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第3部 周りと仲良くしろと言われました
39.何も変わっていないのですが
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侍女が知らせてくれたのだろう、食堂には四神が揃っていた。香子は玄武と朱雀の間に腰掛けた。座る場所はいつもここと決まっているわけではなく、四神が決めている。日本の家庭のようにこれは誰の等食器が決まっていれば、そこに腰掛ければいいのだろうなと香子はたまに思う。ただ、香子は特に現状に不満はなかった。
『何故我を呼ばぬ』
『歩きたいと言ったではありませんか』
拗ねたように言う玄武に、香子は微笑んだ。白虎に抱かれたせいなのか、心が満たされたような、そんな安定感が生まれていた。やはり香子は四神の花嫁で、全員に抱かれなければいけなかったのだろう。そう思うと、玄武を拒んだ先代の花嫁が気の毒でならなかった。
『そなたを歩かせたくはない』
『何故ですか?』
四神宮の中ならばいいではないかと香子は思う。外ではもう足をつくなんてことはめったにない。椅子に腰かけて足をつくということはあるけれど。
『我らの腕の中に抱いていたいのだ』
『そんな……不安に思われることなど何もないのですよ』
(不思議だわ……)
落ち着いてみると、四神の方がよっぽど情緒不安定である。きっと香子が誰かに決めてしまえば腹をくくるのかもしれないが、それまでは落ち着かないのだろうか。
『不安か……そうなのかもしれぬな。だが不可思議でもある。そなたはもう身も心も我らのものであるというのに……』
玄武が眉を寄せた。そんな顔をしないでほしいと香子は思う。
お茶が淹れられ、前菜が並べられる。
いつも通り「いただきます」と心の中で言い、今日もおいしい夕食に手をつけた。
香子が異世界から来たことはみんな知っているが、香子が異世界の別の国から来たことはまだ四神とその眷属しか知らないことである。
(こうやって、日本語も忘れていくのかな……)
ノートには日本語で日記をつけていた。もう紙がなくなってしまったので、いただきものの紙に書き続けている。きっと紙もそのうち劣化してだめになってしまうことは香子にもわかっている。四神の花嫁の生は長いのだ。まだ22年しか生きていないというのに、寿命は何百年単位である。そんなに長く生きていたら日本語も忘れてしまうだろう。でもそれはそれでいいのかもしれないと香子は思う。
だって、香子がここで生きていることに変わりはないのだから。
(随分落ち着いたなー)
しみじみと香子は思った。青龍に抱かれるの抱かれないの、白虎に抱かれるの抱かれないのともだもだやっていたのはついこの間なのに、もう遠い世界のことのように感じられた。
『香子』
主菜を食べている時、朱雀に声をかけられた。
『はい』
『そなたは随分と落ち着いたようだ』
『そうですね。つい先日まで落ち着かなかったのが嘘みたいです』
そう香子が答えた途端、朱雀は香子を中心にして周りの空気が一斉に明るくなったのを感じた。目を丸くする。
『よいことだが……我のことも忘れるでないぞ』
『わ、忘れてませんよっ!』
香子はさすがに赤くなった。今日は一日玄武と過ごすことになっているが、明日は朱雀と一日過ごすことになっているのだ。玄武だけだってあっぷあっぷしているのに朱雀と二人きりで過ごすなんてどうなってしまうのか。想像しただけで香子は全身真っ赤になった。
(ううう……愛欲の日々ぃ……)
全くもって他人のことなど考えている余裕はない。夕飯を終えて茶室に移動する。これもいつもの流れなのだが、今夜玄武と過ごすことは決まっているが朱雀はどうするのだろうと香子は思った。侍女たちにお湯を用意してもらった後は四神と眷属のみとなる。
香子はいつもの通りにお茶を淹れ、四神に振舞った。今日用意されていたお茶は桂花烏龍茶だった。金木犀の花が混じった薫り高いお茶である。混ぜ物のあるお茶は質が悪いという印象が香子にはあるのだが、この桂花烏龍茶だけは別であった。どちらにせよ茶に渋みがあるかないかが基準だ。いい茶葉は味が濃くはなるが渋みは出ないと香子は認識している。
品茗杯を傾けて黄金色の茶を味わう。
(うん、おいしい)
満足そうに頷いてから、香子は口を開いた。
『あの……今まですいませんでした』
『何を謝る?』
四神から驚いたような気配を感じた。玄武が問う。
『そのぅ……白虎様としたせいなのか……やっと落ち着いてきまして……』
なんと説明したらいいのかわからない。だが徐々に心の波がおさまってきていると香子は思う。
『ふむ。心の問題か』
朱雀が呟くようにいった。
『そうですね。やっぱり……四神の花嫁なのですから、全員と……なのだと思います……』
する、とか抱かれる、とかそんな言葉は恥ずかしくて口に出せない。香子のそんな様子に四神は微かに笑んだ。全員に抱かれたというのに香子はいつまでも初心だった。
『そうだな。では今宵はどうする? 玄武兄だけではなく、我ともよいか?』
朱雀がからかうように言う。香子は真っ赤になった。そしてそっぽを向く。
『……口にすることではないと思います』
『そうであったな』
朱雀がそっと香子の手を取る。そんなところが好きだと香子は思う。
(重症だわ……)
頬が熱くてたまらなかった。
ーーーーー
朱雀と過ごすかどうかの話は第三部35話を参照のこと。
『何故我を呼ばぬ』
『歩きたいと言ったではありませんか』
拗ねたように言う玄武に、香子は微笑んだ。白虎に抱かれたせいなのか、心が満たされたような、そんな安定感が生まれていた。やはり香子は四神の花嫁で、全員に抱かれなければいけなかったのだろう。そう思うと、玄武を拒んだ先代の花嫁が気の毒でならなかった。
『そなたを歩かせたくはない』
『何故ですか?』
四神宮の中ならばいいではないかと香子は思う。外ではもう足をつくなんてことはめったにない。椅子に腰かけて足をつくということはあるけれど。
『我らの腕の中に抱いていたいのだ』
『そんな……不安に思われることなど何もないのですよ』
(不思議だわ……)
落ち着いてみると、四神の方がよっぽど情緒不安定である。きっと香子が誰かに決めてしまえば腹をくくるのかもしれないが、それまでは落ち着かないのだろうか。
『不安か……そうなのかもしれぬな。だが不可思議でもある。そなたはもう身も心も我らのものであるというのに……』
玄武が眉を寄せた。そんな顔をしないでほしいと香子は思う。
お茶が淹れられ、前菜が並べられる。
いつも通り「いただきます」と心の中で言い、今日もおいしい夕食に手をつけた。
香子が異世界から来たことはみんな知っているが、香子が異世界の別の国から来たことはまだ四神とその眷属しか知らないことである。
(こうやって、日本語も忘れていくのかな……)
ノートには日本語で日記をつけていた。もう紙がなくなってしまったので、いただきものの紙に書き続けている。きっと紙もそのうち劣化してだめになってしまうことは香子にもわかっている。四神の花嫁の生は長いのだ。まだ22年しか生きていないというのに、寿命は何百年単位である。そんなに長く生きていたら日本語も忘れてしまうだろう。でもそれはそれでいいのかもしれないと香子は思う。
だって、香子がここで生きていることに変わりはないのだから。
(随分落ち着いたなー)
しみじみと香子は思った。青龍に抱かれるの抱かれないの、白虎に抱かれるの抱かれないのともだもだやっていたのはついこの間なのに、もう遠い世界のことのように感じられた。
『香子』
主菜を食べている時、朱雀に声をかけられた。
『はい』
『そなたは随分と落ち着いたようだ』
『そうですね。つい先日まで落ち着かなかったのが嘘みたいです』
そう香子が答えた途端、朱雀は香子を中心にして周りの空気が一斉に明るくなったのを感じた。目を丸くする。
『よいことだが……我のことも忘れるでないぞ』
『わ、忘れてませんよっ!』
香子はさすがに赤くなった。今日は一日玄武と過ごすことになっているが、明日は朱雀と一日過ごすことになっているのだ。玄武だけだってあっぷあっぷしているのに朱雀と二人きりで過ごすなんてどうなってしまうのか。想像しただけで香子は全身真っ赤になった。
(ううう……愛欲の日々ぃ……)
全くもって他人のことなど考えている余裕はない。夕飯を終えて茶室に移動する。これもいつもの流れなのだが、今夜玄武と過ごすことは決まっているが朱雀はどうするのだろうと香子は思った。侍女たちにお湯を用意してもらった後は四神と眷属のみとなる。
香子はいつもの通りにお茶を淹れ、四神に振舞った。今日用意されていたお茶は桂花烏龍茶だった。金木犀の花が混じった薫り高いお茶である。混ぜ物のあるお茶は質が悪いという印象が香子にはあるのだが、この桂花烏龍茶だけは別であった。どちらにせよ茶に渋みがあるかないかが基準だ。いい茶葉は味が濃くはなるが渋みは出ないと香子は認識している。
品茗杯を傾けて黄金色の茶を味わう。
(うん、おいしい)
満足そうに頷いてから、香子は口を開いた。
『あの……今まですいませんでした』
『何を謝る?』
四神から驚いたような気配を感じた。玄武が問う。
『そのぅ……白虎様としたせいなのか……やっと落ち着いてきまして……』
なんと説明したらいいのかわからない。だが徐々に心の波がおさまってきていると香子は思う。
『ふむ。心の問題か』
朱雀が呟くようにいった。
『そうですね。やっぱり……四神の花嫁なのですから、全員と……なのだと思います……』
する、とか抱かれる、とかそんな言葉は恥ずかしくて口に出せない。香子のそんな様子に四神は微かに笑んだ。全員に抱かれたというのに香子はいつまでも初心だった。
『そうだな。では今宵はどうする? 玄武兄だけではなく、我ともよいか?』
朱雀がからかうように言う。香子は真っ赤になった。そしてそっぽを向く。
『……口にすることではないと思います』
『そうであったな』
朱雀がそっと香子の手を取る。そんなところが好きだと香子は思う。
(重症だわ……)
頬が熱くてたまらなかった。
ーーーーー
朱雀と過ごすかどうかの話は第三部35話を参照のこと。
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