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王太子とデオくん

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ラスティア王国には
王子が3人、王女が2人いる
その中で、最も見目麗しく、人柄もいい第一王位継承権を持つ
アルス・ラスティア王太子はあの夜会で聖女に会った

暗がりで輝くその姿はまさに聖女
しかし、侵入した魔法使いを退け、怪我人の傷を癒すという
素晴らしい功績を残して2人は闇夜に消えてしまった

暗く炎が燃えさかるその夜
曖昧なその姿の2人の英雄を探すのは困難かと思われた

しかし、アルスは宰相の補佐をしていた
ランディの姿があの日の英雄と似ていると思ったのだ

確かあの日、彼は妹をエスコートしていたはず

そして、アルスはランディを自分付きの世話役として
そばに置くことにした
しかし
確証はなく時がすぎ

今日、視察で訪れたあの場所で
またしても奇跡を目にした

気を失っていた間に、魔物は倒され
自分は手当を受けていた

自分の足の傷を治す美しい少女は
ピンクがかった金髪をしていた
(ランディも赤い髪だし、
 2人とも金髪ではなかったんだな)

2人に懇願されてしまい、黙認し、協力することになった
ミュリエルは女の身でありながら騎士になるという
騎士より聖女の方が似合うと思ったがそれは言っていない





デオという銀髪の魔法使いが

城内にある魔法の変人達の巣窟、

もとい

城に属する魔法士達が日夜研究や鍛錬に勤しむ塔
に部屋を与えられ
王太子の護衛に加わることになった

これはミュリエルの提案で決まった事だった




竜を倒し、城に王太子を送り届ける途中に
話をいいようにまとめるため
王太子アルスと兄、デオとミュリエルはライランド邸にある兄の部屋で
向かい合っていた
すでに現場の騎士達にはアルスが箝口令をしき
今に至る



「殿下、以前、夜会に乱入した炎を使う魔法使いが
殿下を狙う可能性があります」

聞けば今回の竜もその魔法使いが仕向けた可能性があるという

「この銀髪の魔法使いは、その炎の魔法使いが私に
差し向けてきた暗殺者だったのですが」

話を聞いていたアルスも兄ランディもデオに敵意をあらわにした

「でも大丈夫、彼が私たちを裏切ることはないでしょう」
ミュリエルは得意げに胸を張る

デオは未だ何をされたのか分からず額の魔法陣に触れた

「なんだ?何かされたのか」
デオを覗き込むランディはその額の魔法陣を見る
そこには複雑な魔法陣がうっすらと見える

デオが触れると
淡く光る複雑な魔法陣がより濃く浮かび上がった

「俺には何の効果が刻まれているかわからないな」
こんな訳のわからないものを刻んだのは妹のミュリエルしかいない

ランディは簡単な魔法陣は使うことができるが
ミュリエルの作った魔法陣は複雑なものが多くあまり覚えられない

「なんだ?爆発魔法か?裏切ったら爆発する?みたいな」
冗談めいた言い方をしランディがまさかなと言うと

デオは顔面蒼白になり
ミュリエルはただ微笑むばかりだ

「それより、デオくん」
ミュリエルがデオの両肩にポンと手を置くと


「君のその魔法で殿下の護衛をお願いしたいの」

彼の影や闇を操る魔法は暗殺にも向いているけど、
文字通り影から誰かを見守る護衛にもを向いていると思う!

「暗殺なんかよりきっとやり甲斐もあると思うし、
 報酬も常にあちらの倍支払うから、、、私のお兄様が!」

もはやミュリエルの財布としてランディは存在しているのでは?
と兄であるランディは思った

「いいだろう、ミュリエルがそこまで
この魔法使いを認めているのであれば私自ら直々に雇う
城の魔法士の塔に部屋も用意するからそこに寝泊まりするといい」

なんとランディではなく王太子自らデオを雇うと言い出した

ミュリエルはこの王太子も団長の生まれ変わりで
あるかもしれない候補に入れている
17歳で、一番団長に風貌が似ているためだ
ありえると思う

そんな王太子が命を狙われているとしたら、守るのは当然の事

「デオくん」
ミュリエルに呼ばれたデオはミュリエルのくん呼びに物申す

「なぜ俺のことをくん付けで呼ぶ、俺は17歳だぞ」

まさかの1こ上
ミュリエルは衝撃を受けた

見た目から自分より年下か同い年と思っていたことも、
しかしそれより
17ということは
まさか、デオが団長かもしれないリストに仲間入りするということ

頭の中の団長かもしれないリストにデオを入れ
それでもミュリエルはデオくんと彼を呼んだ

なぜなら、デオは暗殺にも失敗し、
ミュリエルにも負けているのだから
ミュリエルにとっては年上でも下なのである
団長の可能性は低い

「もし殿下に何かあったり、自分には手に負えない
 ようなことがあればあなたのひたいの魔法陣に触れて
 私に呼びかけてください」

「え?」デオは驚いた顔をする

「すぐに駆けつけます」

「だからデオくんは殿下をちゃんとみは、、ごふっごほん」
「殿下をちゃんと護衛してくださいね」

デオは少し胡乱げな表情でミュリエルを見る
(いま見張れって言おうとしたよな)

とはいえ、そういう時の魔法陣だったのかと
デオが少し胸を撫で下ろした時

「他にもいろいろ仕込んでありますから」と
ミュリエルは意味深な発言を残した

「ということで、頼みましたよデオくん!」

「じゃあ、俺は王太子を城にお連れする、
 デオ、お前も来い」




3人がライランド邸を出るとミュリエルは自室へ戻りマリベルを呼んだ

「お母様は?」

「今日はミレア・サイラーデ伯爵夫人のお茶会に出掛けていますよ」

なんですと?

ミレア、、、って、、?

まさか、、、ね

「そっか、じゃあ商業地区とは遠いから大丈夫か」

「商業地区に魔物が出たんですよね」
マリベルは不安げにミュリエルを見た

汚れたミュリエルの衣服を見て
「まさかお嬢様、、!」
ギクっ
「あー、浴槽のお湯ためてくれる?」
お母様が帰ってくるまでに綺麗にして証拠隠滅せねば

ミュリエルは入浴で綺麗サッパリ汚れを落として
マリベルの用意した普段着用のドレスを着せられる

「もう外出はしないですよね、」
と言ってマリベルは水色のワンピースドレスを選んだようだ

ミュリエルはまあいいかと鏡台の前に座る
風と火の魔法を程よく混ぜて温風を作り出すと
自らの髪にあてて乾かした

マリベルは「便利ですね」
というと乾いた髪を櫛ずけ、ハーフアップに結って
薄いナチュラルなメイクを施していく

さっきまでとは別人のように美しい伯爵令嬢が出来上がった

「おお」

一瞬アレン目線で別人を見るような感覚になってしまった

その時、一階が少し騒がしくなった
ほどなくして母エミリアがミュリエルの部屋に入ってきた

「ミュリエル、良かった無事だったのね」

「どうしたんですかお母様、そんなに慌てて」

普段からゆったりおっとりなお母様にしては珍しく慌てている

「商業地区に魔物が出たというから」
ギクっ

「あなたのことだからまた危ない事に
 首を突っ込んでいるんじゃないかって、、、」
ギクギクっ

エミリアはミュリエルの様子をみて安心したようだ
どこも怪我をしていないし、汚れも落として
ピカピカの伯爵令嬢なのだ

心の中でギクギクしっぱなしのミュリエルは
家にいたテイで
エミリアに聞いてみた
「そんな怖いですね、それで、その魔物はどうなったのですか?」

「騎士団とその兵士の皆さんで魔物は倒されたそうよ」

おお、王太子の箝口令が効いている

「良かったです」

「それにしても、ミュリエル、
今日はきれいな格好をしているのね
ミレア伯爵夫人のお茶会に一緒に連れて行ってあげれば良かったわ」

「お母様、ミレア伯爵夫人ってどんな方?」

「?金髪で青い瞳のきれいな方よ。
あ、そうそう近くにあるアルディンさんのお家から
お嫁に来た言っていたわ、あの副団長さんと姉弟だと言っていたわね」

えーあってた

「お母様、もしまたミレア伯爵夫人に誘われたら
 私も行ってみたい」
「いいわよあなたもお茶会に興味を持ってくれて嬉しいわ」


そう言って
ニコニコしてエミリアは部屋から出て行った

ーーーセーーーフ!!

そしてミレアのお茶会
団長に関する手がかりを欲しいし
なによりミレアにあってみたい

ミュリエルはマリベルに退出してもらうとベッドにダイブした
今日はいろいろありすぎて
「疲れたー」

あの黒い竜
アレンが戦った個体よりも大きかったけど
強さはそこまでではなかった気がする
別個体なのだろう

あんなところに急に現れたのだ、
あの魔法使いが召喚したのだと思う

私にはデオを差し向け、兄と王太子を亡き者にするため?
という事はアレンが対峙したあの竜も炎の魔法使いが?
「うーん、、、わからん」

数日後の騎士団試験前に謎は深まる
そして団長も見つかりそうになかった
私のように記憶を持っていないということ?

「答えてよ、、、神様」

答えはない

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