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第4部 四神を愛しなさいと言われました
66.元宵節(正月十五日)を迎えました
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正月十五は元宵節である。
この日を過ぎればいつも通りに戻る。(四神宮にはそれほど変化はない)
元宵節は提灯を飾り、元宵と呼ばれるスープに甘い団子が入ったものを食べたりする。香子は大学に通っていた頃一度だけこれを食べたことがあり、おいしかったという記憶があった。
お店にいっぱい積まれた団子を重さや何個、という単位で買い求め、寮の厨房で茹でて食べた。中身は基本小豆の餡子なのだが、さんざしや他の餡などいくつか種類はあった。
元宵節の次の日に店に行ったら、あんなに積まれていた団子が欠片もなかったことに香子は目を丸くしたことも思い出した。
そんな話を、香子は食べながら四神にした。
『そういうものではないのか』
朱雀が当たり前のように言うから、やはりそういうものなのかもしれない。香子は頷いた。
『友人は、元宵節の売れ残りが翌日にあると思っていたみたいで。売れ残りは安く売ってもらえないかと期待していたそうですよ。でも翌日に行ったら跡形もないから店員さんに聞いたんですって。過ぎたんだから売るわけないだろうって怒られたって言ってました』
あの友人は今でも元気だろうか。朝は全く起きられない人だったなと香子は思い出した。いろんな人と出会った。留学生は本当にいろいろで、半年分の生活費をもらってきたのに二か月足らずで使い切ってしまった友人や、ルームメイトにパスポートを売られてしまって困っていた人なんかもいた。(さすがにパスポートを売るのは犯罪だろう)
思い出したら笑えてきた。
『香子?』
『ごめんなさい。ついいろいろ思い出してしまって』
『楽しく過ごしていたのだな』
玄武に言われて香子は頷いた。
学生時代というのはそれだけで特別なものだ。こちらに来てからまだ一年も経っていないのだが、香子にはもうあれから何年も経っているように感じられた。感傷的になって、困ってしまう。
香子はお団子を掬って食べ、『あちっ』と声を上げた。
でもおいしい。これはこの時だけの楽しみである。
『正月も過ぎましたね……』
甘い汁を飲んでから香子は呟いた。玄武が反応した。
『そうだな』
香子はやりたいことがいくつかあった。
まず青龍の領地へ向かいたいということと、紅児の結婚式である。白虎の領地も見に行きたいことは見に行きたいが泊まりはいただけない。まだ香子は白虎と二人きりで夜を過ごす自信はなかった。白虎に抱かれる時は白虎は本性を現す。虎の姿で抱かれるには、朱雀の力が必要だった。
『そろそろ青龍様の領地へ見学に行きたいと思うのですが、如何でしょうか?』
『……いいだろう。知らせておこう』
青龍は一瞬目を泳がせたが、同意した。
『向かうのは……早くて三日後だな』
『え? ああ、そうですね。向こうの準備もありますよね』
正月明けすぐに向かうのも失礼だったかと香子も反省したが、そういうことではなかったらしい。
『準備など、眷属たちが喜んで整えるだろうから問題はない』
『そういうものですか?』
『ああ、問題は我が領地へ跳ぶ為の力の譲渡が必要なぐらいだ』
あ、とようやく香子は思い出した。そういえば朱雀の領地へ向かう前にも玄武と朱雀に丸一日床から出してもらえなかったのである。
(どうして私、忘れていたんだろう……)
喉元過ぎれば熱さを忘れるではないが、朱雀の領地に行ったらとても楽しかったので、不都合な記憶には蓋をしてしまったようだった。
『そ、そういえばそうでしたね……』
香子の背をだらだらと冷汗が伝う。できればなかったことにしてしまいたいと香子は思う。しかしここで、それならやーめたと言うわけにもいかない。
(私の馬鹿ああああああ)
『え、ええと……その青龍様の領地へ向かわれるのは……』
『そうだな。玄武兄、朱雀兄、どうかついてきてはいただけませんか?』
『よいのか?』
『わかった』
玄武は自分にまで声をかけられたのが意外だったらしい。確かに青龍の助けだけならば朱雀がいれば事足りるが、青龍は頷いた。
『朱雀兄がいらっしゃれば問題ないかとは思いますが、初めて香子を領地に招きますので些か不安もあります。どうか我が暴走するようなことがあれば止めていただければと』
(暴走!? 今青龍様暴走って言った?)
