デッドエンド・ウェディング

うてな

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31 トルコ石:健やかな体

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帰宅したその日の夜。美夜は部屋で今日の事を考えていた。広也の記憶を弄れる能力を。

(広也くんは、あの力で人の記憶を変えられる。その能力をすーちゃんに使って、痛いほど後悔してたな。…記憶を失って、すーちゃんはすーちゃんじゃなくなったから…。)

今日の広也の不機嫌そうな、虚しそうな、そして悲しそうな表情を思い出すと美夜は色々思う事があった。

(私は何かあっても時を遡る事が出来るけれど、みんなはそうじゃないのよね。広也くんもそう…後悔しても、もう元には戻せない。だからかしら、広也くんはいつも、一つ一つの行動にとても慎重だわ。)

美夜はそれを思うと、真剣な表情を浮かべる。

「私も逃げてばかりじゃダメだな…!時を遡る癖も直さないと!」

そう心意気を張ると、美夜は深呼吸した。



次の日の夕方。
都心にある大きな建物から、綺瑠が出てきた。どうやらその建物は職場らしく、近未来的な外装である。それはさておき、綺瑠はこれから帰宅するようで、駐車場まで歩いていた。綺瑠は溜息をついている。

「あーあ、今日は集中できなかったな。」

そして綺瑠は、ぼやっと家のみんなを思い出していた。綺瑠は強く目を瞑り、振り払うように首を横に振る。

(普段以上に脳裏に浮かんできちゃう…!最近変だよ僕…!)

更には自分の頬の熱も感じており、綺瑠は溜息。

(頬が熱い…熱でもあるのかな…。)

そうして自身の車に着いたが、そこには綺瑠の元カノであるクルミがいた。綺瑠はそれを見て、目を丸くして驚く。

「クルミちゃん…?」

クルミは綺瑠に気づくと、笑顔を向けてくれた。

「お仕事お疲れ様、キルキル。一緒に遊びましょ?」

「いやいやそうじゃなくて、どうやって入ってきたの?ここは関係者以外立ち入れないはずなのに。」

クルミにトンカチを向けられた日を思い出すと頭が痛い様子の綺瑠。するとクルミは自慢気に言う。

「キルキルの彼女だって、名前を教えたら通してくれたよ?」

綺瑠は盲点だったのか頭を抱えた。

「あー…、通さないよう念押ししないとね。」

綺瑠がそう言っているのも無視し、クルミは綺瑠の腕に抱きついて言う。

「ほーら!昔みたいにあそぼーよ!」

「疲れてるし、帰りたいな。」

クルミはそう言われると膨れてしまう。綺瑠は美夜の膨れた顔は愛おしいのだが、クルミがするとどうも気分が乗らない様子。するとクルミは閃いた顔をして言った。

「クルミね、最近マッサージ覚えたの!キルキルの疲れを解してあげるよ!」

「そこまでしなくてもいいよ。にしても熱いな…。」

綺瑠はそう言って車にもたれかかると、クルミは首を傾げた。するとクルミは綺瑠の服を軽く引っ張る。

「そんなに暑いの?だったらすぐ近くのカフェで冷たい飲み物でも飲もう?」

「そうするよ。」

綺瑠はそう答えると、車に乗った。クルミも一緒に乗るので、綺瑠はクルミに言う。

「クルミちゃんも来るの?」

「ええ、キルキルが心配ですもの。」

「そう。」

綺瑠は怠さが優って追い出す気にもなれず、車を走らせた。クルミは上機嫌。

「キルキル、最近仕事の調子はどう?」

「調子はどうって、いつもと変わらないよ。波に乗ったままって感じだねぇ。クルミはどう?美容院やってるんだよね。」

「もう好調!昔にキルキルが応援してくれたお陰だよ!」

すると綺瑠は、歩道の方で見慣れた人影を発見。思わず車を止めた。

「キルキル?」

クルミは目を丸くすると、綺瑠はクルミ側の窓を開いて顔を出した。綺瑠が見る先には、リョウキがいたのだ。リョウキは傷でもあるのか、常に頬に絆創膏を付けている。

「リョウキくん!」

リョウキはその声に気づくと、早速綺瑠を睨みつけた。しかし隣のクルミを見ると、リョウキは更に憎悪に溢れた顔に。綺瑠はなぜそんな顔をしているのかと思うと、リョウキはやってきて言った。

