異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

文字の大きさ
348 / 653
第3部 周りと仲良くしろと言われました

45.思いつきはすぐ大事に発展します

しおりを挟む
『秋の大祭について、趙よりお尋ねしたいことがあるようです』

 戻ってきた白雲がそう香子に伝えた。なんのことだろうと香子は首を傾げた。

『謁見の間まで行けばいいのかしら?』
『その方がよろしいかと』

 ということは重要度が高い案件のようである。衣裳合わせも早くしなければならないだろう。そのことかなと香子は思った。軽く侍女たちに恰好を整えてもらい、香子は白虎に抱かれて四神宮の外へ出た。
 四神宮の空気をそのまま持ちだしたようなかんじが香子はした。

(四神のいる場所は大気も安定しているのね)

 白虎が謁見の間に足を踏み入れた。玄武、朱雀、青龍、白雲、青藍、黒月、延夕玲も一緒である。相変わらず紅夏の姿はない。そのことにどうしても香子はもやもやしてしまうのだった。
 それはともかく趙文英である。王英明もいることから、香子は気を引き締めた。
 一通り挨拶の口上を終えた後(万歳万歳万々歳というやつである)、スッと趙が半歩前に出る。

『四神、並びに白香娘娘にはご足労いただきありがとうございます。此度は皇上より秋の大祭の際のご希望を承ったとの連絡がございました。それによりまして、どうかその詳細をお教えいただけないでしょうか』
『ご希望?』

 なにか皇帝に希望したことがあったっけ? と香子は首を傾げた。

(極力皇帝の顔なんか見たくないけどなんか要望出したかしら?)

 香子にとって皇帝は女性の敵である。その評価は今のところ覆る気配はなかった。

『発言をお許しください』
『申せ』

 王が半歩前に出て口を開いた。白虎が許可をする。趙が半歩下がった。

『ありがとうございます。本日朝議の後、皇上は四神より天啓を受けたとおっしゃられました。曰く、秋の大祭の折、月餅を民に振舞いたいと白香娘娘がおっしゃられていると』

 香子はあー、と顔を覆った。天啓と聞いて念話だということがわかる。四神同士であれば意思疎通が可能だが、それ以外の者に対しては一方通行になるあれだ。
 月餅を民に配るなんて話をしたのは今朝である。香子はちろりと玄武を見た。相変わらずの動かない表情がそこにあった。念話で皇帝に伝えたのは玄武だろうことは香子でもわかった。

『……そうですね。そういう話は玄武様にしました』

 明らかにほっとしたような空気が伝わった。王が皇帝から直接聞くなんてことはないはずなので、また聞きの状態でここに来るのはたいへんだっただろう。香子は少し気の毒に思った。

『此度の大祭で民の前に顔を出すのは、夜前門の楼台からのみと聞いています。相違ないですか?』
『はい、そう承っております』

 香子はまず前提条件から確認することにした。

『その楼台から民へ向けて、もし小さめの月餅などがあれば配れないかと思ったのです』
『確認させてください。それは放るという解釈でよろしいですか』

 楼台の上からである。表現としては放るで間違いなかった。

『合っています』
『そうですね……この場で即答はできかねますが、可能ではあると考えます。民たちも喜ぶでしょう』
『ですが、できれば怪我人などが出ないようにしたいのです。月餅の用意の問題だけでなく警備の者たちに苦労はかけますが、もし可能であればみなに四神の加護を授けたいと考えています』
『四神の加護を……』

 趙と王が頬を紅潮させた。それは感動しているようにも見受けられ、やっぱり四神の存在ってこの国ではすごいものなのだなと香子は再認識した。

『できるだけ早くよい返答ができるよう尽力させていただきます。その際、お手数ですがお配りになる月餅を選んでいただくことは可能でしょうか』
『ええ、せっかく民に配るのですもの。できれば試食をさせていただきたいわ』

 香子、職権乱用である。月餅を選ぶと聞いて欲が出たようだった。なんだか黒月がいぶかしげな視線を香子に向けており、それを香子は気づいていたが無視することにした。

『ああそうだわ。小さめのものをお願いしたいから卵黄は入っていないものにしてちょうだい。できるだけたくさん配りたいから、数が用意できる店を限定して。品質は私が試食するものと変わらないものを民に配れるようにすることが条件よ。ただ……』

 要望だけはしっかりしておくが、こんな突然の思いつきは本来通してはいけないものである。

『如何か……』
『本当に今朝思いついたことだから、無理なら無理でかまいませんと伝えてちょうだい』

 目を伏せ弱弱しくそう言うと、趙と王の目の色が変わった。今回のことは香子のわがままだが、二人をして是非とも叶えてあげたいと思わせてしまったのである。

『承知しました!』

 二人は力強く答える。黒月の、香子への視線がきつくなった。

(ど、どうしてもなんて言ってないし……)

 香子は口笛でも吹いて誤魔化したい気分ではあったがさすがにそんなことをするわけにはいかない。そんなことをしたら夕玲にも行儀が悪いと怒られてしまう。詳細については一旦中書省に持ち帰って精査するらしいと聞いて香子は内心ほっとした。いくら香子が四神の花嫁であっても、そうすんなりわがままが通っていいはずはないのだ。

『じゃあ、よろしくね』

 白虎の腕に抱かれたまま四神宮に戻った。そのまま香子は白虎の室に連れて行かれてしまう。その足はまっすぐ寝室に向かった。香子はこの腕の中にいたことを少しだけ後悔した。
しおりを挟む
感想 94

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

処理中です...