行き倒れと女主人

浅葱

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伍、奪われてしまいました

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 花月の兄に今までの給金と荷物を届けられたことで諦めたのか、以来青年が店にくることはなかった。
 青年がいなくなったことで店は多少忙しくなったが、元々彼らだけで切り盛りしてきただけのことはあり、すぐにそれは日常に戻った。だから花月は青年のことを忘れることにした。それで終わりのはずだった。


 年末が近いある静かな晩のことだった。
 片づけや帳簿の確認を終え、いつも通り花月フアユエが寝る準備をしていた時部屋の扉を叩く音がした。

「誰? 大哥にいさん?」

 誰何しながら扉を開けた途端、何者かに抱きしめられ扉を後ろ手に閉められた。

「!?」

 そのままベッドに押し倒され、唇を塞がれる。それはまるで、嵐のようだった。

(な、何? 誰?)

 パニックを起こしながらも目を開ければそれは最近までここに勤めていた青年で、花月は更に混乱した。青年は彼女に口づけながら彼女の睡衣ねまきをはだけ、やわやわとその小さくない胸を揉んだ。

「んんっ……」

 青年の手は巧みだった。胸を揉みながら乳首をくりくりいじられると花月はなんだかむずむずするものを感じた。しかも部屋に押し入ってきたのが青年だとわかった時、花月はどうしてかほっとしてしまったのだ。その心理がいったいなんなのかわからなかったが、もしかしたら無意識の内に青年にそうされることを彼女は許していたのかもしれない。
 逃げなければと思うのに、身体から力がどんどん抜けていく。
 初めての口づけと愛撫に翻弄され、やっと唇を解放された時には、彼女は息も絶え絶えだった。

「なんで……」
「明日この街を出ます。必ず貴女の望むような男になって戻ってくる……その前に貴女がどうしても欲しい」
「そんな……」

 青年の勝手な言い分に花月は絶句した。
 花月を抱くということは、青年が花月を娶ることと同義だ。そんな口約束を信じられるものではない。

「暴れても、叫んでもいい。私は貴女を抱きたい」

 花月の返事を待たず、青年は再び彼女の身体にむしゃぶりついた。

「ああっ……」

 彼女を奪う、という確固とした意志を持った男の腕から逃れられるはずもなく、花月は青年に貫かれた。それは犯す、というほどの激しいものではなく、潤滑油まで使い丁寧にほぐされた結果であったから、花月にとって半ば合意といえないこともなかった。

「ああ、ん……」

 初めての男の腕は逞しかった。青年の言が例え嘘でももうかまわなかった。花月は、女性として見られることに飢えていたのかもしれない。

「花月、必ずやそなたを迎えにくる……」

 青年に甘く抱かれながら、花月は(うそばっかり)と口元だけで笑んだ。
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