デッドエンド・ウェディング

うてな

文字の大きさ
32 / 53

32 クンツァイト:優しさ

しおりを挟む
ヒナツのエリコに対する虐待に対して、『大袈裟』と答えたリョウキ。綺瑠はそれを知り、新たな思考に至る。

「リョウキくんの家では、それが普通…?」

「躾だ。俺もよく悪するから、オヤジに殴られる。」

それが事実であれば、リョウキの喧嘩早い性格やヒナツの暴力癖にも納得が出来てしまう。綺瑠は今まで、元々彼の性根が悪いものかと思っていた為、視点が変わり新鮮に思えた。ヒナツに関しては、新たな視点を得てもイメージは悪いままだが。

「じゃあリョウキくんの傷は、お父さんから?」

「あ?どっちだろうな。しょっちゅう他と喧嘩するから、どの傷が誰がつけたとか忘れたよ。」

その言葉に、思わず綺瑠は苦笑。

「喧嘩してるのか、リョウキくん。」

「ああ。」

綺瑠は喧嘩とは無縁な人生を送ってきたのか、苦笑で返す事しかできない。すると蚊帳の外であるクルミはムスっとして言う。

「キルキル!クルミとお話しましょ!」

しかし綺瑠はクルミに言った。

「いや、僕からもリョウキくんに聞きたい事があるからちょっと待ってて。」

そう言われ、クルミは再び膨れる。リョウキは何かと思っていると、綺瑠は聞いた。

「ヒナツちゃんの様子を聞いておきたいんだ。ほら、ずっと育ててきたエリコを連れてっちゃったわけだし…。」

あんな性格をしたヒナツにも、若干の申し訳なさは感じている綺瑠。俯き気味で話すと、リョウキは頬杖をついて言う。

「荒れてるよ。姉貴の家グッチャグチャだったわ。」

「そんなショックだった?」

「ショックっつうか…、怒り狂ってる感じだったな。俺が話しても怒鳴ってくるだけだし。」

「あっそう…。」

綺瑠は完全に俯いてしまった。リョウキはそんな綺瑠を見て言う。

「申し訳ないと思ってんのか?はぁ…。姉貴に暴力した事も、このくらいの反省してくれよ。」

「そうじゃなくて。明日から美夜は仕事なんだけど、同じ職場のヒナツちゃんと普通に仕事できるかなって…。」

綺瑠は美夜の心配をしていたようだ。それを聞いてリョウキは眉を潜めたが、やがて真剣な表情に。

「確かに、姉貴は八つ当たりするからな。美夜さんに被害が及ばない可能性がゼロ…な訳ないな。俺も心配だ。」

「やっぱ兄弟のリョウキくんも心配だよね。僕もヒナツちゃんと付き合ってた頃はさ、沢山暴力されたよ。」

綺瑠は思い出すように言うと、リョウキはテーブルを拳で叩いて怒る。

「ハァ!?お前が暴力したんだろうがよ!!」

「いやね、どうやらお互いしてたみたいだよ。ヒナツちゃんは気分が悪いといつも、僕は寝る時にいつも。正直暴力よりも、暴言の方がキツかったなー。」

リョウキは引いたように「どっこいどっこいだろ…」と言いたげに黙り込んでしまうが、そこでクルミは怒った様子で言った。

「あの女、キルキルに暴力奮ったの!?有り得ないッ!『自分は被害者』って面してたんだからね!」

「ヒナツちゃんは虚言癖があるからね。」

綺瑠は落ち着いた様子で言うと、リョウキは冷や汗を浮かべた。綺瑠はリョウキを見ると、首を傾げた。

「どうしたの?リョウキくん。」

リョウキは考えているような様子だったが、綺瑠に呼ばれて我に戻った。思わず綺瑠から視線を逸らしてしまうと言う。

「いや、姉貴が虚言癖って言われて…心当たりがあるようなって思っただけだ。」

リョウキはヒナツの虚言癖を今まで知らなかったようだ。リョウキの喧嘩早い部分からも、彼の単純な性格が伺える。嘘とは無縁なのだろう、だからこそヒナツの虚言癖を見抜けなかったのかもしれない。

