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第3部 周りと仲良くしろと言われました
85.女官がもう一人ほしいと思いまして
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『あ』
香子は今頃になってもう一つの用件を伝えるのを忘れたことに気づいた。
夕飯の席である。青龍はあれから香子の身体に触れたが、もちろん抱くことはなかった。抱かれたら最後翌日の昼過ぎまで放してもらえなかったはずである。さすがに覚悟も決めていないのにそうなるのは、香子としては避けたかった。
『香子、如何した?』
玄武に声をかけられる。
『あ、いえ……老仏爺に伝え忘れたことがありまして……』
『伝えに参るか』
『いえ、急いではいません』
それに、と香子は思う。こういうことは本来香子が直接言うことではなく、延夕玲を通して言うことのような気がした。だがそれはそれで複雑だろうかとも香子は考える。誰に伝えたらいいものかと香子は毎回模索していた。
『何を伝えたかったのだ』
『女官をもう一人ぐらい派遣してもらおうかと』
玄武は眉をほんの少しだけ寄せた。本当にわずかな変化ではあったが、香子はそれを見逃さなかった。
四神は人に対して嫉妬するものだから、香子は少しだけ困ってしまう。
『今は夕玲が私の女官としていますが、一人だけではいろいろたいへんそうなのです。本来女官というのは常に私の側にいて時には話し相手や相談相手としてあらねばならぬ者ですから……』
『それは、そなたが我らと共にある時でもか?』
ニュアンスがわからなくて香子は首を傾げた。
『場面がよくわかりません。今のような食事時であれば白雲がいれば十分でしょうが……』
『そなたを抱く時だ』
ストレートに言われて香子は真っ赤になった。
『そ、そそそんな時はさすがにいません! あくまで私の手伝いとか、相談相手とかそういう立ち位置ですので!』
香子からすると女官というのは秘書のようなものである。香子のスケジュール管理をし、時には誰かに連絡をしたりと業務は多い。それでも香子は基本四神宮を出ないから夕玲はどうにかできているにすぎない。本来は皇太后や皇后のように何人も抱えているものだ。妾妃に関してはわからないが。
玄武は少し考えるような顔をしたが、白雲を見やった。きっと念話を飛ばしたに違いない。白雲はそのまま食堂を出て行った。四神宮の主官である趙文英に伝えにいってくれたのかもしれなかった。
(でも、言葉が足りなさすぎるんだよね)
四神は念話が使えるから当たり前のやりとりなのだろうが、それが香子に全く伝わっていないというのは問題だと香子は思うのだ。
『玄武様、今白雲は……』
『遣いにやった』
『女官の件ですよね?』
『そうだ』
『ありがとうございます』
前述したが、四神は人間に対してはとても嫉妬深い。特に男性に関してはひどいのだ。だからまず主官という言葉も使いたくなかったようだった。香子からしたら面倒な話ではあるが、四神に囚われるのも嫌ではなかった。
夕食後、いつも通り茶室でお茶をする。一杯目で満足そうに息を吐く。今日のこの、金木犀のお茶は格別であった。王城内に植えられている金木犀から摘まれたという花はとてもいい香りがする。まるで花の香に包まれているようで、香子は顔を綻ばせた。
『いい香り……』
うっとりと呟けば、香子以外に興味があまりない四神も改めて香りを嗅いでくれた。
『ふむ……香子はこの香りが好きなのか』
『秋の香りですよね。好きですけど、この時期だけ嗅げれば十分です』
玄武に言われたが香子は牽制した。ここで素直にはい、とっても好きです! なんて答えようものならどうにかして一年中香るようにされてしまいそうだったからだ。さすがに一年中嗅ぎたいとは思わない。こうしてお茶を飲んでいるぐらいで十分である。
『この香りを嗅いで、秋だなぁ~って浸るのがいいんですよ。好きは好きですけどずっと嗅いでいたいとは思いません』
『そういうものなのか』
玄武はすぐに引き下がった。香子はほっとした。まだいろいろ匙加減が難しい。四神の前で不用意な発言をしてしまうと後始末がたいへんである。
『玄武兄』
青龍が口を開いた。
『今宵は我も香子を抱きたいです』
香子はむせそうになるのをどうにか堪えた。正直は美徳ではあるが、口にすることではないと香子は思う。みるみるうちに顔が赤くなった。
『そなたと共に、であれば明日一日は床から出られぬだろう。香子、よいな』
(なんで抱かれるはずの私には一切聞いてくれないんですかねー。そりゃあ回復もさせてもらえるから抱かれた後の疲れとかは残らないけどぉー)
『……はい』
明日は特に何もなかったはずである。張錦飛が来るのは明後日だ。
玄武がそっと香子の頬に触れた。
『真っ赤だな。とてもおいしそうだ』
『~~~~~ッッ!?』
至近距離で顔を覗き込まれて、香子は心臓が止まるかと思った。それぐらい四神の顔は心臓に悪い。香子は口を尖らせた。
『玄武様は……いじわるです……』
『それは心外だな。我はこんなにもそなたを愛しているのに』
香子は嘆息した。どうせ四神にはかなわない。
