小鬼は優しいママが欲しい

小鬼は自分の角に自信がない

　季節が進むにつれて、日中の気温も高くなってきた。少し前まで、ジャージを着ていないと寒くて仕方なかった体育も、五月の連休を過ぎた今となっては半袖でも暑いくらいだ。体操服の生地が厚いせいだと思いたい。
　一学期の体育は、バレーボール中心の授業だ。風通しの悪い体育館で五十分みっちりと授業をしてから、ようやく蒸し風呂みたいな体育館からおさらばできる。
　暑くて頭がぼーっとして仕方ない。これでは次の授業に身が入らないと、トイレの外に設置された手荒い場で、頭から水を被った。冷たい水が、髪を伝ってだらだらと垂れてくる。
「びしょびしょにすると、毛がうねるよ」と、後ろから見守っていた幼馴染みが忠告してきた。

「暑いんだもん」

「手洗い場はシャワーじゃないよ」

　まだ浴びたい気分だったけど、頭を上げる。
　鏡にうつる俺と目が合う。
　ぽたぽたと水を垂らした姿は一緒なのに、鏡の中の俺に角は生えていない。「どうして？」とパパに聞いたら、
「俺たちの本当の姿は鏡にうつらないんだよ」と言われた。

「髪の毛ペチャンコになると、角が目立つね」

　幼馴染みが苦笑しながら、俺の頭にタオルを被せる。

「言わないでよねー。結構気にしてるんだから……」

　どういうわけか、俺の角は他の鬼（やつ）よりも細くて小さい気がするのだ。生え始めたばかりというのもあるのかもしれないけど。
　唇を尖らせて言うと、幼馴染みは慈愛に満ちた笑みを見せる。菩薩様みたいに全てを赦してくれるような、優しくてあったかい笑顔だ。まあこの男のご先祖様、その菩薩様なんだけど。

「そのうち、立派な角になるよ。三年生の鬼を見てごらんよ。ご立派な角にピアス穴あけたり、リボン結んだり自由にしてるじゃん」

「芸能界でもよく見るけど、俺ああいうチャラいのはやだなあ。見ててぞわってする」

「身体中穴だらけなのに、これ以上穴をあけてどうしたいんだろう」と呟くと、幼馴染みがふっと吹き出した。
　俺、変なこと言った？