「お前…!美夜さんという女がいながら…!!」

それを聞いた綺瑠は、思わず目を丸くした。

「え?これからお茶するだけだよ。深い関係はないよ。」

更にクルミも顔を出し、リョウキに笑顔で言う。

「それにキルキルはもうその女と付き合ってないよ?」

リョウキはクルミの言葉に驚いた。綺瑠はリョウキに言う。

「リョウキくん、このあと暇?一緒にお茶しない?」

それにクルミは膨れてしまうと、リョウキは嫌そうな顔を見せた。相当嫌われていると知ると、綺瑠は苦笑する。

「嫌か。」

しかしリョウキは後部座席の扉を開いて、そのまま乗り込む。座席のど真ん中で足を開き腕を組んで座る姿に綺瑠が目を丸くすると、リョウキは言った。

「なんで美夜さんと別れたのか、気になる。」

「おや、意外だねぇ。リョウキくんは美夜から聞くと思ったよ。」

綺瑠がそう言うと、リョウキは黙り込む。綺瑠の車が出発すると、リョウキは悪態をつきながら言った。

「どうせお前が原因だ。美夜さんに聞けば、美夜さんの傷を抉る事になっちまう。」

それを聞いた綺瑠は、目を丸くしていた。するとクルミは、丁度いい店を見つけたのか指をさす。

「キルキル、この店にしましょ!」

「え、ああうん。」

綺瑠は返事をし、その店に駐車した。



こうして、三人はカフェでお茶をする事に。綺瑠の隣にはクルミが座り、リョウキは綺瑠の正面に座っていた。クルミは綺瑠に寄り添っていたが、綺瑠は気にせずに話す。

「と、言う事があったんだ。」

どうやらリョウキへの質問は、全て答えた様子。リョウキはそれらを聞いて、微妙な反応を見せていた。

「スキンシップを我慢できないってのもなかなかだな。一歩間違えれば犯罪者だぞ。」

「他人に対してはしないよ。あくまで家族にだけ。あと恋人?」

「すぐカッとなる俺が言える事じゃないが、自制が利かねぇってダメな大人だな。」

リョウキは意外と良識人の様だ。リョウキの言葉に綺瑠は笑顔で言う。

「リョウキくんはまだ十七歳だっけ?若いねぇ。だけど美夜に告白するには若すぎるとお父さん思うな。」

そう言われるとリョウキは綺瑠を睨む。それから息をつき、頭を抱えた。

「…エリコは元気かよ。」

それに綺瑠は反応。綺瑠は落ち着いた表情になって言う。

「ヒナツちゃんに聞いてこいって言われたの?僕に。」

リョウキはヒナツの弟である為か、綺瑠は少し警戒した様子である。そう思われているのはリョウキも承知なのか、調子が狂った顔で言った。

「なんで姉貴が俺にそんな事聞くんだよ、俺はお前と接点無いだろ!」

そう言われると、綺瑠は目を丸くして納得した。

「確かにそうだね。エリコは元気だよ。」

リョウキはそれを聞くと無愛想な様子のまま黙った。綺瑠はリョウキの感情がイマイチ読めずに首を傾げると、リョウキに聞く。

「エリコを気にするって意外だねぇ。美夜に聞いた話だと、先日リョウキくんはエリコに手を挙げようとしてたって聞いたけど。ああ、ヒナツちゃんの家に美夜がお邪魔した日の事だよ。」

リョウキはそれを聞いて驚いた。

「ハ!?してねぇよ!確かに美夜さんには怒られたけど!」

「じゃあ何をしようとしたの?」

綺瑠が聞くと、リョウキは再び黙り込む。言うのを躊躇ったが、やがて話した。

「エリコの腕の生傷が見えたんだよ。エリコのヤツ、傷を誰にも見せたがらないからよ。…美夜さんが見ちまう前に知らせようとしたんだ。」

「エリコちゃんがヒナツちゃんから虐待を受けてた事、知ってたんだ。」

綺瑠が言うと、やはりリョウキは黙り込む。まず沈黙するのはリョウキの癖なのだろうか。それからリョウキは、綺瑠から視線を逸らして言った。

「虐待って大袈裟な…。俺の家じゃ普通だよ。」

そう言われ、綺瑠は驚いたのか目を丸くする。そして綺瑠はそこで初めて、リョウキの頬の絆創膏の正体や野蛮な性格の理由を知ったのであった。
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