160 / 565
第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
6.愛しむ形(白虎視点)
しおりを挟む
起き出して白雲の入れたそれほどうまくもない茶を飲んでいると、その白雲が戻ってきた。相変わらずの無表情だが、なんだかそこに嬉しそうな雰囲気を感じ取って白虎はいぶかしく思う。
白雲は痴話喧嘩の収拾をしに行ったのではなかったか。
「如何か―」
「白虎様、本日は花嫁様とお過ごしくださりますよう」
―したのか、と聞こうとした言葉はいつになく遮られた。しかも予想だにしなかったことを言われて白虎は眉をひそめる。
「……それは香子の意思か?」
白虎は白雲が強引であることをよく知っている。口を挟むつもりはないがどうも四神宮の侍女頭を手籠めにしたらしいということもわかっていた。
「はい」
白雲はきっぱりと答えたがあやしいものである。とはいえそういうことになってしまったというなら白虎としては異存はない。迎えに行く為に立ち上がると、やはりというか普段ではありえない程の甲斐甲斐しさで白雲は白虎の長袍の襟元などを整えた。
香子の支度もあるのだろう。白雲のしたいようにさせてから白虎はゆうるりと室を出る。そして残りの三神に今日は己が香子と過ごすことになったということを念話で伝えた。
牛歩と言われそうなほどゆっくりと歩き香子の部屋の前までくると、黒月が扉を開けた。果たしてそこに着飾られた香子の姿があった。
衣装はいつもとそれほど変わらず赤を基調としたものであったが、その髪にささる簪は月光石と金をメインにしたものが主だった。白虎と過ごすということで侍女たちがはりきって用意したに違いない。着飾らせられて幾分ぐったりとしている体の香子の様子がまた対照的で白虎は口元に笑みを浮かべた。
「香子」
「白虎さま……」
香子は少し困ったような顔をしていた。
さもありなん、と白虎は思う。先程白虎の支度をしながら白雲が、二神が何故香子に叩きだされたのかを話していたので要因はわかっていた。
「あの……ごめんなさい、私……」
「香子が謝ることではない」
本来花嫁が四神に遠慮する必要はないのだ。もちろん四神である白虎らも同様である。
白虎は香子の隣に腰掛けた。そして香子を抱き寄せる。
「我ではあまりうまくいかぬかもしれぬが……」
そう呟いてうなじの辺りを白虎は撫でる。そのまま背中に撫で下ろし腰の辺りまで擦るようにした。
「……あっ……!」
その手の動きに何か感じたのか香子がびくん、と身を震わせる。そして、
「…………あれ?」
香子は少し白虎を押し返す形で椅子に座りなおした。
「多少は楽になったか?」
「あ……はい、とても楽になりました……。ありがとうございます」
本来香子を疲れさせたのは己ではない為回復がうまくいかないかもしれないとの懸念はあったが、白虎のそれでどうにかなったらしい。
香子は少し考えるような顔をして首を傾げた。おそらく何故朱雀があんなことを言ったのかと考えているのだろう。
「あの……」
香子が白虎の方に向き直って何事かを言おうとするのを遮る。
「朱雀兄の考えまでは我には読めぬ。気になるならば直接聞けばよかろう」
おおよその理由はわからないでもないが、それは白虎が話してよいことでもない。
「……わかりました。明日聞きます」
香子の返事に白虎はおや? と片眉を上げる。このまま問い詰めに行って仲直りをしてくれてもそれはそれでよかった。
「明日でよいのか?」
と聞き返すと香子はきょとんとした。
「え……だって今日は一日白虎様と過ごしますから」
「…………そうだな」
これが素なのだから困ってしまう。白虎は苦笑し、香子を抱えて立ち上がった。
「何かしたいことはあるか?」
そう聞くと香子は目を丸くした。そしてすぐに破顔する。
「えっと……四神宮の庭でお茶がしたいです!」
「……ではそうしよう」
玄武や朱雀の気持ちはわかる。白虎ももし香子を抱いたなら四六時中抱きあいたくなるに違いない。
