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応接室での会話

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「アレン、おまえは何でそんな事を言ったのだ」

「元から俺はこの結婚を断っていたのに、バングレー侯爵家が強引に進めたんじゃないか!
 ウルリカ嬢が俺に惚れ込んだから親の身分を笠に着て、無理やり婚姻を迫ったっていうんだから、最初が肝心だと思って言ったんだ!
 俺には愛する人がいる、おまえを愛することなど生涯ないと!」

「あらまあ、初耳ですわね。わたくしが? 貴方を? いつどこで見染めたというのでしょうか?」

「どこかの夜会でだろ!?」

「わたくし、この三年間、隣国の魔法学院に留学していましたの。
 この国ではまだ社交デビューしておりませんわ」

「え?」

「昨日帰国したばかりで、今日はいきなり朝から念入りに身支度されて、ウェディングドレスを着せられて、問答無用で教会に連れて行かれたのですわ。
 自分の婚姻式を知らされていなかったわたくしの驚きと絶望感、少しは察してくださいませ」

「「「はぁ!?」」」

「婚約が調ったとは知らされておりましたが、その婚約者の方とは面識もなく、今日が初対面。
 ですが、わたくし空気を読みましたの。
 あれほど多くの招待客がいる中で、知らぬ存ぜぬでは騒ぎになりましょう?
 伯爵ご夫妻にも温かく祝って下さって言い出せなくて……。
 ですから婚姻式後、披露宴も終わって落ち着いた時に、改めて今回の婚姻についてお話し合いをしようと思いましたの。
 残念ながら、そこが夫婦の寝室だったのですけど」

「なぜバングレー侯爵はそのような強硬手段に出たものか」

「おそらく、わたくしが魔導師団魔法研究所に勤める事を阻止したかったのではないかと思いますわ」

「は?」

「わたくし、留学中に研究論文を提出しておりまして、それが認められ、晴れて研究所勤務が決まりましたの。
 その件は両親にも伝えておりましたし、婚約を結んでいるザクセン伯爵家にもお手紙を出しておりましたわ。
 婚姻式を先延ばしにして下さるか、破談にして下さっても構わないと伝えたのですが」

「うむ初耳だ。ウルリカ嬢からの手紙は受け取ったことがない」

「まぁ。……きっと両親が握りつぶしたのですわね」

「ちょっと待ってくれ。その話だと、俺に一目惚れしたというのは……」

「アレン、おまえはまだそんな話を……だいたい、それはどこから出てきた話なのだ?」

「え、母上とリーシャが」

「なんだと!?」

「あら、わたくし、バングレー侯爵があまりに熱心なので、もしかしたらウルリカさんがアレンに一目惚れでもしたのかしらね? と冗談で言っただけですわ。
 ウルリカさんがずっと留学しているのは存じてましたし、バングレー侯爵家にとって旨味はほぼない縁組でしょう? 不思議だったのですわ」

「そんな……母上」

「それよりも、リーシャさんがおまえに嘘を吹き込んだんでしょう!
 あの、アバズレが!」

「母上!!」

「あのぉ、リーシャさんとはどなたですか?」

「俺の愛する人だ!」

「はぁ、そうですか」

「だから俺に愛されようと思うなよ!」

「アレン! 今までの話を聞いていなかったのか!?」

「だって父上! 俺を嫌う令嬢がいるはずがない!」

「「…………」」

「どうしてこんなにも自惚れ屋に育ったものか」

「父上、自惚れではなく事実です!
 皆、俺をうっとりした目で見つめているし、話しかければ顔を真っ赤にして恥ずかしがって。
 この美しく整った顔を嫌うはずがない! そうだろう!?」

「はぁ、整った容姿であることは認めますが、好みは人それぞれですわ。
 それにナルシストとなると……リーシャさんとやらも顔を褒めますの?」

「リーシャは俺の全てを褒めて認めてくれる素晴らしい女性だ!」

「あらまあ、とても嘘くさいですわね」

「なんだと!?」

「誰しもどこかしら欠点がありますし、好きな相手でも少しは嫌な部分があるものです。
 それを全て褒め称えるなんて、盲目的に愛しているのか、上っ面の嘘を言ってるだけの無関心な者だと思いますわ」

「リーシャは俺を盲目的に愛しているだと!?
 そんな本当の事をおまえに言われなくても知っている!」

「はぁ、お話を理解してはくださらないようですわね」

「すまんな、ウルリカ嬢」

「いいえ、謝罪するべきはバングレー侯爵家ですわ」

「そうだぞ! 謝れ!」

「黙れアレン」

「伯爵様、いえ、お義父様、お義母様、提案なのですが、わたくしの事は表向きのお飾りの妻に据えて、リーシャさんを内縁の妻に迎えてはどうでしょう。
 後継ぎはリーシャさんがお産みになり、わたくしとは一年間の白い結婚で離縁とすれば、伯爵家の傷は少なくて済みますわ」

「内縁の妻?」

「ありていに言えば愛人です」

「なんだと!? リーシャを愛人扱いするのか!」

「今現在、そういう立ち位置に追いやられておりますわよね?」

「アレン、黙っていろ! 話が進まん。
 しかしだなウルリカ嬢、我々はあの女を認めておらんのだ。
 元は男爵家の令嬢だったらしいんだが、没落して今は平民、酒場の給仕をしている身持ちの悪い女なんだ。
 とても我が伯爵家に迎え入れる訳にはいかない」

「当然だわ。元貴族令嬢とはとても思えない下品な女なのよ」

「身元調査はなさったのですよね?」

「もちろんだ。確かに没落した男爵家の娘ではあったのだが、没落した原因がその娘のリーシャにあったのだ。
 貴族学園で婚約者のいる不特定多数の令息たちと深い関係になり、その令息たちと婚約者たちの家から損害賠償と慰謝料を求められ、払いきれずに没落したという訳だ。
 アレンに取り入ったのも金目的だと睨んでいる」

「まあ!」

「働いて慰謝料の一部なりと賄おうとしている、という建前だが、金持ちの男に媚を売り、体を売っているようだ」

「ウソだ!! リーシャは意地悪な令嬢に嵌められたんだと泣いていたんだ!」

「本当よ! 変な病気とか持っていてもおかしくないほどふしだらなのよ!
 ……いえ、待って、アレン。あなた大丈夫なのかしら」

「……何が、ですか、母上」

「病気を移されていないでしょうね!?
 性病だと男性の大事な部分が痒くなったり痛くなったりすると聞いたことがあるわ」

「ギクッ」

「アレン! 明日すぐに医者に診察してもらえ!」

「いやいや、そんな、俺はどこも悪くありません!」

「アレン、お願いよ! ああ、でも初夜が流れてウルリカさんには幸いでしたわ」

「ありがとうございます、お義母様。
 でも、今回の諸悪の根源は我が両親にあると思われます。
 これから帰って問い詰めて参りますわ!」

「いや、こんな夜遅くに馬車で移動など危険だ」

「ご心配ありがとうございます、お義父様。
 でも大丈夫ですわ。転移魔法で移動しますから。
 メリー、荷物は要らないわ。さぁ掴まって」

「ちょっとま――」

「あら」

「ほう。さすが魔法学院を卒業しただけの事はある。鮮やかな転移だな」



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