デッドエンド・ウェディング

うてな

文字の大きさ
51 / 53

51 ルビー=仁愛

しおりを挟む
一方、式場内部では。犯人を惑わす為の式が始まろうとしていた。しかし本当に式を遂行するわけではない。ここまで来ると式場の敷地内から犯人が出られない為、もう茶番をしなくてもいいのだ。綺瑠と美夜は式場の最奥で二人で立っている。二人の表情はいつになく神妙だった。

「綺瑠さん。もし何かが起きても、私が綺瑠さんを守りますから…!」

美夜が真剣にそう言うと、思わず笑ってしまう綺瑠。次に綺瑠は美夜の頬を撫でると言った。

「もう、それは僕の台詞でしょ。それに美夜は今まで、僕を助ける為に沢山頑張ってくれてたんだから…もう見ているだけでいいんだよ。」

「見ているだけだなんてそんな…」

美夜がそう言っていると、式場の表扉が開いた。二人が視線を向けると、そこには進也。

「進也?」

綺瑠が進也の名前を呼ぶと、進也は式場をキョロキョロと見回してから言った。

「兄貴が行方不明なんす!ここに来てないっすか?」

その言葉を聞くなり、二人は最悪の事態を考えて顔が青ざめる。逆に相変わらず進也は、二人が青ざめた事に首を傾げていた。二人は顔を見合わせる。

「まさか広也くん…!」

「そうだね、誰にも言わずに姿を消すような子じゃない…!」

更に焦った二人に、追い打ちをかけるような言葉が聞こえてきた。

「そう、ここにいるわ。」

二人の方からでも進也の方からでもない、裏口の方から聞こえた為に三人はその方向を見た。言わずもがな、そこにはマキコがいた。マキコは台車に乗せた広也を見せる為に、麻袋を外してみせる。それを見た美夜は思わず口を手で覆い、綺瑠は険しい表情を浮かべた。マキコは拳銃を広也に向けると言う。

「そこから一歩も動かないでちょうだいね。」

そこへ璃沙も表からやって来て、捕まった広也を見て目を剥いた。すると綺瑠はマキコに言う。

「拳銃だなんて卑怯な…。」

「あら、卑怯な能力を持っている人達には言われたくないわ。言っておくけれど、これは本物だから。」

そう言ってマキコは拳銃を両手で構えて壁に向けて発砲。丸は壁を貫通し、僅かに硝煙が銃口から吹き出ていた。本物だと証明された事で、更に一同を絶望させる。しかしそれでもあっけらかんとした表情でいる進也。拳銃が怖くもないのか進也は言う。

「一歩も動かなきゃいいんすよね?」

「はい?」

そう言ってマキコは進也の方を見ると、進也は式場の開き扉の片方を両手で掴んで引き取ろうとしていた。その開き扉は新婦が入場する扉なだけあって、大きさは人の身長の二倍もある。ギシギシと扉が物音を立てたかと思うと、一気に壊して扉を手に取ってしまう進也。その有り得ない光景にマキコは目を剥いてしまう。進也は笑顔を見せ、紙飛行機でも投げるかのように扉の薄い幅を縦にして構えた。

「物壊すの楽しいっす!!」

そう陽気に言って扉をマキコの方へ投げつけるので、マキコは必死な様子で慌ててそれを避ける。扉はかなり強く投げられた為か壁に刺さってしまい、マキコと広也を分断する位置に投げられた。マキコは扉を見て唾を飲み込んだが、やがて進也へ銃口を向ける。しかし進也は既に二枚目を構えており、笑顔を見せた。

「撃ったら投げるっすよ~!」

こんな化け物地味た怪力の持ち主に勝てる気がしないのか、マキコは絶望を感じた表情で怯んでしまう。そんな様子を見ると変に思える璃沙。

(拳銃持ってる癖に、なんでこんなに弱腰なんだ?)

