異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

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第1部 四神と結婚しろと言われました

125.身分とはなんでしょうか?

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 王英明に連れられてやってきたのは、かろうじて身なりを整えたと言わんばかりの中年のおじさんだった。屋台で作っていたというに相応しく皮膚が赤黒くなっている。火を使うからたいへんなのだろうなと香子は思った。
 おじさんはどうしたらいいのかわからないという風情で、促されるままに平伏した。

『屋台街で屋台を経営しているそうです。昨日の夕方、夜の仕込みをしようと家族が買物に行っている間に連れ去られてきたと申しております』

 王の説明におじさんは震えながら頷いた。
 香子はさすがに腹が立った。

『……それって誘拐じゃないですか』
『そのようだな』

 玄武がさらりと応える。
 おじさんとはいえ戻ってきたらいない、というのは家族にとってどれだけ心細いことだろう。それも昨日の夕方からといったら丸一日姿を消していることになる。

『……そのおじさんの家族に連絡は?』
『申し訳ありませんが、まだ……』
『すぐに連絡をとってください! 忙しいでしょうができたらこちらに来てもらってください。すぐに謝罪と賠償をしなくては……』

 香子の言葉に趙、王、おじさんがばっと顔を上げた。信じられないという表情をしている。
 香子はそれに眉をひそめ、玄武をみやった。
 玄武はきゅっと香子を愛おしげに抱きしめ直し、

『……そなたは優しいな』

 と呟いた。それに三神も頷き、眷族たちは静観している。

(だからなんかおかしなこと言ったー?)

 例えばこのおじさんに放浪癖があったにしろ、今回は間違いなく誘拐であると香子は認識している。
 いくら身分が高いからといってなんの罪もない国民を拉致していいわけがない。

『私何かおかしなこと言いました? その方は運悪く宮廷に連れて来られて料理することを強要されたわけですよね? 別になにか罪を犯したとかそういうわけではないですよね?』
『あ、当り前でい!』

 おじさんが怒鳴った。王が慌てておじさんの頭を押さえる。香子はそれを手で制した。

『なんの罪もない国民を勝手に誘拐して望まぬことを強要するのがこの国の皇族のやり方ですか? おそらく公主に謝らせるのは難しいとは思いますから、私から貴方に謝罪します。久しぶりに屋台の小吃シャオチー(店や屋台で食べる中華の一品料理のこと。点心や麺類、肉料理、炒飯等も含む)が食べられて私は嬉しかったですけど、本当にごめんなさい』

 香子が潔く謝罪する姿を四神は愛しくてならないというように見つめている。
 趙、王、おじさんはそれにぽかーんと口を空けた。
 だがその中で一番戻ってくるのが早かったのはおじさんだった。

『どちらさんか知らねぇが、オレが作ったのは口に合ったのかい?』

 それに香子は笑む。

『はい! できれば他の物も作ってもらいたいと思いました。煎餅ジエンビン(クレープ状の生地に卵と具材を乗せ包んで焼いたもの。屋台によって作り方は異なる)とか作れます?』
『あったりめぇよ! 他にもなんか食べてぇものがあればいくらでも作ってやるぜ!』
『ホントですか!?』

 香子が目を輝かせた。趙と王はどうしたらいいのかわからなくておろおろしている。本来香子の立場というのは場末の者が気軽に話しかけられるようなものではない。白雲はそんな二人の様子にそっと嘆息した。
 王に近寄り、

『この者の家族を連れて来るよう手配を』

 と言い渡す。それに王ははっとした。趙に後は頼むといい残すと急いで謁見の間から出ていった。

『おう! 嬢ちゃんは何が食べてぇんだ?』
『うーん……とりあえず食べたいのは炸醤面ジャージャーメンとか、担担面タンタンメン、あとは茶蛋(中華風味付けゆで卵)ですかね……あとは串とか!』
『材料さえありゃお安い御用だ! ……で、ところでそういう嬢ちゃんは何者だい?』

 気軽に口を利いてはいたがさすがに気になったらしい。
 後ろからそれに趙が答える。

『その方は、四神の花嫁様であらせられる』

 その科白におじさんは一気に青くなり、がたがたと震えだした。
 香子はそれに悪いことをしたなと思ったと同時に少し寂しさも感じた。
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