95 / 653
第1部 四神と結婚しろと言われました
95.厄介事が多すぎる(趙、王の会話他)
しおりを挟む
お茶の準備の為に先を歩く趙文英と王英明も、声を潜めながら話していた。
彼らもこの景山には沢山の人間が配備されているのは理解している。だがこの禁域に勤める者は全て皇帝や中書令の息がかかっているし、敷地内に宿舎があるのでめったなことで表に出てくることはない。それだけ重要な場所であるのだが、それを知っている者は少ない。
だから先日香子が万春亭から景色を見て呟いた科白に彼らは驚いたのだ。
皇帝の血族もこの庭園に足を踏み入れることはあるが、基本は皇帝と共にかまたは許可を取らなければそう簡単に入ることはできない。だが血族であっても万春亭からの景色を正しく理解するものは少ないだろう。
『……厄介なことになりそうだ』
『しかし何故あのようなことを……』
王の科白に趙は眉を寄せた。香子が気づかなければそのままだったかもしれないが、果たして彼女は気づいてしまった。それ故にそれが侍女の独断であるということがわかり、侍女の出自も調べられた。その侍女は後宮にいる安妃の遠縁に当たる者だったと聞いた。
安妃は女児を一人産んでいる。最近はどうなっているのかわからないが、特に寵愛の深い妃ではなかったはずである。後宮にいる者の縁戚者が宮廷に多く勤めているのは周知の事実だが、四神の不興を買うようなことをしてただで済むと思っているのだろうか。
『皇帝を侮っているのか、それとも神への敬意を忘れているのか』
『なんと畏れ多い……』
『しかも既に噂は広がっている』
趙は目を見張った。
『馬鹿な……!』
噂の内容に思い至り、趙の顔が怒りで真っ赤になった。
『落ち着け。我らは四神と花嫁の関係を比較的正しく理解しているだろうが、他の者たちから見ればそうではないのだ』
『だが、白香様が四神以外に目を向けるなどありえないだろう……』
趙の科白に後ろに控えている侍女たちは心の中で大いに頷いた。趙と王の会話を聞く限り、皇帝に請われて香子が訪ねたことであらぬ噂が広がりつつあるらしい。
『ありえないと思うのは我らだからだ。邪推しようと思えばいくらでも邪推できる。近づいてくる者が増えるかもしれないが知らぬ存ぜぬを通せ』
『そうしよう』
王の言っていることが本当なら、四神宮に勤める侍女たちにも後宮の関係者が接触してくる危険性はある。
(花嫁様が皇帝に懸想するなんてありえないわ!)
侍女たちもまたお茶の準備をしながら内心ひどく憤っていた。
玄武に抱き上げられて恥ずかしそうに頬を染めている香子が、皇帝になど目を向けるはずがないと侍女たちは確信していた。どんな悪女を想像しているのか知らないが、実際の香子は四神に迫られて戸惑っているようにしか見えない。
顔を寄せる玄武を恥じらいながらも必死で押しのけようとする姿はなんとも愛らしく映った。
(後宮の女狐たちと花嫁様を一緒にしないでちょうだい!)
