11 / 653
第1部 四神と結婚しろと言われました
11.ありし日の思い出(朱雀視点の回想)
しおりを挟む
己の腕の中にすっぽりと収まる存在に朱雀はひどくご機嫌だった。染めているとはいえ、自分と同じ赤い髪をしている娘には親近感が湧いた。そして当然のことだろうが、赤が好きだと素直に答えたその娘を、朱雀は心から愛するだろうと予見する。
だがまずは玄武の次代を産んでもらうのが先であることも重々承知している。
玄武は千歳を数えた。いつ代替わりをしてもおかしくない歳であるのに玄武には次代がいない。
この娘の前に異世界から来た花嫁が、先代の青龍と共に身罷った為だった。
彼女は約六五0年前この世界に召喚されてきた。
彼女は漢民族であったが、その頃その国を治めていたのはモンゴル族という異民族であったという。少数の遊牧の民は大勢であるはずの漢民族を支配していた。
彼女はただの農民であったが、最後までモンゴル族に抵抗していた地域に祖先が住んでいた為にひどい圧政に苦しんでいた。
当時朱雀はまだ百歳になったばかりで、彼女に次代を産んでもらうような歳ではなかった。
彼女はおとなしい女性だった。
先代の白虎はその頃既に九00歳を迎え、次代が必要な年齢にさしかかっていた。元の世界でひどい暮らしを強いられてきた彼女は半ば奪われるようにして白虎を受け入れた。最初のうちは望まぬ結婚であったかもしれないが、長年暮らすうちに情が芽生えたのだろう。百年程して次代を産み落とし、その五0年後に白虎が身罷った時は身も世もなく泣き崩れた。
けれど次は先代の青龍が次代を必要としていた。先代の白虎が身罷った頃七00歳を迎えていた青龍は、彼女がこの世界に召喚されてきた時から想っていた。
哀しみに暮れる彼女を慰め、やがて青龍はほとんどの時間を共に過ごすようになった。青龍の次代はすぐには必要なかったせいか、朱雀が求めれば彼女はその柔らかい体を差し出してくれた。それにより朱雀も眷族を増やしてもらうことができた。
彼女は青龍と愛し合っていた。青龍の眷族を沢山産み、そして青龍が千歳の時次代を産み落とした。そこで彼女の心の均衡が崩れた。
次代を産めばそれから百年以内に夫は世界に溶け込んでしまう。
それなのに自分だけはまたこの世界に残される。
彼女の心が千々に乱れたことは想像に難くない。
青龍が身罷れば次は玄武の番である。
いつまでくり返せばいいのだろうと彼女は途方に暮れた。
その様子を、朱雀と玄武、そして次代の白虎も見守ることしかできなかった。
玄武は最初から彼女を諦めていた。だから青龍が身罷るであろう前に彼女に言った。
『ならば青龍と共に逝くか?』
彼女は涙を流した。
人間は強い。けれど、五00年近くも生きていくのは楽ではなかった。
彼女が召喚された頃生きていた者は既になく、あんなに愛し合った白虎も彼女を置いて逝ってしまった。
そして今度はまた夫である青龍が逝こうとしている。
『玄武様、ごめんなさい……。あたしもう疲れました……』
それに玄武は穏やかに笑んだ。
『人の身であるそなたに酷な人生を与えてしまった我々を、どうか許しておくれ』
その言葉に、朱雀は玄武が彼女を、静かにだが深く想っていたことを知った。
青龍と共に彼女はこの世を去った。
今から約一五0年前のことである。
そして今朱雀の腕の中にまた、異世界からの花嫁が収まっている。
この娘のこともきっと自分たちは泣かせてしまうのだろう。
けれどできることなら少しでも心穏やかに、この娘が少しでも多く笑って過ごせるようにしてやろうと思う。
その為には、この国すらも捨てることができるだろう。
だがまずは玄武の次代を産んでもらうのが先であることも重々承知している。
玄武は千歳を数えた。いつ代替わりをしてもおかしくない歳であるのに玄武には次代がいない。
この娘の前に異世界から来た花嫁が、先代の青龍と共に身罷った為だった。
彼女は約六五0年前この世界に召喚されてきた。
彼女は漢民族であったが、その頃その国を治めていたのはモンゴル族という異民族であったという。少数の遊牧の民は大勢であるはずの漢民族を支配していた。
彼女はただの農民であったが、最後までモンゴル族に抵抗していた地域に祖先が住んでいた為にひどい圧政に苦しんでいた。
当時朱雀はまだ百歳になったばかりで、彼女に次代を産んでもらうような歳ではなかった。
彼女はおとなしい女性だった。
先代の白虎はその頃既に九00歳を迎え、次代が必要な年齢にさしかかっていた。元の世界でひどい暮らしを強いられてきた彼女は半ば奪われるようにして白虎を受け入れた。最初のうちは望まぬ結婚であったかもしれないが、長年暮らすうちに情が芽生えたのだろう。百年程して次代を産み落とし、その五0年後に白虎が身罷った時は身も世もなく泣き崩れた。
けれど次は先代の青龍が次代を必要としていた。先代の白虎が身罷った頃七00歳を迎えていた青龍は、彼女がこの世界に召喚されてきた時から想っていた。
哀しみに暮れる彼女を慰め、やがて青龍はほとんどの時間を共に過ごすようになった。青龍の次代はすぐには必要なかったせいか、朱雀が求めれば彼女はその柔らかい体を差し出してくれた。それにより朱雀も眷族を増やしてもらうことができた。
彼女は青龍と愛し合っていた。青龍の眷族を沢山産み、そして青龍が千歳の時次代を産み落とした。そこで彼女の心の均衡が崩れた。
次代を産めばそれから百年以内に夫は世界に溶け込んでしまう。
それなのに自分だけはまたこの世界に残される。
彼女の心が千々に乱れたことは想像に難くない。
青龍が身罷れば次は玄武の番である。
いつまでくり返せばいいのだろうと彼女は途方に暮れた。
その様子を、朱雀と玄武、そして次代の白虎も見守ることしかできなかった。
玄武は最初から彼女を諦めていた。だから青龍が身罷るであろう前に彼女に言った。
『ならば青龍と共に逝くか?』
彼女は涙を流した。
人間は強い。けれど、五00年近くも生きていくのは楽ではなかった。
彼女が召喚された頃生きていた者は既になく、あんなに愛し合った白虎も彼女を置いて逝ってしまった。
そして今度はまた夫である青龍が逝こうとしている。
『玄武様、ごめんなさい……。あたしもう疲れました……』
それに玄武は穏やかに笑んだ。
『人の身であるそなたに酷な人生を与えてしまった我々を、どうか許しておくれ』
その言葉に、朱雀は玄武が彼女を、静かにだが深く想っていたことを知った。
青龍と共に彼女はこの世を去った。
今から約一五0年前のことである。
そして今朱雀の腕の中にまた、異世界からの花嫁が収まっている。
この娘のこともきっと自分たちは泣かせてしまうのだろう。
けれどできることなら少しでも心穏やかに、この娘が少しでも多く笑って過ごせるようにしてやろうと思う。
その為には、この国すらも捨てることができるだろう。
90
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる