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第4部 四神を愛しなさいと言われました
154.どうしてここに来るのか意味がわかりません
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香子が皇太后に招かれた先は御花園の中にある比較的大きな四阿である。
白虎が香子を抱き上げ、玄武、白雲、黒月、延夕玲、楊芳芳と侍女たちが付き従った。
いつも大所帯だなぁと香子は思っているが、こういうものだからしかたない。白虎に抱かれたまま御花園に向かうと、皇太后と皇后、そして何故か皇帝までもが待っていた。
その姿を見て、香子はうげっと思った。
春の陽気である。優しい風が吹いている中、香子は不機嫌だった。
何故皇太后とのお茶会に邪魔者(皇帝)がいるのかと。
『……花嫁には随分と嫌われたものだ』
皇帝は苦笑した。
『ほ、ほ……花嫁様、此度はこの老人の顔に免じてお許しくださいませ』
皇太后がそう言って笑う。
『……いえ、私の態度が悪いのはご容赦ください』
皇帝が嫌だという感情はどうにもならないので、香子はきっぱりと答えた。何故か皇后が恐縮している様子なのが気にかかったが、それは香子が考えることではないと割り切った。
皇太后の隣に香子を抱いた白虎が腰掛ける。席順は石の円卓に、時計回りに皇太后、白虎(と香子)、玄武、一つ席が空いて皇帝、皇后である。
侍女たちがお茶の準備を整えた。今回も香子の好きな菓子が用意されていた。
『花嫁様は玄武様の領地へ向かわれたと聞きましたぞ』
『はい、参りました』
皇太后に聞かれて、香子は正直に答えた。
『妾の記憶が正しければ、これで四神全ての領地の視察にいらしたと思うのですが……いかがですかな?』
『その通りです』
今回用意された緑茶も絶品だった。やはりお茶はいいと香子は思う。
(黄山毛峰かな……茶葉が全部立ってるし)
蓋椀でお茶を出されたので、蓋をそっと開けて香子は茶葉を確認していた。黄山毛峰というお茶は全て茶葉が垂直に立つので、「茶柱いっぱいー!」などと友人たちと言い合っていたことを香子は思い出した。
(まだ一年ちょっとしか経ってないのに)
あの頃がすでにはるか遠くに感じられて、香子はほんの少しだけ切なくなった。
『香子、如何した?』
香子の微妙な気持ちの揺れに気付いたのか、白虎が聞く。香子はそれを少しくすぐったく感じた。
『なんでもないですよ?』
そう、香子は感傷的になっているだけで、なんともないと自分では思っている。
皇太后はお茶を啜ると、香子を見た。
『……花嫁はどちらへ嫁ぐか決められたのか?』
口を開いたのは皇帝だった。香子は眉を寄せた。
『……あとひと月ほど四神宮に滞在させてもらってから、お伝えします』
香子はにっこりして答えた。
『すでに決めているのであれば、移動した方がいいのではないか?』
『移動の時期は私が決めていいのですよね? 四神に嫁いでからもしばらく四神宮に留まった花嫁はいたはずですわ』
『……朕は知らぬが……』
『玄武様、四神の記憶の中にはあるのですよね?』
『……ある。そなたたちからすれば昔のこととなろう。我が直接知っているわけではないが、四、五代前の花嫁は、当時の王が死ぬまで四神宮にとどまったはずだ』
皇帝はそれを聞いて顔をひきつらせた。そんなに滞在されたらたまらないのだろうと香子は思う。
香子もそこまで四神宮にいたいとは思っていない。ただちょっと、一年間と区切られたら気持ちが落ち着かなかったのは確かだった。
『……花嫁は朕が死ぬまでここにいるつもりか?』
『いいえ』
香子は首を振った。
『以前の花嫁が何を思っていたのかは存じません。私はただ、どなたの元へ向かうかという時期は私に決めさせてほしいのです』
