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第3部 周りと仲良くしろと言われました
45.思いつきはすぐ大事に発展します
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『秋の大祭について、趙よりお尋ねしたいことがあるようです』
戻ってきた白雲がそう香子に伝えた。なんのことだろうと香子は首を傾げた。
『謁見の間まで行けばいいのかしら?』
『その方がよろしいかと』
ということは重要度が高い案件のようである。衣裳合わせも早くしなければならないだろう。そのことかなと香子は思った。軽く侍女たちに恰好を整えてもらい、香子は白虎に抱かれて四神宮の外へ出た。
四神宮の空気をそのまま持ちだしたようなかんじが香子はした。
(四神のいる場所は大気も安定しているのね)
白虎が謁見の間に足を踏み入れた。玄武、朱雀、青龍、白雲、青藍、黒月、延夕玲も一緒である。相変わらず紅夏の姿はない。そのことにどうしても香子はもやもやしてしまうのだった。
それはともかく趙文英である。王英明もいることから、香子は気を引き締めた。
一通り挨拶の口上を終えた後(万歳万歳万々歳というやつである)、スッと趙が半歩前に出る。
『四神、並びに白香娘娘にはご足労いただきありがとうございます。此度は皇上より秋の大祭の際のご希望を承ったとの連絡がございました。それによりまして、どうかその詳細をお教えいただけないでしょうか』
『ご希望?』
なにか皇帝に希望したことがあったっけ? と香子は首を傾げた。
(極力皇帝の顔なんか見たくないけどなんか要望出したかしら?)
香子にとって皇帝は女性の敵である。その評価は今のところ覆る気配はなかった。
『発言をお許しください』
『申せ』
王が半歩前に出て口を開いた。白虎が許可をする。趙が半歩下がった。
『ありがとうございます。本日朝議の後、皇上は四神より天啓を受けたとおっしゃられました。曰く、秋の大祭の折、月餅を民に振舞いたいと白香娘娘がおっしゃられていると』
香子はあー、と顔を覆った。天啓と聞いて念話だということがわかる。四神同士であれば意思疎通が可能だが、それ以外の者に対しては一方通行になるあれだ。
月餅を民に配るなんて話をしたのは今朝である。香子はちろりと玄武を見た。相変わらずの動かない表情がそこにあった。念話で皇帝に伝えたのは玄武だろうことは香子でもわかった。
『……そうですね。そういう話は玄武様にしました』
明らかにほっとしたような空気が伝わった。王が皇帝から直接聞くなんてことはないはずなので、また聞きの状態でここに来るのはたいへんだっただろう。香子は少し気の毒に思った。
『此度の大祭で民の前に顔を出すのは、夜前門の楼台からのみと聞いています。相違ないですか?』
『はい、そう承っております』
香子はまず前提条件から確認することにした。
『その楼台から民へ向けて、もし小さめの月餅などがあれば配れないかと思ったのです』
『確認させてください。それは放るという解釈でよろしいですか』
楼台の上からである。表現としては放るで間違いなかった。
『合っています』
『そうですね……この場で即答はできかねますが、可能ではあると考えます。民たちも喜ぶでしょう』
『ですが、できれば怪我人などが出ないようにしたいのです。月餅の用意の問題だけでなく警備の者たちに苦労はかけますが、もし可能であればみなに四神の加護を授けたいと考えています』
『四神の加護を……』
趙と王が頬を紅潮させた。それは感動しているようにも見受けられ、やっぱり四神の存在ってこの国ではすごいものなのだなと香子は再認識した。
『できるだけ早くよい返答ができるよう尽力させていただきます。その際、お手数ですがお配りになる月餅を選んでいただくことは可能でしょうか』
『ええ、せっかく民に配るのですもの。できれば試食をさせていただきたいわ』
香子、職権乱用である。月餅を選ぶと聞いて欲が出たようだった。なんだか黒月がいぶかしげな視線を香子に向けており、それを香子は気づいていたが無視することにした。
『ああそうだわ。小さめのものをお願いしたいから卵黄は入っていないものにしてちょうだい。できるだけたくさん配りたいから、数が用意できる店を限定して。品質は私が試食するものと変わらないものを民に配れるようにすることが条件よ。ただ……』
要望だけはしっかりしておくが、こんな突然の思いつきは本来通してはいけないものである。
『如何か……』
『本当に今朝思いついたことだから、無理なら無理でかまいませんと伝えてちょうだい』
目を伏せ弱弱しくそう言うと、趙と王の目の色が変わった。今回のことは香子のわがままだが、二人をして是非とも叶えてあげたいと思わせてしまったのである。
『承知しました!』
二人は力強く答える。黒月の、香子への視線がきつくなった。
(ど、どうしてもなんて言ってないし……)
香子は口笛でも吹いて誤魔化したい気分ではあったがさすがにそんなことをするわけにはいかない。そんなことをしたら夕玲にも行儀が悪いと怒られてしまう。詳細については一旦中書省に持ち帰って精査するらしいと聞いて香子は内心ほっとした。いくら香子が四神の花嫁であっても、そうすんなりわがままが通っていいはずはないのだ。
『じゃあ、よろしくね』
白虎の腕に抱かれたまま四神宮に戻った。そのまま香子は白虎の室に連れて行かれてしまう。その足はまっすぐ寝室に向かった。香子はこの腕の中にいたことを少しだけ後悔した。
戻ってきた白雲がそう香子に伝えた。なんのことだろうと香子は首を傾げた。
『謁見の間まで行けばいいのかしら?』
『その方がよろしいかと』
ということは重要度が高い案件のようである。衣裳合わせも早くしなければならないだろう。そのことかなと香子は思った。軽く侍女たちに恰好を整えてもらい、香子は白虎に抱かれて四神宮の外へ出た。
四神宮の空気をそのまま持ちだしたようなかんじが香子はした。
(四神のいる場所は大気も安定しているのね)
白虎が謁見の間に足を踏み入れた。玄武、朱雀、青龍、白雲、青藍、黒月、延夕玲も一緒である。相変わらず紅夏の姿はない。そのことにどうしても香子はもやもやしてしまうのだった。
それはともかく趙文英である。王英明もいることから、香子は気を引き締めた。
一通り挨拶の口上を終えた後(万歳万歳万々歳というやつである)、スッと趙が半歩前に出る。
『四神、並びに白香娘娘にはご足労いただきありがとうございます。此度は皇上より秋の大祭の際のご希望を承ったとの連絡がございました。それによりまして、どうかその詳細をお教えいただけないでしょうか』
『ご希望?』
なにか皇帝に希望したことがあったっけ? と香子は首を傾げた。
(極力皇帝の顔なんか見たくないけどなんか要望出したかしら?)