「やっぱり?」

と言ったのはクルミ。クルミは怒りに満ちているのか、歯を食いしばった様子でいる。

「もういい…!!もうクルミはあんな女の言う事聞かない!!キルキル!」

「ん?」

綺瑠が横目でクルミを見ると、クルミは綺瑠の顔を見て言った。

「クルミはキルキルの味方だからね!絶対に!」

「え?何の話かさっぱりだけど、ありがとうね。」

綺瑠は上の空で話を聞いているようだった。全然話を聞いていないと思うと、クルミは更に怒った様子。しかし怒りに狂った様子ではなく、ぶりっこした様子で怒っていた。リョウキは綺瑠の様子を変に思うと、クルミに言う。

「なあコイツ、様子が変じゃないか?顔が赤い。」

リョウキの言う通り、綺瑠は顔が赤くて熱っぽい。クルミは言われて気づいたのか綺瑠の額に触れると、驚いた様子で綺瑠を心配した。

「キルキル!凄い熱…!」

「あ、ホント?じゃあ風邪だな…。」

綺瑠がぼーっとした様子で言うと、クルミはリョウキに言う。

「私が車を運転するから、あなたはキルキルを車まで運んで!」

「お、おう。」

リョウキは言われるがままだった。



綺瑠は車に乗せられ、クルミが車を運転した。ちなみにリョウキは後部座席で綺瑠と一緒だった。綺瑠は熱が上がってきているのか、うとうとしている状態。

「寒…」

綺瑠が呟くと、リョウキは頭を抱えた後に自分が着ていた上着を綺瑠の肩にかけた。綺瑠はリョウキの方を見ると、リョウキは不思議そうに言う。

「なんだよ、こんなになるまで仕事なんてするのか?大人は。」

「知らない…」

綺瑠がそう呟くと、クルミは言った。

「キルキル無理しすぎ!もう、体調管理しっかりしないと!やっぱクルミが嫁になってあげないと…」

この後はブツブツ話していて聞き取れない。綺瑠はそのブツブツ声をスルーし、二人に感謝を伝えた。

「二人ともありがとうね。…最近考え事が多くて…体調まで気を配れなかったよ。」

辛そうにしている綺瑠を見ると、リョウキは溜息。それからポケットから飴を出して綺瑠に渡した。綺瑠は首を傾げてしまうと、リョウキは言う。

「なんか…風邪を引いたら食べたくならないか、甘いもの。」

綺瑠は黙り込んで、瞬乾を幾つかする。リョウキの言葉に全く共感できないのだろう。リョウキはその無共感の沈黙に耐えられないのか、恥ずかしくて顔を赤くした。すると綺瑠はクスッと笑う。

「ありがとう、楽な時にでも食べるね。」

綺瑠はそう言って、窓に寄りかかって少し休んでいた。リョウキは黙っていたが、やがてある事に気づく。リョウキはクルミに言った。

「コイツの家、そっちの方角じゃないぞ。」

そう言われ、クルミはニコリと笑った。クルミの笑みが、バックミラーに写る。

「いいえ、こっちで合ってるわ。」

「は…?」



暫くして、高層マンションに到着した。車から出たリョウキは、感心した様子でマンションを見上げる。

「すっげぇ…」

するとクルミが出てきて言う。

「早くキルキルを運んで。」

「お、おう。」

こうしてリョウキが綺瑠をおぶって運んだ。綺瑠は既に眠っている。エレベーターを使って上階へ登っていくと、クルミはリョウキに言った。

「上層には、クルミやキルキルの家があるのよ。」

「へぇ。」

そうして到着。二人はエレベーターから出ると、クルミは『Akatuki』と表札のある家の前で止まった。

「早く、家の中へ。」

そう言ってクルミは扉の鍵を開くが、リョウキは眉を潜める。

「アカツキ…?本当にコイツの家か?別の苗字だった気が…」

「いいから!」

クルミに言われ、リョウキは部屋の中へと綺瑠を連れ込んだ。ピンクが中心の可愛らしい部屋に連れられた瞬間、リョウキは察する。

「お前の家か!?」

しかしクルミは、開き直った様子で言った。

「ええ。いいから早く、キルキルが限界そうなんだから仕方ないじゃない。」

そう言われ、リョウキは綺瑠をベッドに寝かせた。ベッドが妙に広いのが気になるリョウキ。その先の事を考えると、リョウキは溜息しか出ない。するとクルミはリョウキに言う。