すると綺瑠は急に真面目な表情を浮かべると、美夜から離れてマキコの方へ歩いた。マキコはそれに気づくと綺瑠に銃口を向け、進也も扉を構える。しかし綺瑠は進也に言った。

「大丈夫、構えなくていいよ。」

「え?そうっすか。」

進也は言われるとすんなり扉を下ろす。マキコは綺瑠が一歩一歩近づくのを睨みつつ、拳銃を持つ手が震えていた。すると綺瑠は言う。

「『榎下(エノシタ) マキコ』さん。…ヒカリちゃんのお姉さんですよね。」

その言葉にマキコは強く反応すると、マキコは銃をしっかり構えて綺瑠を狙った。

「ええ、そうよ。」

「ヒカリって誰っすか?」

進也が目を丸くして璃沙に聞くと、璃沙は冷や汗を浮かべながらも答える。

「綺瑠の元カノだ。以前美夜が本郷の家で毒を飲まされそうになったろう、その時に捕まった女だ。綺瑠の暴力で精神的にかなり参ってるみたいで、何をしても人生が楽しくないって言ってたな。」

璃沙の説明をマキコはしっかり聞いていたのか口を開いた。

「そうよ。ヒカリはあなたのせいで闇に堕ちたの…!あなたの一方的な愛のせいで…!」

マキコの苦しみを感じた表情に、綺瑠は思わず眉を困らせる。そして俯いて言った。

「…その件については、僕も心を痛めています。」

「あなたがやったんでしょ…!」

綺瑠の反省を聞けなかった為か、マキコは眉を釣り上げてそう言う。しかし綺瑠はその時の記憶が無い為、知らない事への謝罪はむしろ相手に失礼と判断した。綺瑠はマキコに頭を下げる。

「僕はヒカリちゃんに取り返しのつかない事をしてしまい…。どう謝罪すればよろしいか…未だに答えが出ておりません…。」

綺瑠は一つ一つ丁寧に話し、そしてたまに息を殺した様子を見せる。マキコはそれでも綺瑠を睨み続け、綺瑠は話を続ける。

「昨日、刑務所にいるヒカリちゃんに会いに行きました。」

その言葉にマキコは反応を見せた。

「あなたの名前を知って、情報を集める為に元カノに手当たり次第に聞きに行こうと最初に尋ねたんですが…ヒカリちゃんが教えてくれました。」

「嘘よ。ヒカリはあなたを見るだけで取り乱すわ…!」

マキコは反論したが、綺瑠は顔を上げてマキコを見つめた。マキコは緩くなっていた構えを再び立て直すと、綺瑠は弱った笑みを浮かべる。

「勿論、恐怖されました。でも、あなたの名前を挙げたら様子が変わりました…。」

そこまで言うと綺瑠は目に涙を浮かべた。それにマキコは眉を潜めると、綺瑠はそれに気づいて涙を拭う。

「『マキコには何もしないで』と、恐怖ながらに懇願されました…。」

綺瑠の涙の理由は一体なんだろうか。そう言われるとマキコはヒカリの思いを強く感じるのか、マキコも目に涙を浮かべた。マキコは怯んで転んでいたが立ち上がり、綺瑠に真っ直ぐ拳銃を向ける。

「死んで…!ヒカリが苦しんだ分、あなたも苦しんで!!」

しかし綺瑠は怯む様子もなくマキコとの距離を縮めた。マキコは後すざりするが、やがて壁に背をつける。すると綺瑠は足を止めた。

「…あなたは僕を殺せないはずです。」

その言葉にマキコは図星なのか強く反応した。それでも拳銃を構えているので綺瑠は言う。

「ヒカリちゃんが教えてくれました。『マキコは虫も殺せないほど感受性の強い子だから、復讐なんて出来ない』と。」

マキコはそれがヒカリの言葉と強く感じるのか、浮かべた涙をポタポタと落とした。やがて拳銃を持つ手が震え、拳銃を床に落としてしまう。するとマキコは両手で顔を覆い、鳴き声を挙げながら床にへたりこんでしまった。その反動でマキコの携帯が床に落ち、開いて待受画面が表示される。マキコとヒカリのツーショット待ち受けは、二人の楽しそうな笑顔で満たされていた。マキコは本当は拳銃を構える事さえ怖かったのか、嗚咽をあげながら震えて泣いている。するとマキコは四つん這いで足を引きずりながら綺瑠へ近づき、綺瑠のズボンを握った。