『お手柔らかに、お願いします……』
特に予定もないので、今夜は逆らわないことにしたのだった。
香子は今頃になってもう一つの用件を伝えるのを忘れたことに気づいた。
夕飯の席である。青龍はあれから香子の身体に触れたが、もちろん抱くことはなかった。抱かれたら最後翌日の昼過ぎまで放してもらえなかったはずである。さすがに覚悟も決めていないのにそうなるのは、香子としては避けたかった。
『香子、如何した?』
玄武に声をかけられる。
『あ、いえ……老仏爺に伝え忘れたことがありまして……』
『伝えに参るか』
『いえ、急いではいません』
それに、と香子は思う。こういうことは本来香子が直接言うことではなく、延夕玲を通して言うことのような気がした。だがそれはそれで複雑だろうかとも香子は考える。誰に伝えたらいいものかと香子は毎回模索していた。
『何を伝えたかったのだ』
『女官をもう一人ぐらい派遣してもらおうかと』
玄武は眉をほんの少しだけ寄せた。本当にわずかな変化ではあったが、香子はそれを見逃さなかった。
四神は人に対して嫉妬するものだから、香子は少しだけ困ってしまう。
『今は夕玲が私の女官としていますが、一人だけではいろいろたいへんそうなのです。本来女官というのは常に私の側にいて時には話し相手や相談相手としてあらねばならぬ者ですから……』
『それは、そなたが我らと共にある時でもか?』
ニュアンスがわからなくて香子は首を傾げた。
『場面がよくわかりません。今のような食事時であれば白雲がいれば十分でしょうが……』
『そなたを抱く時だ』
ストレートに言われて香子は真っ赤になった。
『そ、そそそんな時はさすがにいません! あくまで私の手伝いとか、相談相手とかそういう立ち位置ですので!』
香子からすると女官というのは秘書のようなものである。香子のスケジュール管理をし、時には誰かに連絡をしたりと業務は多い。それでも香子は基本四神宮を出ないから夕玲はどうにかできているにすぎない。本来は皇太后や皇后のように何人も抱えているものだ。妾妃に関してはわからないが。
玄武は少し考えるような顔をしたが、白雲を見やった。きっと念話を飛ばしたに違いない。白雲はそのまま食堂を出て行った。四神宮の主官である趙文英に伝えにいってくれたのかもしれなかった。
(でも、言葉が足りなさすぎるんだよね)
四神は念話が使えるから当たり前のやりとりなのだろうが、それが香子に全く伝わっていないというのは問題だと香子は思うのだ。
『玄武様、今白雲は……』
『遣いにやった』
『女官の件ですよね?』
『そうだ』
『ありがとうございます』
前述したが、四神は人間に対してはとても嫉妬深い。特に男性に関してはひどいのだ。だからまず主官という言葉も使いたくなかったようだった。香子からしたら面倒な話ではあるが、四神に囚われるのも嫌ではなかった。
夕食後、いつも通り茶室でお茶をする。一杯目で満足そうに息を吐く。今日のこの、金木犀のお茶は格別であった。王城内に植えられている金木犀から摘まれたという花はとてもいい香りがする。まるで花の香に包まれているようで、香子は顔を綻ばせた。
『いい香り……』
うっとりと呟けば、香子以外に興味があまりない四神も改めて香りを嗅いでくれた。
『ふむ……香子はこの香りが好きなのか』
『秋の香りですよね。好きですけど、この時期だけ嗅げれば十分です』
玄武に言われたが香子は牽制した。ここで素直にはい、とっても好きです! なんて答えようものならどうにかして一年中香るようにされてしまいそうだったからだ。さすがに一年中嗅ぎたいとは思わない。こうしてお茶を飲んでいるぐらいで十分である。
『この香りを嗅いで、秋だなぁ~って浸るのがいいんですよ。好きは好きですけどずっと嗅いでいたいとは思いません』
『そういうものなのか』
玄武はすぐに引き下がった。香子はほっとした。まだいろいろ匙加減が難しい。四神の前で不用意な発言をしてしまうと後始末がたいへんである。
『玄武兄』
青龍が口を開いた。
『今宵は我も香子を抱きたいです』
香子はむせそうになるのをどうにか堪えた。正直は美徳ではあるが、口にすることではないと香子は思う。みるみるうちに顔が赤くなった。
『そなたと共に、であれば明日一日は床から出られぬだろう。香子、よいな』
(なんで抱かれるはずの私には一切聞いてくれないんですかねー。そりゃあ回復もさせてもらえるから抱かれた後の疲れとかは残らないけどぉー)
『……はい』
明日は特に何もなかったはずである。張錦飛が来るのは明後日だ。
玄武がそっと香子の頬に触れた。
『真っ赤だな。とてもおいしそうだ』
『~~~~~ッッ!?』
至近距離で顔を覗き込まれて、香子は心臓が止まるかと思った。それぐらい四神の顔は心臓に悪い。香子は口を尖らせた。
『玄武様は……いじわるです……』
『それは心外だな。我はこんなにもそなたを愛しているのに』
香子は嘆息した。どうせ四神にはかなわない。
『お手柔らかに、お願いします……』
特に予定もないので、今夜は逆らわないことにしたのだった。
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