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7章【そんなに幸せにしないで】

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 それが浅ましく、迷惑なのだとハッキリ理解したのは。

 ……ほんの少しだけ、落ち着きを取り戻した後だ。


「……あ、っ。オ、レ……っ」


 顔を覆っていた手を、ゆっくりと下ろす。

 黙り込んだツカサを見上げることもできず、カナタは素早く頭を下げた。


「ごっ、ごめんなさいっ! オレ、ツカサさんに迷惑かけたかったワケじゃなくて……っ! 強要、したかったワケじゃないんですっ! ごめんなさいっ! 本当に、ごめんなさいっ!」


 悔しくて、恥ずかしくて、惨めで。
 自分がこの部屋に立っていることすらもが、間違いのような気がしてきて。

 カナタは頭を下げたまま、ツカサからの言葉を待つ。

 ──呆れでも。

 ──いっそ糾弾でも、構わない。

 どんな言葉でもいいから、カナタはツカサの本心を聴きたかった。

 ──聴いたうえで、トドメを刺されたかったのだ。

 しかし、何秒待ってもツカサからの言葉は降ってこない。

 恐る恐る、カナタは顔を上げる。

 ──そして。


「……っ」


 カナタは、言葉を失った。

 ──さそ、不愉快そうな目を向けられているだろう。

 ──もしかすると、迷惑そうな顔をさせてしまっているかもしれない。

 それでもカナタは、顔を上げた。

 覚悟していたカナタの目に、飛び込んできたのは……。


「ごめん、カナちゃん」


 ホテルの時と、同じように。


「──嬉しすぎて、なんて言っていいのか分からなかった……っ」


 ──赤面しているツカサだった。

 ツカサはそれだけ言い、突然天井を仰ぎ見る。


「あ~……ッ! カナちゃん、ホンット可愛すぎ……ッ! こんな可愛いカナちゃんが他の誰かの視界に入るのとか、俺マジでイヤなんだけど! ずっと俺のそばにだけ置いておきたい! カナちゃん可愛すぎるってマジで!」
「そ、それって……っ? 閉じ込めるって、意味ですか……っ?」
「なにそれ、監禁ってこと? それはナンセンスだって」


 ツカサは天井を仰ぎ見たまま、両手で顔を覆い始めた。


「あのね、カナちゃん。俺はカナちゃんの自由意思を尊重しているんだよ。それなのに監禁するなんてことはしません。それは、カナちゃんの意に反しているでしょう?」
「え、っと。……はい。いや、です」
「だから、監禁なんて考えたことないよ。……それにさ、カナちゃん」


 ツカサの視線が、天井からカナタへ向けられる。

 その顔にはもう、朱色は差されていなかった。
 ……むしろ。


「──監禁なんかしなくても、カナちゃんは俺のことを一秒も欠かさず、ず~っと考えてくれているよね?」


 堂々と、自信に満ち溢れた色しかない。

 ツカサはカナタの腕を引き、もう一度抱き寄せた。
 今度は意図的且つ、強引に。


「俺に『好き』って言われなくて、不安だった? 俺に『可愛い』って言われるだけじゃ、心配だった?」
「……っ」
「ムシしないで答えてよ、カナちゃん。じゃないと、俺もカナちゃんの気持ちをムシするよ」


 ほんの少しだけ、ツカサの声が低くなる。
 途端に不安感を煽られたカナタは、慌てて数回頷いた。

 すると、カナタの頭上からツカサの笑い声が降り注ぐ。


「あはっ! そっか、そっかぁ! カナちゃん、俺のこといっぱい大好きなんだねぇ?」
「そっ、う……です、けど……っ。駄目、ですか?」
「素直だなぁ! ……ウン、全然ダメじゃない。そんなところも凄く可愛いよ」


 贈られた言葉に、カナタは思わず拗ねたような表情を浮かべた。




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