじゃない。そうじゃないって。誰がこの量食べるの?
確かに、俺は鯖が好きだ。塩焼きはもちろん、シメサバも味噌煮も竜田揚げも好き。鯖があれば、嫌いな白米もなんとか白米のまま食べられる。でも、物事には限度ってものがある。たとえ好きな鯖でも毎日は食べられない。
「ギリギリ入らなそうだなあ。まあ、今日二人分焼くとして、明日の分……」
パパが献立を考えはじめている。このままでは、鯖が無くなるまで春の食卓鯖祭りになってしまう。
「パパ……お姉さん(ママ)たちにもあげよう?」
パパはしばらく考えた後で「そうだなあ」と呟いた。
「八あれば足りる……か?」
「十五でも大丈夫だよ! ママは五人家族だから! 幼馴染みもよく食う男だから!」
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