いつのまにか侍女たちが香子に対して庇護欲を持ち始めていることを、もちろん香子は全く知らないでいた。
その頃玄武は香子に言われるがまま、南国に生えているような植物が見える方へ足を進めていた。そしていつのまにかガラス張りの建物の中に足を踏み入れていた。
どうやらそこは温室のようである。
とはいっても暑いというかんじはなく、寒風から植物を遮る為に建物を作ったようだった。温室の中ほどに小さな四阿があり、そこに玄武は香子を抱いたまま腰を下ろした。
『この植物園って、どれぐらいの広さがあるんでしょうね?』
香子の言葉に玄武は笑んだ。
『見た目ほどの広さはあるまい。確かこの裏で珍しい動物も飼っているはずだ』
『はー……動物園まであるんだ……』
しかも皇帝の為だけに。
やはり大国の皇帝の庭園というのはスケールが違うと香子は思う。
『すごいですね……』
香子の呟きに玄武は複雑そうな顔をした。それに香子はおや? と思う。
また玄武は余計なことを考えているらしい。
『見たいか?』
『見たいことは見たいですよ。でも庶民なんで所有したいとは思いません』
そう言ってくるんとした目で見上げてきた香子を、玄武はやはり愛しいと思った。
彼らもこの景山には沢山の人間が配備されているのは理解している。だがこの禁域に勤める者は全て皇帝や中書令の息がかかっているし、敷地内に宿舎があるのでめったなことで表に出てくることはない。それだけ重要な場所であるのだが、それを知っている者は少ない。
だから先日香子が万春亭から景色を見て呟いた科白に彼らは驚いたのだ。
皇帝の血族もこの庭園に足を踏み入れることはあるが、基本は皇帝と共にかまたは許可を取らなければそう簡単に入ることはできない。だが血族であっても万春亭からの景色を正しく理解するものは少ないだろう。
『……厄介なことになりそうだ』
『しかし何故あのようなことを……』
王の科白に趙は眉を寄せた。香子が気づかなければそのままだったかもしれないが、果たして彼女は気づいてしまった。それ故にそれが侍女の独断であるということがわかり、侍女の出自も調べられた。その侍女は後宮にいる安妃の遠縁に当たる者だったと聞いた。
安妃は女児を一人産んでいる。最近はどうなっているのかわからないが、特に寵愛の深い妃ではなかったはずである。後宮にいる者の縁戚者が宮廷に多く勤めているのは周知の事実だが、四神の不興を買うようなことをしてただで済むと思っているのだろうか。
『皇帝を侮っているのか、それとも神への敬意を忘れているのか』
『なんと畏れ多い……』
『しかも既に噂は広がっている』
趙は目を見張った。
『馬鹿な……!』
噂の内容に思い至り、趙の顔が怒りで真っ赤になった。
『落ち着け。我らは四神と花嫁の関係を比較的正しく理解しているだろうが、他の者たちから見ればそうではないのだ』
『だが、白香様が四神以外に目を向けるなどありえないだろう……』
趙の科白に後ろに控えている侍女たちは心の中で大いに頷いた。趙と王の会話を聞く限り、皇帝に請われて香子が訪ねたことであらぬ噂が広がりつつあるらしい。
『ありえないと思うのは我らだからだ。邪推しようと思えばいくらでも邪推できる。近づいてくる者が増えるかもしれないが知らぬ存ぜぬを通せ』
『そうしよう』
王の言っていることが本当なら、四神宮に勤める侍女たちにも後宮の関係者が接触してくる危険性はある。
(花嫁様が皇帝に懸想するなんてありえないわ!)
侍女たちもまたお茶の準備をしながら内心ひどく憤っていた。
玄武に抱き上げられて恥ずかしそうに頬を染めている香子が、皇帝になど目を向けるはずがないと侍女たちは確信していた。どんな悪女を想像しているのか知らないが、実際の香子は四神に迫られて戸惑っているようにしか見えない。
顔を寄せる玄武を恥じらいながらも必死で押しのけようとする姿はなんとも愛らしく映った。
(後宮の女狐たちと花嫁様を一緒にしないでちょうだい!)
いつのまにか侍女たちが香子に対して庇護欲を持ち始めていることを、もちろん香子は全く知らないでいた。
その頃玄武は香子に言われるがまま、南国に生えているような植物が見える方へ足を進めていた。そしていつのまにかガラス張りの建物の中に足を踏み入れていた。
どうやらそこは温室のようである。
とはいっても暑いというかんじはなく、寒風から植物を遮る為に建物を作ったようだった。温室の中ほどに小さな四阿があり、そこに玄武は香子を抱いたまま腰を下ろした。
『この植物園って、どれぐらいの広さがあるんでしょうね?』
香子の言葉に玄武は笑んだ。
『見た目ほどの広さはあるまい。確かこの裏で珍しい動物も飼っているはずだ』
『はー……動物園まであるんだ……』
しかも皇帝の為だけに。
やはり大国の皇帝の庭園というのはスケールが違うと香子は思う。
『すごいですね……』
香子の呟きに玄武は複雑そうな顔をした。それに香子はおや? と思う。
また玄武は余計なことを考えているらしい。
『見たいか?』
『見たいことは見たいですよ。でも庶民なんで所有したいとは思いません』
そう言ってくるんとした目で見上げてきた香子を、玄武はやはり愛しいと思った。
54
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です
氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。
英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる