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11章【そんなに寄り添わないで】

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 揃って頭を下げる二人を見て、母親はなにも言えない。全ての判断を、父親に委ねているのだろう。

 対する父親の表情は、依然として険しいままだ。気付けば腕を組み、まるで品定めでもするかのような姿勢になっている。

 しかしすぐに、父親は口を開いた。


「……カナタ。お前は、まだまだ弱い男だな」


 突然、父がカナタを批判し始める。驚いたカナタは顔を上げて、父親の顔を見た。

 父親は未だに難しい顔をしたまま、カナタとツカサのことを見ている。……その視線に、カナタは堪らず竦み上がりそうになった。

 それでも、カナタは父親から目を逸らさない。弱いままでは、いたくなかったからだ。

 同じく顔を上げたツカサは、事の成り行きを静かに見守る。ここで言葉を挟むのは、違う気がしたからだ。……無論、今すぐにどんな手を使ってでもカナタを笑顔にしたいとは思っているが。

 深刻そうな顔を、二人は浮かべる。息子と息子の恋人を見た後、父親は小さく息を吐き、ポツリと呟いた。


「──わたしたちは、怒っていない。だから『許して』と言うのは、違うんじゃないか?」


 告げられた、父の言葉。
 短い言葉に込められた意味合いを、カナタは理解するのに時間をかけてしまった。


「あ……っ。……う、ん」


 カナタは一度、力強く頷く。
 背筋をもう一度だけ正したカナタは再度、両親に頭を下げた。

 そして、もう一度……。


「──お父さん、お母さん。……ツカサさんとの結婚を【認めて】ください」


 ──カナタは、自分の意思をきちんと主張した。

 頭を下げるカナタを、ツカサはなにも言わずに見つめる。これは我慢をしているのではなく、珍しいことに言葉が出てこなかったからだ。

 隣に座る恋人は、こんなにも強い男だったか。そう思うと、ツカサが紡ぐ言葉はどれもちっぽけで無価値なもののように思えて仕方がない。

 閉口してしまったツカサに代わってか、カナタに対して口を開いたのは両親だった。


「なぁ、母さん。交際宣言と同時に結婚宣言までされるとは、さすがに思っていなかったな」
「そうねぇ、ちょっと──だいぶ驚いちゃったわ。そうと分かっていたら、オムライスじゃなくてヤッパリお赤飯にしたのに」
「あっ、ごっ、ごめんなさいっ! 順序が、おかしくなって……っ!」
「だから、怒ってはいないと言っているだろう」


 父親はそう言い、不安そうな顔をしているカナタを見る。
 それから珍しく、柔らかな笑みを浮かべたのだ。


「打ち明けてくれて、ありがとう。……父さんと母さんは、祝福するよ」


 父親から贈られた言葉に、カナタの目は丸くなった。それからカナタは丸くなった目をそのままに、隣に座るツカサを見る。

 ツカサとはすぐに目が合い、それからすぐさま笑顔を向けられた。
 その視線が、まるでカナタに『良かったね』と言っているようで。カナタは堪らず、泣き笑いのような笑みを浮かべてしまう。


「お父さん、お母さん。……ありがとうっ」


 ツカサから両親へ目を向けて、カナタは思わず涙を流す。

 それを見て、父親は『やれやれ』と言いたげに肩を竦めた。
 母親はクスクスと笑いながら、旦那と息子を微笑ましそうに眺めている。
 カナタはと言うと、目元をグシグシと袖で拭いながら……やはり、笑っていた。

 そうした家族の温かさに直面して、ツカサは……。

 ……なにも言えないまま、ただ静かに笑っていた。




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