『それが一月後というわけか』
『はい。本当はもっと滞在したいのですが、それ以上は四神も許してくれそうにはないので』
香子はさらりと答えた。四神も相当我慢しているということは香子もわかっている。それでもいろいろな人に挨拶はしたいし、四神宮の女官や侍女たちと離れるのも寂しいと思った。
『……ならばよい』
そんな偉そうに言われるようなことでもないんじゃないのかと香子は思ったが、口には出さなかった。香子は皇帝が嫌いなのでしょうがない。
王城に着いた日、”小娘”と言われたこともそうだが、皇后を冷遇していたことも香子は許せなかった。
確かに皇帝の世継ぎは必要だから、皇后だけでなく側室が何人もいるのは理解している。だがそれと皇后を蔑ろにすることは別問題である。
例え皇后に対して愛はなくても、国母として尊重はすべきなのだ。
きちんと皇帝が皇后に対して向き合ってさえいれば、皇后は香子にちょっかいを出そうなどとは考えなかったはずである。
『中座をお許しください。執務があるのでここで失礼させていただく』
皇帝はそう言って席を立った。香子はにっこりし、ひらひらと手を振った。早くあっちへ行けというように。
『はは……花嫁は相変わらず手厳しい』
皇帝は苦笑し、供の者を連れて四阿を出て行った。
フン、と香子は鼻を鳴らした。とても失礼だし、これが香子でなければ木の棒で臀部を打つ笞刑に処せられてしまうかもしれない。
だが四神の花嫁を罰することなど人にはできない。だからこその香子の不遜なのである。
『花嫁様、お手柔らかに願います』
皇太后に言われて、香子は『失礼しました』と素直に頭を下げた。
皇太后が香子とお茶をすると聞いて、皇帝が横槍を入れてきたらしいが、帰ったのでそれでいいと香子は思う。
やっと本来のお茶会ができそうだと、香子は内心嘆息したのだった。
ーーーーー
四、五代前の花嫁については、小説家になろうに投稿している「花嫁は笑わない~傾国異聞~」を参照のこと。
外部url登録してあります。
そのうちこちらにも加筆修正して転載しようかな。
白虎が香子を抱き上げ、玄武、白雲、黒月、延夕玲、楊芳芳と侍女たちが付き従った。
いつも大所帯だなぁと香子は思っているが、こういうものだからしかたない。白虎に抱かれたまま御花園に向かうと、皇太后と皇后、そして何故か皇帝までもが待っていた。
その姿を見て、香子はうげっと思った。
春の陽気である。優しい風が吹いている中、香子は不機嫌だった。
何故皇太后とのお茶会に邪魔者(皇帝)がいるのかと。
『……花嫁には随分と嫌われたものだ』
皇帝は苦笑した。
『ほ、ほ……花嫁様、此度はこの老人の顔に免じてお許しくださいませ』
皇太后がそう言って笑う。
『……いえ、私の態度が悪いのはご容赦ください』
皇帝が嫌だという感情はどうにもならないので、香子はきっぱりと答えた。何故か皇后が恐縮している様子なのが気にかかったが、それは香子が考えることではないと割り切った。
皇太后の隣に香子を抱いた白虎が腰掛ける。席順は石の円卓に、時計回りに皇太后、白虎(と香子)、玄武、一つ席が空いて皇帝、皇后である。
侍女たちがお茶の準備を整えた。今回も香子の好きな菓子が用意されていた。
『花嫁様は玄武様の領地へ向かわれたと聞きましたぞ』
『はい、参りました』
皇太后に聞かれて、香子は正直に答えた。
『妾の記憶が正しければ、これで四神全ての領地の視察にいらしたと思うのですが……いかがですかな?』
『その通りです』
今回用意された緑茶も絶品だった。やはりお茶はいいと香子は思う。
(黄山毛峰かな……茶葉が全部立ってるし)
蓋椀でお茶を出されたので、蓋をそっと開けて香子は茶葉を確認していた。黄山毛峰というお茶は全て茶葉が垂直に立つので、「茶柱いっぱいー!」などと友人たちと言い合っていたことを香子は思い出した。
