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盛夏の頃
筆
しおりを挟むサンプルで送られて来た曲を聴きながら、無地の紙にペンを走らせる。
書いているのは、子どもの新曲だ。子どもは、まだCDを出していない立場ではあるが、イベントや若手だけが集まるライブで歌う機会は十分にある。歌うものは俺のも含めた先輩の楽曲が多いが、そろそろ自分の曲を幾つか持たせてもいい頃合いだ。
箔がつくし、なによりデビュー後に行われるライブでデビュー曲しか歌うものがないという事態を回避できる。ライブの中で同じ曲を何回もやるのは、歌う方もだが聴く方も大変なのだ。
時折、使う詞に迷いながらも文字を並べていく。
俺の書く歌詞は、同じ意味の詞でも歌い手によってことばを変える。俺の曲なら大人っぽい単語を使うが、あの子どもには回りくどくない直球で伝わる単語を選ぶ。
そしてレコーディングで実際に歌い、あるいは歌ってもらい、もう少し良い詞が浮かべばそちらに変える。
紙が半分ほど埋まったところで、肺にたまった息を吐き出す。
それと同時に、子どもが顔を覗かせた。
「今日のご飯なにー?」
仕事をしている間に、夕飯の準備をする時間になっていたらしい。
まだ途中だが、子どもの空腹を満たす方を優先しようと席を立った時、米を切らしていた事を思い出した。明日はスーパーのセールがある日だから、その時に買おうと思っていたのだ。
米以外となると、家にストックしてある麺類か、外食で済ますしかない。
一応子どもに聞いてみると【外食】と即答された。
「じゃあ今から行くか」
「仕事中じゃないの?」
「仕事中だから気晴らしに出歩くんだよ」
「行くぞ」と声をかけ、扉の側に下げていたハンガーから上着を取る。
詞を並べ連ねていくのは大変だが、ぱっと当てはまると楽しい事に、現役の頃から気づいていた。
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