「返してヒカリの笑顔を…!返してぇ!」

泣きつかれた綺瑠は暗い表情を浮かべたまま何も答えられない。綺瑠は浮かべていた涙を一粒こぼし、そして人に聞こえるか聞こえないくらいの声で呟いた。

「どうして僕は…傷つけてしまったんだろう…。不幸にしてしまったんだろう…。」

綺瑠の涙の理由は、元カノ達に深い傷を負わせてしまった事へのどうしようもない罪悪感からだった。この綺瑠にはその記憶が無い為、尚更どうしようもなく辛く感じる。
すると綺瑠はマキコを見下ろした。綺瑠の瞳は少し冷静になっており、マキコを優しく剥がして離れる。そしてマキコと同じ目線までしゃがみこむと言った。

「僕が何も言えない立場なのは承知だけど、これだけは言わせて。」

その声色は正しく、今まで多くの女性を傷つけてきた裏の綺瑠のものだった。綺瑠はマキコを見つめて言う。

「ヒカリの笑顔を取り戻せるのは僕じゃない、きっと君だよ。」

同時に綺瑠は、ヒカリが自分に会った途端に恐怖で動けなくなった日を思い出す。話し合う隙もない、むしろ近づけば近づくほど相手の傷を抉ってしまうのだ。もう何を言っても相手には恐怖しか伝わらない…そう考えると綺瑠は息が詰まる。マキコは気づかされた様な表情をして綺瑠の目を見つめると、綺瑠は俯いて眉を潜めた。

「好きなだけ僕を恨んでくれ、僕の不幸を願ってくれ。…だけど、やり返す事に時間を使うくらいなら彼女に寄り添ってあげて…」

そう言って上げた綺瑠の顔も、涙に濡れている。

「僕じゃ出来ない事だから…!君達にしか出来ない事だからっ…!こんな事をした僕でも、彼女達を愛していたんだよ…!!」

それは紛れもない綺瑠の本心だった。他恋な男ではあったが、それでも一つ一つの恋愛に本気だったのだろう。それはもう彼がいつも美夜に見せているように、他の彼女達も愛していたのだろう。愛の伝え方は間違いだらけであったが…。
マキコは我に戻った表情をして、携帯の待受画面を見た。笑顔をカメラに向けたヒカリ。それを見ると携帯を手に取って呟く。

「…そうね、私が間違っていたわね。…あなたへお返しする前に、ヒカリの心を取り戻す方が先だわ…。」

マキコはそう言って立ち上がると、裏口へと歩き出した。すると綺瑠は口を開く。

「…僕はどうすればいいの?彼女達の傷を広げない為に距離を置く選択をしたけれど、彼女達に出来る事…あるかな…?」

そう聞かれたマキコは足を止めた。

「無いわよ。…だから一生後悔して。何十人もの女性を傷つけた事、人生を壊した事…死ぬまで誰かに恨まれ続けるんだって事…ずっと…。」

マキコはそのまま退場してしまう。綺瑠は俯いたまま黙り込んでいた。美夜はまずは拘束された広也を助けると、広也は怒りの表情で怒鳴る。

「いいからアイツを警察に突き出せッテナッ!!」

拘束時間が長かった為か、広也の怒りはかなり激しい。しかし綺瑠は呟く。

「…見逃す。」

「ハッ!?」

広也は綺瑠を睨むと、綺瑠は広也を見て言った。

「拳銃を放った事は見逃す。僕は罰を甘んじるよ。…でも、広也は別に誘拐されたし訴えてもいいけど…。」

裏の綺瑠は綺瑠なりに、罪を償う方法を模索中の様だ。それを見ると広也は冷めるのか不機嫌な顔でデカイ溜息を吐く。その間、進也が広也の拘束を笑顔で引きちぎっていた。広也は拘束から解かれると頭を掻きながら言った。

