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2章【知るは一滴に過ぎず、知らぬは大海の如し】
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しおりを挟む絵に対する感想を時々交換しながら、館内を一周。
「全然分からなかったな」
「ですねぇ~」
「だが、悪くはなかった。今度は別の展示品があるときにでも来ないか?」
「そうですね。また、いずれ」
結果的に、互いの感性をほんの少し磨いただけ。……なかなか、悪くはない時間だった。
だが、そんなことをするために美術館を選んだわけではない。山吹は作戦が微妙な結果となったことによる落胆を後回しにしつつ、桃枝と共に車へ乗った。
「課長。お腹、空きませんか?」
「ん? ……あぁ、確かに。もう昼過ぎか」
腕時計で時刻を確認した桃枝は、シートベルトを締める。
「ボク、行きたいところがあるんですっ」
「別に俺はこだわりがないから、どこでもいいぞ」
「じゃあ決定ですねっ。お昼はハンバーガーです!」
同じくシートベルトを締めながら、山吹は笑う。
「季節限定のハンバーガーが食べたかったんですよねぇ~っ。一人で外食ってなかなかしないので、助かりますっ」
「へぇ?」
「ちなみに課長って、普段はハンバーガーとか食べますか?」
「いや、食わん」
これも、ビンゴだ。半ば賭けだったが、やはり桃枝の趣味ではないらしい。
さぁ、なにを語る。さすがに視覚からの情報には嘘や方便を並べられるだろうが、味覚となるとそれも難しいはずだ。
いったい、桃枝のなにを期待しているのか。その答えも分からないが、山吹の心は踊って仕方なかった。
「お前と同じってワケじゃないが、外食はあまりしないな。するとしても定食屋とかラーメン屋とかで、ハンバーガーは食わねぇ」
「ファミレスにも行かないんですか?」
「一人でか? あそこはツレがいないとハードルが高いだろ」
「課長って、そういうの気にするんですねぇ~」
「どういう意味だ、それ」
笑い飛ばして、なんとか誤魔化す。
大口を開けてハンバーガーを食す桃枝の姿は想像できないが、目の当たりにするとなってもどうだっていい。求めているのは外面ではなく、内面だ。
ルンルンと上機嫌に体を揺らす山吹をチラリと見た後、桃枝は呟いた。
「お前、そんなにハンバーガーが好きなのか?」
「えっ。ハンバーガーが嫌いな人類っているんですかっ?」
「小規模な質問に大規模な質問で返すな。惑うだろ」
機嫌の良さをハンバーガーが理由だと思っているらしい桃枝は、しばし思考。やがて、口を開く。
「今度は居酒屋じゃなくて、ハンバーガー屋にでもするか。……仕事終わりの、メシ」
またしても、桃枝のオーラが【大好き】を訴えている。いったいどれだけ、山吹を喜ばせることに悦を見出しているのだろうか。
「ボク、居酒屋も好きですよ。それこそ、一人で行かないので」
「そうか?」
「しかも人の奢りなので、おいしさも倍増ですよねっ」
「それ、奢ってる奴の前で言うかよ、普通……」
車を走らせながら、桃枝は呆れたような表情を浮かべている。
それでもどことなく嬉しそうなのだから、理解に苦しむ。山吹との食事ならどこでだって嬉しいと、桃枝は思っているのだろう。
いったい、なにがそこまで気に入ったのか。山吹は桃枝からの【大好き】には気付いていないフリを敢行しつつ、桃枝と同様に前を向いた。
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