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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました

3.守るべきもの(黒月視点)

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 玄武の室から玄武と朱雀が出てきた時、黒月は無表情の下で違和感を覚えた。みなが寝静まっている時間ならともかく、二神が出てくるならば香子が一緒のはずである。それだけでなく花嫁以外の前ではあまり表情の動かない四神が困ったような表情をしていた。

『おそれながら……』

 思わず声をかけた時、玄武の科白に遮られた。

『黒月、香子に着いていてやってくれ』

 やはり香子は玄武の室の中にいるらしい。

『承知しました』

 応えて黒月は玄武の室に足を踏み入れる。居間にその姿がないことを確認し寝室に足を踏み入れる。
 大きな寝台が目に飛び込んでくる。その寝台の上に香子が横たわっているのが見えた。

『花嫁様……?』

 香子は扉の方ではなく壁側に顔を向けていた為、寝ているのか起きているのかわからず黒月はそっと声をかけた。

『黒月さん……?』
『はい』

 香子からいらえがあって黒月はほっとしたが、その声に力がないことを感じる。

『……おなかすきました……』

 次の科白に力がない理由はわかったが、香子に何も食べさせない状態で一人にしたことに疑問も感じた。

『では厨房に確認して参りましょう』

 踵を返そうとすると香子は『……ここにいてください』とも言う。香子の希望をどうしたら叶えられるだろうと黒月は一瞬考えた。

 おそらく今玄武の室の前には警備の為に紅夏か青藍がいるはずである。いなければまた考えればいい。

『わかりました、少々お待ちを』

 そう言って寝室を出、居間から表に続く扉をほんの少しだけ開いた。はたして表には紅夏がいた。
 黒月は紅夏に香子の食事の用意を厨房に頼むように言い、後ほど白雲にもこちらへ来てもらえるようにお願いしてほしいと頼んだ。急いで寝室に戻ると香子は先程のままだった。

『ただいま戻りました』

 そう言って寝室の扉の前に立つ。玄武の室には全体的に悪しき者が入ってこないように結界が張られてはいたが念の為である。
 少しして香子が身じろぎする。

『……お茶を、もらえますか?』

 おっくうそうに寝返りを打ち、やっと香子は黒月を見た。黒月は卓子テーブルに置かれた大きな急須に近寄りそっと触れた。

『……ぬるいですが、よろしいでしょうか』
『かまいません』

 茶杯にお茶を注ぎ、香子が体を起こすのを手伝う。体一つ起こすのもつらそうに見えたのにまた疑問が浮かぶ。
 香子はそんな黒月の様子に気づかず、『ありがとうございます』とお礼を言ってはんなりと笑んだ。そして無言でお茶をゆっくり飲み、そのうつわが空になったところでほうっとため息をついた。

『私……いえ……花嫁って、いったいなんなのでしょう……』
『花嫁様?』

 香子の呟きになんだか切ない響きを感じる。
 やはり二神となにかあったのだろうかと黒月は思う。

『いえ……四神の花嫁って……四神の言うことをなんでも聞かなければいけないのかな、とか……なんだかよくわからなくなってしまって……』

 どこからその思考に至ったのかわからない以上どうこう言うことはできないと黒月は思う。

『僭越ながら、そう思われた経緯を教えていただければと思います』

 黒月の言葉に香子はほっとしたような表情をした。そして起きてから四神を寝室から追い出すまでのことを話す。
 黒月はまだ成人していないので性行為についてはあまりよく知らない。まして朱雀の熱については想像することもできなかった。だが熱を与えられると翌朝なかなか起きられないということだけはわかった。だから香子は熱を受けたくない、だが朱雀は性行為中は熱を与えたいという。そこから花嫁は四神の言うことを聞かなければいけないのかという疑問を持ったようだった。
 しかしその前に黒月には疑問があった。

『朱雀様は花嫁様の回復をされないのですか?』
『……できるんだけど、なんか……舐めないと回復できないって言われて……』

 香子が恥ずかしそうに告げた内容に黒月は眉をひそめた。そんなことは初耳である。

(花嫁様が特別なのか? それとも……)

 話をしているうちに居間の向こうから朝食が届いたことを告げる紅夏の声が聞こえてきた。
 黒月はひとまず香子を抱き上げ、居間に連れていくことにした。
 居間の椅子に香子を腰掛けさせ扉を開く。
 見慣れた顔の侍女たちが料理を運んでき、手際良く居間の卓子に並べた。

『わぁ……今日もおいしそう……』

 その表情は笑んでいたがやはり声に力がない。黒月は室の表に控えている紅夏に、白雲にできるだけ早くきてもらえるようにと再度頼んだ。
 香子の側に戻ると、香子が縋るような目で黒月を見つめた。

『黒月さん、朝食は?』
『いただきました』
『そうですか……』

 そう残念そうに言った香子は、その朝思ったよりも食べなかった。
 そんな香子の様子に黒月は、初めて二神にほんの少し腹を立てた。
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