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5章【時限性アニバーサリー】

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 一度だけの性交を終えた後。

 秋在の着替えが終わり、バス停へ向かう。

 そしてバスに揺られること、数十分。

 二人は目的地――水族館に、辿り着いた。


「朝ご飯食べるより先に水族館で、本当に良かったのか?」


 着替えてすぐ、秋在は『水族館に行きたい』と提案したのだ。

 ほんの少しだけ心に引っ掛かっていたことを冬総が口にするも、秋在は瞬時に頷く。


「その方が美味しそうに見える」


 ……まるで、捕食者目線で水族館を楽しんでいるかのような発言だ。

 そういった着眼点で水族館巡りをする人は、希少な気がする。

 だが、秋在が楽しんでいるのならそれでいい。

 冬総は秋在の手を握り、話題を振った。


「秋在はさ、どういう魚が好きなんだ?」
「コリコリした食感」
「今のは【鑑賞するなら】って意味だったんだけど……」


 どうあっても、秋在は捕食者目線で楽しんでいるらしい。

 しかし、秋在がそういった楽しみ方をするのなら。


「……じゃあ、あの魚とかどうだ? 秋在の好きそうな食感っぽく見えないか?」


 秋在至上主義の冬総が、便乗しないわけがなかった。

 冬総が指を指した方向を見て、秋在は首を横に振る。


「タコの吸盤の方が美味しそう」
「それはもうコリコリの究極だろ……」


 どうやら、お気に召さなかったらしい。

 だというのに、秋在は冬総が選んだ魚を、ずっと見ている。


「……フユフサは、どういう魚が好きなの」
「焼き魚だな」
「ボクは透明な方が好き」
「今度は見た目の方か……」


 捕食者目線だけではなく、一般的な感性で水族館を楽しむ気持ちもあるらしい。

 並んで歩き、水槽の中に閉じ込められた魚を眺める。

 ほんのりと薄暗い室内で、冬総は秋在を見下ろす。


「あの魚、たぶん焼いたら美味しいよ」


 そう話す秋在は、テンションが高そうだ。

 冬総の手を引っ張る勢いで、魚を眺めている。


(……さっき、家でシたはずなんだけどなぁ……)


 公共の施設ではしゃいでいる秋在が、可愛い。

 普段はしない会話を秋在とできて、楽しい。

 なによりも……私服の秋在はヤッパリ、可愛い。

 秋在のことで頭をいっぱいにされて、冬総は思わず、笑ってしまう。


「ははっ。……俺、秋在のこと、メチャクチャ好きだわ」
「焼き魚より?」
「そんなの比較対象にもならないって」
「そっか」


 突然告白されても、秋在は動じない。

 それどころか……素直に受け止めている。

 自分もおかしなことを言ったという自覚はあるが、秋在だって相当だ。


(今日はうんと楽しませよう)


 この笑顔を、今日は一日……独り占めしていたい。

 小さくて大それた願いを抱きながら、冬総は秋在と並んで、水族館を眺めた。




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