「あーそうかい だったらどーでもいいわ」

わかりにくい表現だったが、広也もマキコを見逃す様だ。それに微かに優しい笑みを浮かべた綺瑠。みんなはその笑みに気付かなかったが、美夜は綺瑠を優しく抱きしめた。

「大丈夫ですよ綺瑠さん。誰が綺瑠さんを恨んでいようと、それ以上の愛で私達が包みますから。」

そう言われると綺瑠は嬉しいのか、照れた様子で美夜の手を握る。

「…ありがとう。」

こうして、綺瑠を狙う元カノ達との戦いは幕を閉じた…。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】こっち向いて!少尉さん - My girl, you are my sweetest! - 

文野さと@書籍化・コミカライズ
恋愛
今日もアンは広い背中を追いかける。 美しい近衛士官のレイルダー少尉。彼の視界に入りたくて、アンはいつも背伸びをするのだ。 彼はいつも自分とは違うところを見ている。 でも、それがなんだというのか。 「大好き」は誰にも止められない! いつか自分を見てもらいたくて、今日もアンは心の中で呼びかけるのだ。 「こっち向いて! 少尉さん」 ※30話くらいの予定。イメージイラストはバツ様です。掲載の許可はいただいております。 物語の最後の方に戦闘描写があります。

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

【完結】ルースの祈り ~笑顔も涙もすべて~

ねるねわかば
恋愛
悪路に閉ざされた貧しい辺境ルースライン領。 兄を支えたい子爵令嬢リゼは、視察に来た調査官のずさんな仕事に思わず異議を唱える。 異議を唱えた相手は、侯爵家の子息で冷静沈着な官吏ギルベルト。 最悪の出会いだった二人だが、領の問題に向き合う中で互いの誠実さを知り、次第に理解し合っていく。 やがてリゼが王都で働き始めたことを機に距離を縮める二人。しかし立ちはだかるのは身分差と政略結婚という現実。自分では彼の未来を縛れないと、リゼは想いを押し込めようとする。 そんな中、故郷の川で拾われる“名もなき石”が思わぬ縁を呼び、リゼの選択と領の未来を動かしていく――。 想いと責務の狭間で揺れる青年と、自分を後回しにしがちな少女。 すれ違いと葛藤の先で、二人は互いを選び取れるのか。 辺境令嬢の小さな勇気が恋と運命を変えていく。 ※作中の仕事や災害、病、小物の知識などは全てフィクションです。史実や事実に基づいていないことをご理解ください。 ※8万字前後になる予定です。

後宮の死体は語りかける

炭田おと
恋愛
 辺境の小部族である嶺依(りょうい)は、偶然参内したときに、元康帝(げんこうてい)の謎かけを解いたことで、元康帝と、皇子俊煕(しゅんき)から目をかけられるようになる。  その後、後宮の宮殿の壁から、死体が発見されたので、嶺依と俊煕は協力して、女性がなぜ殺されたのか、調査をはじめる。  壁に埋められた女性は、何者なのか。  二人はそれを探るため、妃嬪達の闇に踏み込んでいく。  55話で完結します。

【完結】孤高の皇帝は冷酷なはずなのに、王妃には甘過ぎです。

朝日みらい
恋愛
異国からやってきた第3王女のアリシアは、帝国の冷徹な皇帝カイゼルの元に王妃として迎えられた。しかし、冷酷な皇帝と呼ばれるカイゼルは周囲に心を許さず、心を閉ざしていた。しかし、アリシアのひたむきさと笑顔が、次第にカイゼルの心を溶かしていき――。

【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

たまこ
恋愛
 公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。  ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。 ※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

貴方だけが私に優しくしてくれた

バンブー竹田
恋愛
人質として隣国の皇帝に嫁がされた王女フィリアは宮殿の端っこの部屋をあてがわれ、お飾りの側妃として空虚な日々をやり過ごすことになった。 そんなフィリアを気遣い、優しくしてくれたのは年下の少年騎士アベルだけだった。 いつの間にかアベルに想いを寄せるようになっていくフィリア。 しかし、ある時、皇帝とアベルの会話を漏れ聞いたフィリアはアベルの優しさの裏の真実を知ってしまってーーー

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...