だが今しばらくは香子の逃げ場でいたいとも思う。他の三神よりも一番独占欲が強いのは間違いなく己であるはずだから。
白雲は痴話喧嘩の収拾をしに行ったのではなかったか。
「如何か―」
「白虎様、本日は花嫁様とお過ごしくださりますよう」
―したのか、と聞こうとした言葉はいつになく遮られた。しかも予想だにしなかったことを言われて白虎は眉をひそめる。
「……それは香子の意思か?」
白虎は白雲が強引であることをよく知っている。口を挟むつもりはないがどうも四神宮の侍女頭を手籠めにしたらしいということもわかっていた。
「はい」
白雲はきっぱりと答えたがあやしいものである。とはいえそういうことになってしまったというなら白虎としては異存はない。迎えに行く為に立ち上がると、やはりというか普段ではありえない程の甲斐甲斐しさで白雲は白虎の長袍の襟元などを整えた。
香子の支度もあるのだろう。白雲のしたいようにさせてから白虎はゆうるりと室を出る。そして残りの三神に今日は己が香子と過ごすことになったということを念話で伝えた。
牛歩と言われそうなほどゆっくりと歩き香子の部屋の前までくると、黒月が扉を開けた。果たしてそこに着飾られた香子の姿があった。
衣装はいつもとそれほど変わらず赤を基調としたものであったが、その髪にささる簪は月光石と金をメインにしたものが主だった。白虎と過ごすということで侍女たちがはりきって用意したに違いない。着飾らせられて幾分ぐったりとしている体の香子の様子がまた対照的で白虎は口元に笑みを浮かべた。
「香子」
「白虎さま……」
香子は少し困ったような顔をしていた。
さもありなん、と白虎は思う。先程白虎の支度をしながら白雲が、二神が何故香子に叩きだされたのかを話していたので要因はわかっていた。
「あの……ごめんなさい、私……」
「香子が謝ることではない」
本来花嫁が四神に遠慮する必要はないのだ。もちろん四神である白虎らも同様である。
白虎は香子の隣に腰掛けた。そして香子を抱き寄せる。
「我ではあまりうまくいかぬかもしれぬが……」
そう呟いてうなじの辺りを白虎は撫でる。そのまま背中に撫で下ろし腰の辺りまで擦るようにした。
「……あっ……!」
その手の動きに何か感じたのか香子がびくん、と身を震わせる。そして、
「…………あれ?」
香子は少し白虎を押し返す形で椅子に座りなおした。
「多少は楽になったか?」
「あ……はい、とても楽になりました……。ありがとうございます」
本来香子を疲れさせたのは己ではない為回復がうまくいかないかもしれないとの懸念はあったが、白虎のそれでどうにかなったらしい。
香子は少し考えるような顔をして首を傾げた。おそらく何故朱雀があんなことを言ったのかと考えているのだろう。
「あの……」
香子が白虎の方に向き直って何事かを言おうとするのを遮る。
「朱雀兄の考えまでは我には読めぬ。気になるならば直接聞けばよかろう」
おおよその理由はわからないでもないが、それは白虎が話してよいことでもない。
「……わかりました。明日聞きます」
香子の返事に白虎はおや? と片眉を上げる。このまま問い詰めに行って仲直りをしてくれてもそれはそれでよかった。
「明日でよいのか?」
と聞き返すと香子はきょとんとした。
「え……だって今日は一日白虎様と過ごしますから」
「…………そうだな」
これが素なのだから困ってしまう。白虎は苦笑し、香子を抱えて立ち上がった。
「何かしたいことはあるか?」
そう聞くと香子は目を丸くした。そしてすぐに破顔する。
「えっと……四神宮の庭でお茶がしたいです!」
「……ではそうしよう」
玄武や朱雀の気持ちはわかる。白虎ももし香子を抱いたなら四六時中抱きあいたくなるに違いない。
だが今しばらくは香子の逃げ場でいたいとも思う。他の三神よりも一番独占欲が強いのは間違いなく己であるはずだから。
応援ありがとうございます!
11
お気に入りに追加
3,964
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる