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第1話 前世の記憶-3
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「私が不可視の黒聖女だなんて……本当、嘘みたい」
前世では私は不可視の黒聖女と呼ばれていた。
戦場でその姿を見ることは誰もできないという事を、恐怖と共に揶揄した呼び名だ。
前世の私の周りには死が溢れていた。
驚くほど強いその力を、存分に使った。誰もがそう望んだから。
戦争に率先して参加し、圧倒的に成果をあげていた私は遠巻きにはされていた。それでも、死線を共にした仲間とは絆がある、そう思っていた。
これが私の家族だと。
しかし戦争が終わったら危険だという理由で、信頼してくれていると思っていた王族に魔術を封じられ処刑された。
今でも不可視の黒聖女は、圧倒的な力でこの国を大国に押し上げた功労者として語られている。
半ば伝説の人物だ。
……伝えられている死因は、戦争の為に魔力を使い果たしたからという嘘となっているけれど。
それが、前世の私。
「……私はヴァーラシス殿下に、殺された」
言葉にしてみると、自分が殺された時の過去の記憶が押し寄せてきた。
魔術陣が起動したときの苦しさが蘇り、手が震え、息苦しさを覚える。
あまりにも生々しく蘇ってきた記憶。
貴族には平民だと見下されていたが、周りの人は私の実力を認めてくれて頼ってくれていると思っていた。
はじめて勝利したときは、ヴァーラシス殿下が初めて笑いかけてくれた。
あの時も、戦争が終わったよくやった、皆で勝利を祝おうと笑いあった。
報われたと思っていたのに……。
じわりと視界がぼやける。私は震える手を握り込み、呟いた。
「……私、前世では利用されて騙されたんだわ」
涙をごしごしと擦って、両手を見つめる。
私の事を殺すことを彼はずっと計画していた。
あんな風な気持ちは、もう嫌だ。
思いついて、一度魔術の構成を編み込む。
今度は記憶がよみがえる前の構成を。
ずっと練習していた火の魔術。
下手くそで、絶対に発動しない構成しか作る事ができなかった魔術。
それを再現しようと。
「……これは駄目だわ」
けれど、出来上がった構成は前世と同じものだった。
何度か作ってみたが、もう以前のように不完全なものを作るのは難しかった。
「前世の記憶がよみがえった事、隠しておくのは難しいかもしれない」
しみついた感覚が、記憶と共に戻ってしまった。
ハインリヒは急に魔術が使えるようになった私のことを不審に思うだろう。
不可視の黒聖女の記憶がよみがえったといえば、彼は喜ぶとわかっていた。ずっと私の魔術が上達することを望んでいたから。
……でも、もしまた騙されてしまったら。
王家に私が黒聖女だと知られたら、再び利用しようと考えるかもしれない。
そもそも、私は魔力の多さで婚約者候補に選ばれている。
その意味は考えたくなかった。
大好きなはずのハインリヒのことを信じていたいのに、その疑いは私の胸に黒く広がり途方に暮れた。
前世では私は不可視の黒聖女と呼ばれていた。
戦場でその姿を見ることは誰もできないという事を、恐怖と共に揶揄した呼び名だ。
前世の私の周りには死が溢れていた。
驚くほど強いその力を、存分に使った。誰もがそう望んだから。
戦争に率先して参加し、圧倒的に成果をあげていた私は遠巻きにはされていた。それでも、死線を共にした仲間とは絆がある、そう思っていた。
これが私の家族だと。
しかし戦争が終わったら危険だという理由で、信頼してくれていると思っていた王族に魔術を封じられ処刑された。
今でも不可視の黒聖女は、圧倒的な力でこの国を大国に押し上げた功労者として語られている。
半ば伝説の人物だ。
……伝えられている死因は、戦争の為に魔力を使い果たしたからという嘘となっているけれど。
それが、前世の私。
「……私はヴァーラシス殿下に、殺された」
言葉にしてみると、自分が殺された時の過去の記憶が押し寄せてきた。
魔術陣が起動したときの苦しさが蘇り、手が震え、息苦しさを覚える。
あまりにも生々しく蘇ってきた記憶。
貴族には平民だと見下されていたが、周りの人は私の実力を認めてくれて頼ってくれていると思っていた。
はじめて勝利したときは、ヴァーラシス殿下が初めて笑いかけてくれた。
あの時も、戦争が終わったよくやった、皆で勝利を祝おうと笑いあった。
報われたと思っていたのに……。
じわりと視界がぼやける。私は震える手を握り込み、呟いた。
「……私、前世では利用されて騙されたんだわ」
涙をごしごしと擦って、両手を見つめる。
私の事を殺すことを彼はずっと計画していた。
あんな風な気持ちは、もう嫌だ。
思いついて、一度魔術の構成を編み込む。
今度は記憶がよみがえる前の構成を。
ずっと練習していた火の魔術。
下手くそで、絶対に発動しない構成しか作る事ができなかった魔術。
それを再現しようと。
「……これは駄目だわ」
けれど、出来上がった構成は前世と同じものだった。
何度か作ってみたが、もう以前のように不完全なものを作るのは難しかった。
「前世の記憶がよみがえった事、隠しておくのは難しいかもしれない」
しみついた感覚が、記憶と共に戻ってしまった。
ハインリヒは急に魔術が使えるようになった私のことを不審に思うだろう。
不可視の黒聖女の記憶がよみがえったといえば、彼は喜ぶとわかっていた。ずっと私の魔術が上達することを望んでいたから。
……でも、もしまた騙されてしまったら。
王家に私が黒聖女だと知られたら、再び利用しようと考えるかもしれない。
そもそも、私は魔力の多さで婚約者候補に選ばれている。
その意味は考えたくなかった。
大好きなはずのハインリヒのことを信じていたいのに、その疑いは私の胸に黒く広がり途方に暮れた。
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