「ありがとう、ここまで運んでくれて。もう帰っていいわよ。」

「うん。」

リョウキはそのまま家を出ると、クルミはリョウキの方へやって来た。

「あ、ちょっと待って。」

「ん?」

リョウキが言うと、クルミは財布から三万円を出してリョウキに渡す。

「これ、お小遣い。」

「え?」

リョウキは豆鉄砲を打たれたような表情をすると、クルミの家の扉は閉まった。リョウキは三万円を見て少しの間思考停止していたが、やがて正気に戻る。

「おい待て!美夜さんにはちゃんと伝えたのか!?」

リョウキはインターホンを押そうとしたが、綺瑠の風邪の事を考えると押せなかった。

(連打してぇけど、あっちには病人がな…)

するとリョウキは何か思いついたのか真顔になり、走ってマンションを出る事に。

(いや、俺が行けばいいんだな。美夜さんに伝えに。)



一方、クルミの家にて。風邪にうなされる綺瑠を、隣で眺めているクルミ。クルミは綺瑠の頬に触れると心底嬉しそうに微笑んだ。

「やっと手に入れた、キルキル。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】こっち向いて!少尉さん - My girl, you are my sweetest! - 

文野さと@書籍化・コミカライズ
恋愛
今日もアンは広い背中を追いかける。 美しい近衛士官のレイルダー少尉。彼の視界に入りたくて、アンはいつも背伸びをするのだ。 彼はいつも自分とは違うところを見ている。 でも、それがなんだというのか。 「大好き」は誰にも止められない! いつか自分を見てもらいたくて、今日もアンは心の中で呼びかけるのだ。 「こっち向いて! 少尉さん」 ※30話くらいの予定。イメージイラストはバツ様です。掲載の許可はいただいております。 物語の最後の方に戦闘描写があります。

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

【完結】ルースの祈り ~笑顔も涙もすべて~

ねるねわかば
恋愛
悪路に閉ざされた貧しい辺境ルースライン領。 兄を支えたい子爵令嬢リゼは、視察に来た調査官のずさんな仕事に思わず異議を唱える。 異議を唱えた相手は、侯爵家の子息で冷静沈着な官吏ギルベルト。 最悪の出会いだった二人だが、領の問題に向き合う中で互いの誠実さを知り、次第に理解し合っていく。 やがてリゼが王都で働き始めたことを機に距離を縮める二人。しかし立ちはだかるのは身分差と政略結婚という現実。自分では彼の未来を縛れないと、リゼは想いを押し込めようとする。 そんな中、故郷の川で拾われる“名もなき石”が思わぬ縁を呼び、リゼの選択と領の未来を動かしていく――。 想いと責務の狭間で揺れる青年と、自分を後回しにしがちな少女。 すれ違いと葛藤の先で、二人は互いを選び取れるのか。 辺境令嬢の小さな勇気が恋と運命を変えていく。 ※作中の仕事や災害、病、小物の知識などは全てフィクションです。史実や事実に基づいていないことをご理解ください。 ※8万字前後になる予定です。

【完結】孤高の皇帝は冷酷なはずなのに、王妃には甘過ぎです。

朝日みらい
恋愛
異国からやってきた第3王女のアリシアは、帝国の冷徹な皇帝カイゼルの元に王妃として迎えられた。しかし、冷酷な皇帝と呼ばれるカイゼルは周囲に心を許さず、心を閉ざしていた。しかし、アリシアのひたむきさと笑顔が、次第にカイゼルの心を溶かしていき――。

後宮の死体は語りかける

炭田おと
恋愛
 辺境の小部族である嶺依(りょうい)は、偶然参内したときに、元康帝(げんこうてい)の謎かけを解いたことで、元康帝と、皇子俊煕(しゅんき)から目をかけられるようになる。  その後、後宮の宮殿の壁から、死体が発見されたので、嶺依と俊煕は協力して、女性がなぜ殺されたのか、調査をはじめる。  壁に埋められた女性は、何者なのか。  二人はそれを探るため、妃嬪達の闇に踏み込んでいく。  55話で完結します。

【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

たまこ
恋愛
 公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。  ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。 ※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

貴方だけが私に優しくしてくれた

バンブー竹田
恋愛
人質として隣国の皇帝に嫁がされた王女フィリアは宮殿の端っこの部屋をあてがわれ、お飾りの側妃として空虚な日々をやり過ごすことになった。 そんなフィリアを気遣い、優しくしてくれたのは年下の少年騎士アベルだけだった。 いつの間にかアベルに想いを寄せるようになっていくフィリア。 しかし、ある時、皇帝とアベルの会話を漏れ聞いたフィリアはアベルの優しさの裏の真実を知ってしまってーーー

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...