上 下
231 / 564
第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました

77.休ませてはくれないようです

しおりを挟む
 あれから玄武の室に運ばれた夕食を、香子は青龍と共にものすごい勢いで平らげた。
 玄武は優しい目で彼らを眺めながら多少摘まむぐらいだったが、青龍は”空腹”という状態がよほど新鮮だったらしく厨師コックが驚くほど旺盛に食べた。香子もまたいつになく食べたようである。

『ふー……』

 やっと落ち着いたらしく香子がお茶を淹れる。

『もう夜なんですよね』
『そうだ』

 香子の呟きに玄武が応えた。

『大事ないか』
『大丈夫です』

 そう答えれば一旦部屋に戻された。茶室に集まることにしたらしい。さすがに着替えなければいけないのでそこで侍女たちに託された。

『なんてみずみずしい……』

 香子の肌に触れた侍女がうっとりとしたように呟くのを聞いて、そういえばそんな話もあったことを香子は思い出した。なんとなく自分の腕に触れる。全く引っかかりのない滑らかな感触に香子は思わずにまにました。お肌がぷるんぷるんである。

『花嫁様はどんどん美しくなられますね』

 侍女たちに嬉しそうに言われ香子は頬を染めた。このように侍女たちが軽口を叩けるのも香子の人柄あってのことだ。基本侍女は主の許しなく口をきいてはいけないものである。だが身支度を整える間は延夕玲も居間で控えているので咎める者はいない。
 香子の肌は最初こちらに来た時と比べ白くもちもちして、いつまでも触っていたいような気持ちよさだ。そこまで綺麗な肌に白粉をたたくのももったいないので化粧をされるのは目元と口元ぐらいである。
 着替えの際全身に散らばるキスマークを見ても侍女たちも動じない。香子がそれだけ四神に愛されている証拠である。
 青龍に抱かれたことはみなに伝わっていたから、侍女たちは銅緑色が更に白くなったような白緑びゃくろくの衣装を香子に着せた。黄緑ではない白っぽい緑色は香子の髪の色に負けてしまうがへたに濃い色よりはいいのかもしれなかった。鮮やかな暗紫紅色ワインレッドの長い髪はサイドを残して結い上げられ簪などのちょっとした飾りを添えられる。本来ならばもっと大ぶりの飾りをつけられるそうなのだが香子が難色を示した為こういう形に落ち着いた。
 美しく装われた香子を青龍が待っていた。表情がほとんど動かない青龍が今は優しい笑みを浮かべ香子を抱き上げる。緑色の長髪の美形に守られるように抱かれる香子。まるでそれは一幅の画のようだった。
 彼らが茶室へ移動した後、夕玲と侍女たちは思わずほおっと息を吐いた。

 どんなに疲れていてもお茶は自分で淹れたいと香子は思う。
 回復してもらったようで身体は全く疲れていない。精神的にも……思い出すだけでそこらへんをごろごろ転がりたい程の羞恥に見舞われるがそれほど参ってはいない。疲れを覚えるとしたら現在のシチュエーションぐらいである。
 テーブルの前に四神が行儀よく腰かけている図などそうそう見られるものではない。しかもみなタイプは違うがイケメンである。お茶を配り香子も茶杯に口をつけた。この瞬間が一番ほっとする。

『これからのことだが、香子シャンズは日中白虎と過ごすように』

 決定事項として玄武に言われ、香子は目を白黒させた。

(どこの亭主関白なの)
『白虎様とだけ、ですか?』

 それはもしかして夜は毎晩三神を相手しろということだろうか。香子は冷汗をかいた。

『主に、だな。香子が我と過ごしたいと言うならそれはそれでかまわぬ』

 朱雀がからかい混じりに補足する。香子は少し考えるような顔をした。

『うーん……どなたと過ごすか、ということは私が決めてもいいのでしょうか? 夜も含めて』

 軽く首を傾げて尋ねると四神は笑みを浮かべた。美形のスマイルに香子は思わずうっと詰まる。

『閨の相手をそなたが決めるのはかまわぬが、我らは忍耐を知らぬ。あまり偏るようであれば襲ってしまうかもしれぬのう』

 朱雀の色を含んだ眼差しに香子は身震いした。

『……脅迫ですか』
『人聞きの悪い。我らはそなたが愛しくてならないだけだ』

 香子は嘆息した。四神の愛が非常に重いことなどよくわかっている。

『……わかりました。閨のことはお任せします。でも、翌日予定がある場合は潰さなくてすむように考えてください』

 三日に一度、張錦飛に”書”を習うのを香子は楽しみにしている。それを邪魔したら許さないという決意をこめて、香子は四神に挑むような目を向けた。

『あいわかった』

 朱雀が苦笑しながら応じる。香子はもちろん朱雀のことも好きだが、ほっておくと暴走する危険性が一番高いのは彼だと思っていた。なので朱雀から返事をもらえたのにはほっとする。そして当初の目的を思い出した。

『ええと……これで大祭には出られるのですよね?』
『ああ』
『そうだ』

 朱雀と青龍がしぶしぶという体で応える。ここで駄目だと言われたら泣き叫んで暴れてやると香子は思っていた。そうならなかったことに胸をなでおろす。

『じゃあ、老佛爷にも早く伝えないと……』
『僭越ながら。趙に伝えてまいります』
『あ、ハイ。お願いします』

 控えていた白雲に目配せする。本当は皇帝に伝えなければならないのだがあえて皇太后の名を出した。人間の男を話題として出すだけでも四神はひどく嫉妬するのだ。張錦飛に関してはしかたないと思えるようだが今が男盛りの皇帝や四神宮主官の趙文英、中書省との連絡係の王英明などはアウトである。香子がそれにやっと気づいたのはごく最近で、正直面倒くさいと思っているが諦めてもいる。
 四神はそういうものなのだ。
 もちろん原因は四神だけではなく不安定なせいで無駄に色気を振りまいている香子にもあるのだが、知らぬは当人ばかりである。
 白雲が戻ってくるのを待ち、趙からの返事を聞くと、

『もうよいな?』

 朱雀が笑みを浮かべてお開きにする。そしておもむろに香子を抱き上げた。

『え……っ?』
『今宵は玄武兄と共に愛してやろう。青龍はかかる時間が長すぎる故毎晩というわけにもいかぬ。青龍よ、異存ないか』
『ありませぬ』

 香子に説明しながら青龍に了解を得る。

『えっ、あのっ……今夜もするのですか……?』

 さすがに今夜ぐらい一人になりたいと香子は思っていたがそうは問屋が卸さなかった。

『身体はつらくないだろう』
『それは……そうですけど……』

 回復はしてもらっているようなので疲れは特にない。しかしごりごりと削られるメンタルの方はいかんともしがたい。

『……今宵は蕩けるほど抱いてやろう』

 耳元で囁かれる甘いテナーに香子はふるりと震えた。いい声にも耐性が低い彼女が踏ん張れるはずもなく、入浴後玄武と朱雀においしくいただかれてしまったのだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ポチは今日から社長秘書です

BL / 連載中 24h.ポイント:205pt お気に入り:631

鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,002pt お気に入り:160

獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:2,479pt お気に入り:1,245

異世界迷宮のスナイパー《転生弓士》アルファ版

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:584

【R18】エンドレス~ペドフィリアの娯楽~

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:1,725pt お気に入り:19

前世魔性の女と呼ばれた私

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:1,149

処理中です...