冷汗が止まらない。青龍は香子を領地に招いた際の己の感情の動きが想像できないようだった。確かにテンションアゲアゲになって香子を離さなくなってしまったりしたら困る。
『確かにその危険性はありそうだ。では我の領地には一番最後に招くことにしよう』
白虎までそんなことを言う。ということは、青龍の領地へ向かった後は玄武の領地へ向かうことになるのだろうかと香子は考えた。
その前に紅児と紅夏の結婚式はしてしまいたいのだが。
『……では我らで力の譲渡をしてもらわねばならぬな』
朱雀が色を含んだ眼差しを香子に向ける。香子はその視線に、一瞬で陥落した。元より香子が四神に勝つすべなどあろうはずもない。
『くっ……あ、でも……皇帝への連絡とか……』
『言ってこよう』
『ええええ』
どうしてこういう時だけ異様にフットワークが軽いのだと香子も思ってしまう。朱雀は一瞬で跳び、そう経たないうちに『伝えてきたぞ』と戻ってきた。おそらく一方的に用件だけ言ってきたのだろうなと香子は頭が痛くなるのを感じた。
『青藍』
青龍の後ろに控えている青藍に声をかけた。
『承知しました』
青藍は香子の意図を汲んでくれたようである。香子はほっとした。
『……また長い時間、ですよね?』
『そうなるな』
『でしたら、とにかく沢山食べさせてください』
『わかった。では夕餉は豪華に。それでよいな』
『はい……』
玄武に言われ、香子はもう頷くことしかできなかった。
ーーーーー
※「力の譲渡」については、第四部8話辺りを参照してください。
エールとっても嬉しいです。ありがとうございまーす!
この日を過ぎればいつも通りに戻る。(四神宮にはそれほど変化はない)
元宵節は提灯を飾り、元宵と呼ばれるスープに甘い団子が入ったものを食べたりする。香子は大学に通っていた頃一度だけこれを食べたことがあり、おいしかったという記憶があった。
お店にいっぱい積まれた団子を重さや何個、という単位で買い求め、寮の厨房で茹でて食べた。中身は基本小豆の餡子なのだが、さんざしや他の餡などいくつか種類はあった。
元宵節の次の日に店に行ったら、あんなに積まれていた団子が欠片もなかったことに香子は目を丸くしたことも思い出した。
そんな話を、香子は食べながら四神にした。
『そういうものではないのか』
朱雀が当たり前のように言うから、やはりそういうものなのかもしれない。香子は頷いた。
『友人は、元宵節の売れ残りが翌日にあると思っていたみたいで。売れ残りは安く売ってもらえないかと期待していたそうですよ。でも翌日に行ったら跡形もないから店員さんに聞いたんですって。過ぎたんだから売るわけないだろうって怒られたって言ってました』
あの友人は今でも元気だろうか。朝は全く起きられない人だったなと香子は思い出した。いろんな人と出会った。留学生は本当にいろいろで、半年分の生活費をもらってきたのに二か月足らずで使い切ってしまった友人や、ルームメイトにパスポートを売られてしまって困っていた人なんかもいた。(さすがにパスポートを売るのは犯罪だろう)
思い出したら笑えてきた。
『香子?』
『ごめんなさい。ついいろいろ思い出してしまって』
『楽しく過ごしていたのだな』
玄武に言われて香子は頷いた。
学生時代というのはそれだけで特別なものだ。こちらに来てからまだ一年も経っていないのだが、香子にはもうあれから何年も経っているように感じられた。感傷的になって、困ってしまう。
香子はお団子を掬って食べ、『あちっ』と声を上げた。
でもおいしい。これはこの時だけの楽しみである。
『正月も過ぎましたね……』
甘い汁を飲んでから香子は呟いた。玄武が反応した。
『そうだな』
香子はやりたいことがいくつかあった。
まず青龍の領地へ向かいたいということと、紅児の結婚式である。白虎の領地も見に行きたいことは見に行きたいが泊まりはいただけない。まだ香子は白虎と二人きりで夜を過ごす自信はなかった。白虎に抱かれる時は白虎は本性を現す。虎の姿で抱かれるには、朱雀の力が必要だった。
『そろそろ青龍様の領地へ見学に行きたいと思うのですが、如何でしょうか?』
『……いいだろう。知らせておこう』
青龍は一瞬目を泳がせたが、同意した。
『向かうのは……早くて三日後だな』
『え? ああ、そうですね。向こうの準備もありますよね』
正月明けすぐに向かうのも失礼だったかと香子も反省したが、そういうことではなかったらしい。
『準備など、眷属たちが喜んで整えるだろうから問題はない』
『そういうものですか?』
『ああ、問題は我が領地へ跳ぶ為の力の譲渡が必要なぐらいだ』
あ、とようやく香子は思い出した。そういえば朱雀の領地へ向かう前にも玄武と朱雀に丸一日床から出してもらえなかったのである。
(どうして私、忘れていたんだろう……)
喉元過ぎれば熱さを忘れるではないが、朱雀の領地に行ったらとても楽しかったので、不都合な記憶には蓋をしてしまったようだった。
『そ、そういえばそうでしたね……』
香子の背をだらだらと冷汗が伝う。できればなかったことにしてしまいたいと香子は思う。しかしここで、それならやーめたと言うわけにもいかない。
(私の馬鹿ああああああ)
『え、ええと……その青龍様の領地へ向かわれるのは……』
『そうだな。玄武兄、朱雀兄、どうかついてきてはいただけませんか?』
『よいのか?』
『わかった』
玄武は自分にまで声をかけられたのが意外だったらしい。確かに青龍の助けだけならば朱雀がいれば事足りるが、青龍は頷いた。
『朱雀兄がいらっしゃれば問題ないかとは思いますが、初めて香子を領地に招きますので些か不安もあります。どうか我が暴走するようなことがあれば止めていただければと』
(暴走!? 今青龍様暴走って言った?)
冷汗が止まらない。青龍は香子を領地に招いた際の己の感情の動きが想像できないようだった。確かにテンションアゲアゲになって香子を離さなくなってしまったりしたら困る。
『確かにその危険性はありそうだ。では我の領地には一番最後に招くことにしよう』
白虎までそんなことを言う。ということは、青龍の領地へ向かった後は玄武の領地へ向かうことになるのだろうかと香子は考えた。
その前に紅児と紅夏の結婚式はしてしまいたいのだが。
『……では我らで力の譲渡をしてもらわねばならぬな』
朱雀が色を含んだ眼差しを香子に向ける。香子はその視線に、一瞬で陥落した。元より香子が四神に勝つすべなどあろうはずもない。
『くっ……あ、でも……皇帝への連絡とか……』
『言ってこよう』
『ええええ』
どうしてこういう時だけ異様にフットワークが軽いのだと香子も思ってしまう。朱雀は一瞬で跳び、そう経たないうちに『伝えてきたぞ』と戻ってきた。おそらく一方的に用件だけ言ってきたのだろうなと香子は頭が痛くなるのを感じた。
『青藍』
青龍の後ろに控えている青藍に声をかけた。
『承知しました』
青藍は香子の意図を汲んでくれたようである。香子はほっとした。
『……また長い時間、ですよね?』
『そうなるな』
『でしたら、とにかく沢山食べさせてください』
『わかった。では夕餉は豪華に。それでよいな』
『はい……』
玄武に言われ、香子はもう頷くことしかできなかった。
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※「力の譲渡」については、第四部8話辺りを参照してください。
エールとっても嬉しいです。ありがとうございまーす!
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