香子にとって皇帝は女性の敵である。その評価は今のところ覆る気配はなかった。
『発言をお許しください』
『申せ』
王が半歩前に出て口を開いた。白虎が許可をする。趙が半歩下がった。
『ありがとうございます。本日朝議の後、皇上は四神より天啓を受けたとおっしゃられました。曰く、秋の大祭の折、月餅を民に振舞いたいと白香娘娘がおっしゃられていると』
香子はあー、と顔を覆った。天啓と聞いて念話だということがわかる。四神同士であれば意思疎通が可能だが、それ以外の者に対しては一方通行になるあれだ。
月餅を民に配るなんて話をしたのは今朝である。香子はちろりと玄武を見た。相変わらずの動かない表情がそこにあった。念話で皇帝に伝えたのは玄武だろうことは香子でもわかった。
『……そうですね。そういう話は玄武様にしました』
明らかにほっとしたような空気が伝わった。王が皇帝から直接聞くなんてことはないはずなので、また聞きの状態でここに来るのはたいへんだっただろう。香子は少し気の毒に思った。
『此度の大祭で民の前に顔を出すのは、夜前門の楼台からのみと聞いています。相違ないですか?』
『はい、そう承っております』
香子はまず前提条件から確認することにした。
『その楼台から民へ向けて、もし小さめの月餅などがあれば配れないかと思ったのです』
『確認させてください。それは放るという解釈でよろしいですか』
楼台の上からである。表現としては放るで間違いなかった。
『合っています』
『そうですね……この場で即答はできかねますが、可能ではあると考えます。民たちも喜ぶでしょう』
『ですが、できれば怪我人などが出ないようにしたいのです。月餅の用意の問題だけでなく警備の者たちに苦労はかけますが、もし可能であればみなに四神の加護を授けたいと考えています』
『四神の加護を……』
趙と王が頬を紅潮させた。それは感動しているようにも見受けられ、やっぱり四神の存在ってこの国ではすごいものなのだなと香子は再認識した。
『できるだけ早くよい返答ができるよう尽力させていただきます。その際、お手数ですがお配りになる月餅を選んでいただくことは可能でしょうか』
『ええ、せっかく民に配るのですもの。できれば試食をさせていただきたいわ』
香子、職権乱用である。月餅を選ぶと聞いて欲が出たようだった。なんだか黒月がいぶかしげな視線を香子に向けており、それを香子は気づいていたが無視することにした。
『ああそうだわ。小さめのものをお願いしたいから卵黄は入っていないものにしてちょうだい。できるだけたくさん配りたいから、数が用意できる店を限定して。品質は私が試食するものと変わらないものを民に配れるようにすることが条件よ。ただ……』
要望だけはしっかりしておくが、こんな突然の思いつきは本来通してはいけないものである。
『如何か……』
『本当に今朝思いついたことだから、無理なら無理でかまいませんと伝えてちょうだい』
目を伏せ弱弱しくそう言うと、趙と王の目の色が変わった。今回のことは香子のわがままだが、二人をして是非とも叶えてあげたいと思わせてしまったのである。
『承知しました!』
二人は力強く答える。黒月の、香子への視線がきつくなった。
(ど、どうしてもなんて言ってないし……)
香子は口笛でも吹いて誤魔化したい気分ではあったがさすがにそんなことをするわけにはいかない。そんなことをしたら夕玲にも行儀が悪いと怒られてしまう。詳細については一旦中書省に持ち帰って精査するらしいと聞いて香子は内心ほっとした。いくら香子が四神の花嫁であっても、そうすんなりわがままが通っていいはずはないのだ。
『じゃあ、よろしくね』
白虎の腕に抱かれたまま四神宮に戻った。そのまま香子は白虎の室に連れて行かれてしまう。その足はまっすぐ寝室に向かった。香子はこの腕の中にいたことを少しだけ後悔した。
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