(まだ一年ちょっとしか経ってないのに)
あの頃がすでにはるか遠くに感じられて、香子はほんの少しだけ切なくなった。
『香子、如何した?』
香子の微妙な気持ちの揺れに気付いたのか、白虎が聞く。香子はそれを少しくすぐったく感じた。
『なんでもないですよ?』
そう、香子は感傷的になっているだけで、なんともないと自分では思っている。
皇太后はお茶を啜ると、香子を見た。
『……花嫁はどちらへ嫁ぐか決められたのか?』
口を開いたのは皇帝だった。香子は眉を寄せた。
『……あとひと月ほど四神宮に滞在させてもらってから、お伝えします』
香子はにっこりして答えた。
『すでに決めているのであれば、移動した方がいいのではないか?』
『移動の時期は私が決めていいのですよね? 四神に嫁いでからもしばらく四神宮に留まった花嫁はいたはずですわ』
『……朕は知らぬが……』
『玄武様、四神の記憶の中にはあるのですよね?』
『……ある。そなたたちからすれば昔のこととなろう。我が直接知っているわけではないが、四、五代前の花嫁は、当時の王が死ぬまで四神宮にとどまったはずだ』
皇帝はそれを聞いて顔をひきつらせた。そんなに滞在されたらたまらないのだろうと香子は思う。
香子もそこまで四神宮にいたいとは思っていない。ただちょっと、一年間と区切られたら気持ちが落ち着かなかったのは確かだった。
『……花嫁は朕が死ぬまでここにいるつもりか?』
『いいえ』
香子は首を振った。
『以前の花嫁が何を思っていたのかは存じません。私はただ、どなたの元へ向かうかという時期は私に決めさせてほしいのです』
『それが一月後というわけか』
『はい。本当はもっと滞在したいのですが、それ以上は四神も許してくれそうにはないので』
香子はさらりと答えた。四神も相当我慢しているということは香子もわかっている。それでもいろいろな人に挨拶はしたいし、四神宮の女官や侍女たちと離れるのも寂しいと思った。
『……ならばよい』
そんな偉そうに言われるようなことでもないんじゃないのかと香子は思ったが、口には出さなかった。香子は皇帝が嫌いなのでしょうがない。
王城に着いた日、”小娘”と言われたこともそうだが、皇后を冷遇していたことも香子は許せなかった。
確かに皇帝の世継ぎは必要だから、皇后だけでなく側室が何人もいるのは理解している。だがそれと皇后を蔑ろにすることは別問題である。
例え皇后に対して愛はなくても、国母として尊重はすべきなのだ。
きちんと皇帝が皇后に対して向き合ってさえいれば、皇后は香子にちょっかいを出そうなどとは考えなかったはずである。
『中座をお許しください。執務があるのでここで失礼させていただく』
皇帝はそう言って席を立った。香子はにっこりし、ひらひらと手を振った。早くあっちへ行けというように。
『はは……花嫁は相変わらず手厳しい』
皇帝は苦笑し、供の者を連れて四阿を出て行った。
フン、と香子は鼻を鳴らした。とても失礼だし、これが香子でなければ木の棒で臀部を打つ笞刑に処せられてしまうかもしれない。
だが四神の花嫁を罰することなど人にはできない。だからこその香子の不遜なのである。
『花嫁様、お手柔らかに願います』
皇太后に言われて、香子は『失礼しました』と素直に頭を下げた。
皇太后が香子とお茶をすると聞いて、皇帝が横槍を入れてきたらしいが、帰ったのでそれでいいと香子は思う。
やっと本来のお茶会ができそうだと、香子は内心嘆息したのだった。
ーーーーー
四、五代前の花嫁については、小説家になろうに投稿している「花嫁は笑わない~傾国異聞~」を参照のこと。
外部url登録してあります。
そのうちこちらにも加筆修正して転載しようかな。
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